青春的活力

青春的活力

広がる調べをも

2017-05-18 10:57:38 | 日記

斜面に、ぼんやりした赤い光を投げかけるなか、神Neo skin lab 騙秘的な不毛の巨大な山峰が、常に西の空を背景にそびえたっているのだった。荒涼とした山頂を、南極の猛烈な恐るべき突風がときおり吹き抜けるが、その断続的な吹きかたのリズムには、ときとして、広範囲にって、何か潜在意識の記憶に基づくような理由から、わたしには不安でかすかに恐ろしいとさえ思える、なかば知覚力のある荒あらしい魔笛を漠然とほのめかすものがあった。目にするものの何かが、ニコライ・レーリヒの異様で心騒がせられるアジアの風景画と、狂えるアラブ人アブドゥル・アルハザードの恐るべき『ネクロノミコン』に繰返しあらわれる、邪悪な伝説のつきまとう、レン平原のさらに異様で心騒がせられる描写とを、わたしに思いださせるのだった。あとになってからのことだが、わたしは大学の図書館であのすさまじい書物に目を通していたことを、心から晦むようになった。
 十一月七日、わたしたちがフランクリン島を通過するとき、山脈の姿が一時的に見えなくなった。そして翌日、エレバス山とロス島のテラ山の火山錐が、はるか彼方《かなた》のパリー山脈の稜線《りょうせん》とともに、前方遠くに望めた。いまでは東方に低い白の列をつくって、ケベックの岩壁のように高さ二百フィートにまで垂直にそびえ、南に向かう航海の終わりを告げる巨大な氷の壁が、果しなく広がっていた。わたしたちは午後にマクマード入江に入り、噴煙をあげるエレバス山の風下側の沖合を進んだ。火山|岩滓《がんし》からなる頂《いただき》は、日本の聖なる富士山の版画のように、東の空を背景に二千七百フィートの高さにそびえている一方、その向こうには、標高一万九百フィートに達する、もはや火山活動を停止したテラ山が、その白い不気味な姿をあらわしていた。
 エレバス山がときおり噴煙をあげるが、大学院生の助手のひとり――ダンフォースという聡明な若者――は、雪に覆われた斜面上の溶岩らしきものを指し示して、一八四〇年に発見されたこの山こそ、ポオがその七年後に詩でうたったイメージの源にちがいないといった。
 
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――間断なくうねる溶岩
その硫黄《いおう》の流れはヤアネックをくだり
極地の最果《いやはて》の風土にあっては――
ヤアネック山をうねりくだりながら呻く
極北の領域にあっては
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