Vばら 

ある少女漫画を元に、エッセーと創作を書きました。原作者様および出版社とは一切関係はありません。

最高の締めくくり方

2015-07-14 00:59:30 | つぶやき

 10代の頃はオスカルとアンドレの戦死によって、大きなヤマ場を迎える「ベルばら」を「なんて悲しいストーリーだろう。」と思っていた。けれど大人になって読み返すと、「オスカルもアンドレも、それぞれの人生を最高の締めくくり方で完結させた。」と感じるようになり、あれ以外の結末は考えられなくなった。

 いつの日か、おまえのために命を捨てよう---この誓いどおり、アンドレは最後までオスカルのそばから離れず、彼女を守り通して果てた。出動前夜にようやくオスカルと結ばれた時から、もう彼には何の悔いもなく、いつ死んでも惜しくない気持ちだったのではないだろうか?もとよりオスカルと結婚できるなどと思っていなかった。ただ相思相愛になったのだから、からだを重ねてみたい---そんなごく自然な感情が日に日に募っていった。結婚という社会的な形式はともかく、死ぬ前に一度でいいから愛する人と一つになりたい。それが果たせた今、彼にはもう何も悔いはなかった。あとは愛する人を戦場で守り抜くだけ。

 「出動」命令が下った時から、今回の出動がこれまで経験してきたいかなる戦いともまったく異なるであろうことは、二人とも暗黙のうちに了解していたはず。特にオスカルは、いよいよ自分の生き方を試される重要な決断を下さなければならない瞬間が迫っていることを、感じ取っていた。1つは軍人としてフランスの未来のため、自分が果たさなければならない任務について、もう1つはアンドレの妻になることについて。オスカル自身はもう、気持ちは決まっていたと思う。ただ今まで経験したことのない局面を前にして、「臆病者」にならぬよう、アンドレにそばにいてほしいと懇願している。

 オスカルが民衆側につき戦死したことは、両親特に母親にこれ以上ない悲しみを与えてしまった。けれどオスカル自身は自分の生き方をまったく悔いていない。今読み返しても、あれ以外の命の締めくくり方が考えられない。不穏なフランス情勢を前に、両親の想いを汲んで、彼女にふさわしい身分の男性と結婚し、軍人をやめたとしたら、フェルゼンへの切ない気持ちをぐっと胸に収め、軍服姿で彼と向き合わざるを得なかった日々は何だったのか?だったら最初からフェルゼンの前でドレスを着て、女性として出会うこともできたのに。世間の情勢を見て、自分の生き方もそれに合わせて安全な道を選ぶようなオスカルではない。

 そう考えると彼女の命の捨て場は、やはりあの7月14日、バスティーユ攻撃以外にありえない気がする。バスティーユに白旗が揚がるのを見て「フランス万歳」と呟きこの世を去る。もし彼女があのまま生き永らえたなら、多くの流血を流してようやく達成したフランス革命が、やがて恐怖政治時代に入り、かつて自分が愛したフェルゼンが、国王一家の逃亡の手引き役を率先して務めたり、愛をこめて仕えたロココの女王が断頭台の露と消える姿を見届けなければならなくなる。そんな事態を見ずに、フランス革命が一番輝かしく実現できた瞬間に息絶えたオスカルは、最高の命の締めくくりができたのではないか?吐血はどんどん症状が重くなり、アンドレはやがて完全失明に至る。そんな事態に至る前に、二人とも自分の信念を貫き通し散っていった。見事である。今ではそんなことを感じながら、原作を読んでいる。そして天の国で二人は身分制度から解放され、健康な体を取り戻し、少し遅れてやってきたばあやたちと共に、幸せな日々を過ごしている---そんなふうに考えるこのごろである。

 読んでくださり、ありがとうございます。



25 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは (marine)
2015-07-14 23:12:57
アンドレが旅立ち、オスカルも本懐を遂げて、全ての手枷足枷から解放され身分の上下もない天の国へ旅立って行きましたね。

アニメの志垣太郎さんの声はアンドレのイメージに合っていたと思うのですが、原作のアンドレが紡ぐ美しい愛の言葉があまり使われていなかったように思います。千の誓いがいるか~や、時はめぐりめぐるとも~など(無かったですよね?)、聞いてみたかったです。
2人は、どこに眠っているのでしょうね?ジャルジェ家から、こっそりと一緒に葬ってもらったのでしょうか?王家にとっては謀反人だから、あまりおおっぴらにお葬式はできませんものね。
それでも、りら様の書かれたように、2人にとってこれ以外の最期はなかったと私も思います。美しく散っていったと。
アニメはアニメで良いんですが、他の方も仰ってましたが、オスカルの最期、何故バスティーユが落ちるところを見せてあげなかったんでしょうね。鳩(?)に目をとられてる隙にとか、悲しすぎますよ。それでもまた明日見ちゃうんですけどね。

