―あんた、今度の休みには帰って来なさいよ。もう何年帰って来てないと思っているの!―
仕事から帰ると、留守番電話に実家のお袋からの伝言。
そういえば、自分の思いから逃げるように東京の大学に進学し、そのままこっちで就職して…。
もう5年になるだろうか…。
その間、なんだかんだ理由をつけて実家に帰っていないのだから、お袋が業を煮やしてこんな電話をかけてくるのも無理もない。
それにしてもあいつは今、どうしているんだろうか…。
あいつとの思い出の品は、全部実家に置いてきたから、手元には写真が1枚しかない。
満面の笑顔でピースサインを出しているあいつが写っているその写真は、俺がどうしても置いてこれなかった思いの表れ。
いまだに忘れられない、過去にできない気持ちの象徴のようだ…。
「夏休みになったら帰るか…。あいつと顔をあわせなければいいんだもんな…」
自分を納得させるような呟きが、1人暮らしの部屋にむなしく響いた。