読書と映画をめぐるプロムナード

読書、映画に関する感想、啓示を受けたこと、派生して考えたことなどを、勉強しながら綴っています。

切り取られた世界への愛おしさ、「アジアンタムブルー」(大崎善生著/2002年)

2010-03-18 03:36:38 | 本;小説一般
<主な登場人物>
山崎隆二(33、月刊「エレクト」の編集者)、続木葉子(水溜りばかり撮る写真家)、ユーカ(SMの女王)、高木(風俗記者、35)、沢井速雄(文人出版の上司)、五十嵐(文人出版の先輩)、石津美津子(東京藝大油絵科を目指す隆二の高校の一年先輩)、中川宏美(デパートの屋上で出会う未亡人)、笠井信二(中学の同級生)、フレデリック(タクシー運転手、32)、ミシェル(ニースのコンドミニアム「ル・シャンピオン」のオーナー)、青山(A新聞論説員)

~葉子を癌で失ってからというもの、僕はいつもデパートの屋上で空を見上げていた―。万引きを犯し、衆人の前で手酷く痛めつけられた中学の時の心の傷、高校の先輩女性との官能的な体験、不倫による心中で夫を亡くした女性との不思議な縁、ファンの心を癒すSMの女王…。主人公・山崎が巡りあった心優しき人々と、南仏ニースでの葉子との最後の日々。青春文学の名作『パイロットフィッシュ』につづく、慟哭の恋愛小説。~(「BOOK」データベースより)


私にとって著者の作品は、「ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶」(2005年)、「九月の四分の一」(2003年)「ディスカスの飼い方」(2009年)に続く四作目になります。小説家としては2001年の「パイロットフィッシュ」がデビューですから、本作は二作目の小説に位置します。

まずアジアンタムとアジアンタムブルーについて次のように解説されています。

~“アジアンタム”とはシダ科の観葉植物。涼しげにハート型の葉を揺らすその姿は若い女性に人気だが、枯れはじめると手の施しようがない、そんな繊細さを持つ。その状態は“アジアンタムブルー”と呼ばれるが、ごくまれにその“憂鬱”を抜けだし、再び青々とした葉を茂らせることがあるという。~(角川映画オフィシャルサイトより)



そして、このアジアンタムブルーについて、隆二がデパートの屋上で出会った中川宏美と次のような会話が交わされます。

「憂鬱の中から生まれてくる優しさ」
「憂鬱の中から?」
「そう。その中からしか生まれてこない、苦しみもがきながら、身をよじるように、身体の一部分がねじきれるような痛みの中からしか手にすることのできない優しさ」
「私も?」
「そう、君も。それを手にするためにこんなに苦しんでいる。でももしそれを手にするすることができれば、この苦しみは無駄にならない。そうだろう」

僕が宏美の目を見ると、彼女は静かに俯いた。そこで会話が途切れた。宏美は黙り込んでギネスを飲み、メンソールの煙草を吸った。店は若者たちで賑わい始めていた。

「アジアンタムブルーを乗り越えた株だけが、冬を越え、活き活きと生きてゆく。そうなればこっちのもので、その後は二度とアジアンタムブルーは訪れない」
「そう?」
「これは死んだ彼女の言葉そのまま」

この物語は、次のような年の出来事をベースに構築されています。
1971年の春(中学一年生のときの笠井との犯罪)
1974の夏(高校一年の夏、美津子の官能的な誘惑)
1988年の3月(葉子との出会い)
1991年、現在


ところで、私は全く知りませんでしたが、本作は藤田明二監督が2007年に映画化しているんですね。キャストは、山崎隆二:阿部寛、続木葉子:松下奈緒、五十嵐:村田雄浩、沢井速雄:小日向文世の俳優陣。是非観てみたいと思います。


そしてこの映画の主題歌がデルタ・グッドレムの「FLAWED~埋まらないパズル」。

<Delta Goodrem - Flawed (Official Video)>
http://www.youtube.com/watch?v=rvOTllzzaH4&feature=related

大崎さんの作品に欠かせないのが1960年~70年代を中心にしたロック。それは、ロックそのものをモチーフにした次の作品があり、原風景を彩っています。

「報わざるエリシオのために」・・・・ビートルズ「イフ・アイ・フェル」
「ケンジントンに捧げる花束」・・・・ローリング・ストーンズ「ルビー・チューズデイ」
「悲しくて翼もなくて」・・・・レッド・ツェッペリン「ロックン・ロール」
「九月の四分の一」・・・・アバ「ダンシング・クイーン」

「九月の四分の一」の続編である「ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶」では、アバの「ダンシング・クイーン」からポリスの「メッセージ・イン・ア・ボトル」に変わります。そして、「ディスカスの飼い方」ではレッド・ツェッペリンの「レイン・ソング」が物語を流れ、本作では次のような曲が記憶に中で息づいています。

スティング;
<Sting-Bring on the night(live at Seagaia in Japan)>(1986)
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=1G9P5Z9DDvs

<Every Breath You Take- Sting & The Police>(1986)
http://www.youtube.com/watch?v=cEnJDaqT3-0


キース・ジャレット;~フェイシング・ユー「Facing You」 (1971)~
<Keith Jarrett - In Front>
http://www.youtube.com/watch?v=fBU6PZEXq5w&feature=PlayList&p=DB9AA3DE79C63266&index=1

<Keith Jarrett Ritooria>
http://www.youtube.com/watch?v=sBZeukgebMU&feature=PlayList&p=DB9AA3DE79C63266&index=0&playnext=1


レッド・ツェッペリンLed Zeppelin
<Led Zeppelin、Whole Lotta Love>(1969)
http://www.youtube.com/watch?v=bXKboDqiSbE


キング・クリムゾン (King Crimson)
<King Crimson、Epitaph(墓碑銘)>(1976)
http://www.youtube.com/watch?v=Hiw1gg76nzQ


エルトン・ジョン「僕の歌は君の歌」(1970)
<Elton John、Your Song>
http://www.youtube.com/watch?v=cWl0svyTpV0&feature=related


<備忘録>
永遠という概念(P40)、ユーカ(P194)、性器と水溜り(P119-20)、ヨーロッパとSM(P179)、死への飛行(P257)、テロリストになって(P261)


(関連記事)
<ロックとポップスが流れる珠玉のラブストーリー「九月の四分の一」(大崎善生著/新潮文庫)>(2007-12-20)
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/aa7dc6a284c863c16e690f5a9d0696cd

<四人の女性の切ない恋の行方と、「ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶」(大崎善生著/新潮社)>(2007-12-30)
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/89fb9c5a1a5254bc5ce36b6bc57554ac

<熱帯魚に魅せられた男の恋愛小説、「ディスカスの飼い方」(大崎善生著/2009年)>(2009-8-27)
http://blog.goo.ne.jp/asongotoh/e/41b08e10bdab69a28f74c5ccbd5b4308


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2 コメント

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正気ですか!? (モンテスキュー)
2010-03-21 16:46:54

ウワァァァーーーー!!!!( ̄□ ̄;)
家に帰って封筒開けたら10万入ってたよ!!汗

てか俺、オ ッ パ イもみもみしてチ ン ポ コはめただけっすよ!?
セレヴの金銭感覚って完全に狂ってんよ!!笑

Unknown (http://yaplog.jp/okjbgbj/)
2013-01-22 21:45:17
なるほど

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