いつか、子供の手が離れ、経済的にも余裕ができたら、去年のりら様のように、ベルばらを辿る旅なぞしてみたいです。
ついでと言ってはなんですが、レーゲンスブルクも…。
返信する
marineさま (りら)
2015-07-15 00:06:56
 コメントをありがとうございます。アニメは、もう少し原作に忠実に作っても良かったかなぁと思う場面がいくつかあります。

>千の誓いがいるか~や、時はめぐりめぐるとも~など(無かったですよね?)、聞いてみたかったです。

 原作では父の成敗のあと、ようやく愛を告白する名場面中の名場面が、アニばらではまったく描かれてなくて、とても残念でした。あの場面、ぜひ志垣さんと田島さんの声で聞いて見たかったですよね。どうしてカットしてしまったんだろう?

>2人は、どこに眠っているのでしょうね?
 
 2年前の秋、NHKで「ベルばらジオ」という番組が放送されましたが、marineさまはお聞きになりましたか?池田先生が生出演され、ファンからの質問に答えるコーナーがありました。その中でちょうどこれと同じ質問があり、先生は「さぁ、どこでしょうねぇ。それを言っちゃうと、ファンの方たちがどっと押し寄せるので---。」と曖昧にぼかしておられました。読者の想像に委ねるということでしょうか。

>それでもまた明日見ちゃうんですけどね。
 
 わかります、その気持ち。私も同じです。アニばらは、男性目線で脚本が描かれているなあと感じます。

 べルばらをたどる旅---実現させるまでに20年近くかかってしまいました。ずっと「行きたい、行きたい。」と思いつつ、べルばら熱が下がった時期もありました。けれど自分自身のあれこれ、世の中の情勢などを考えた時、行けるときに行っておかないと--と思い決心しました。実際にその場に立って感じる空気ってありますね。marineさまもぜひ行くことができるよう、願っています。レーゲンスブルクもいいですね。夢がどんどん広がります。
返信する
知りませんでした (marine)
2015-07-15 08:21:03
お返事ありがとうございます。
2年前はベルばら熱がおさまってる頃だったので、そんな番組があったのを後で知りました。日本の俳優さんでキャスティングすると、などを投票したりしたのですよね?是非聴いてみたかったです。
やはり、先生は意図的に描かれなかったのですね。
でもきっと2人一緒、ですよね。
返信する
marineさま (りら)
2015-07-15 21:21:28
 コメントをありがとうございます。

>でもきっと2人一緒、ですよね。

 オスカルは息を引き取る間際、ロザリーに「どうか私たちを 一緒に 私たちは夫婦になったのだから」と言っています。私たちを一緒に葬ってほしいというオスカル最後の願いでしょうね。もうこれ以上身分等の理由で、引き裂かれるのはごめんだと。ロザリーのことですから、きっとベルナールと協力して(この時、アランは意識を失っていましたね。)二人を一緒にしてあげたと思います。このあたり、ファンはいろいろ想像しますね。
返信する
こんばんは! (みぃ)
2015-07-16 00:07:10
この数日、色々な思いが浮かびました。
私は国王一家のその後より、民衆が貴族狩り、貴族?王党派?と密告しあい、処刑が日常的になって見物して歓声をあげる…そんな社会を見てほしくなかったです。“自由・平等・友愛”の為に立ち上がったのに!

“ベルばらジオ”懐かしいですね。キャスティングに参加しました。後日、NHKのHPに、ロザリーに堀北真希さんを押した私のコメントが載って、嬉しかったです。「おどおどしていた少女が洗練されていく。思わず守ってあげたくなるイメージ…」
当時雑誌に連載されていた“ベルばら手帳”とのコラボ?企画だったので、雑誌記事はHPに載ったキャスティングやコメントは無視!に近く…編集者の独断!?悲しかったです。
返信する
みぃさま (りら)
2015-07-16 00:34:20
 コメントをありがとうございます。

>処刑が日常的になって見物して歓声をあげる…そんな社会を見てほしくなかったです。

 私もみぃさまに同感です。いったい何のため、多くの人々の尊い命を犠牲にしてまで、革命を達成したのか?当初の狙いとずれていったフランスの現状は、オスカルやアンドレには見てほしくないです。

 「ベルばらジオ」のNHK HPに、みぃさまのコメントが載ったのですね!スゴイ!今もまだ、読めるでしょうか?あの番組は2時間枠で、前半は評論家のYさんと、男性がトークしたり音楽を流したりしました。後半に池田先生が登場。俄然番組が面白くなりました。だったら最初から池田先生が登場し、たくさんお話していただいたほうが、リスナーは喜んだと思います。(少なくとも私は)もう一度、池田先生のお話がたくさん聞ける番組を、放送してくれるといいなあと思います。

返信する
りらさま (みぃ)
2015-07-16 12:21:08
もう読めません。本当に短い間の掲載でした。
以前ほどの視聴率は無いといっても、大河ドラマの影響を再認識するキャスティングでした。
ラジオも、やーっと先生が登場したと思ったら、すぐに先生はここまで~す!でも、終了まで残ってお話ししてくださってうれしかったことを覚えています。
返信する
みぃさま (りら)
2015-07-16 15:31:30
 コメントをありがとうございます。「ベルばらジオ」では、アンドレを演じてもらいたい俳優さんのNo.1が西島秀俊さんでしたね。当時、大河ドラマ「八重の桜」に出演されていた影響も大きかったですね。
 
 池田先生は既に次の新作エピソード執筆に着手されているとか。こんどは誰をメインに据えるのでしょうね?ロザリー?そして明後日はA5のクリファイルが付くマーガレット発売日です。
返信する
初めまして (mugi)
2015-07-16 21:37:44
こんばんは。

 週刊誌連載中からベルばらを見ていた者です。当時私はまだ小学生でしたが、もう40年以上も経っているので、齢は想像できますよね(笑)。この頃の私はオスカルに夢中でしたが、中学校以降は別の漫画が好きになり、ベルばらから遠ざかってしまいました。
 しかし、「NHKアーカイブス/ベルばら 40年ぶりの新刊」の再放送を見てベルばらを読み直し、改めて素晴らしい漫画だと感じました。そしてネット検索したら、こちらがヒットした次第です。

>オスカルもアンドレも、それぞれの人生を最高の締めくくり方で完結させた。

 私もこれに完全に同意します。連載中から何となくオスカルは死んでしまうのではないか…と思っていましたが、その通りになりました。オスカルの死に号泣しましたね。尤もオスカルとアンドレは戦死しなかったとしても、その後は大変だったでしょう。オスカルは結核を
患っていたし、余命は長くない。
 奇跡的に回復したとしても、革命では粛清が吹き荒れ、オスカルは反革命分子として断頭台送りになる可能性もあります。彼女のことだから理想から外れ行く革命政府を批判したはず。ならば、7月14日で昇天した方が遥かによかったと思います。

「出動」直前、オスカルがばあやに「愛しているよ、ばあや。いつまでも…限りなく」というシーン、読み返してみると意味深でした。この時点でジャルジェ家に戻らない決意をしていたと思います。
返信する
mugiさま (りら)
2015-07-17 01:28:02
 初めまして。そしてコメントをありがとうございます。連載開始から40年以上経った今でも、魅力が褪せない「ベルばら」。そして10代の頃には気づかなかったけれど、今だからわかることもたくさんありますよね。2人の死が「人生最高の締めくくり方」と思えるようになったのは、年を重ねたここ最近です。mugiさまは10代の頃、オスカルの死を、泣いて悲しんだのですね。当時、そういう少女たちが、全国にたくさんいたはず。とてもピュアだったのですね。そういう漫画に10代で出会えたことは、とても幸せでしたね。

>奇跡的に回復したとしても、革命では粛清が吹き荒れ、オスカルは反革命分子として断頭台送りになる可能性もあります。

 それは十分あり得ますね。断頭台に立つオスカルの姿は、誰も見たくないはず。ならば7月14日のフランス革命偉業の日に、自分の信念を曲げずに戦い、命を落とす設定のほうがはるかにドラマチックです。

>この時点でジャルジェ家に戻らない決意をしていたと思います。
 
 長い間描かれるのを拒んでいた肖像画を、へっぽこ画家に依頼したあたりから、いずれ自分はこの家から離れていくだろうことを予感していた気がします。そのときの餞別として、肖像画を描かせたのではないかと。

 こんなブログですが、今後ともよろしくお願いいたします。
返信する

コメントを投稿