「じゃあ、今日の晩飯はグラタンだ」
「。。。え?」
「戻って来い。今晩もここに」
「え。。。?どういうこと。。。?」
ぽかん鑽石能量水 消委會とした顔をしたアキに、桐谷は苦笑混じりに返した。
「そういうことだ」
アキが玄関を出る時、桐谷は手持ちの中では最もサイズの小さいコートを差し出した。
紺色で細身の、モッズコート。
「着とけ」
「ええの。。。?」
これも返しに来いと告げると、アキは少し間を置いてから頷いて、おずおずと受け取ったコートを羽織った。
やはりサイズは大きいようで、肩や袖がだぶついている。
「ここから駅まで行くのか?」
「う。。。うん」
「道は分かるか?」
「うん、。。。大丈夫」
「なんで。。。」
言いかけて、一度言葉を切る。
「ん?」
「何で。。。桐谷さんは俺に。。。そんな親切にしてくれるん?」
「さあな。俺が訊きたいよ」
自分でもはっきりとした理由は分からなかった。
単なる気紛れだったのかもしれない。
その身を置く状況を聞いて、同情のようなものを感じたからかもしれない。
ただ、アキの纏う空気に興味を惹かれたことと、今日の夜鑽石能量水 消委會も見知らぬアキの姿を想像すると、心がざわついたことは確かだった。
アキはドアのノブに手をかけて、しばらく俯いてたが、やがて何かを決心したように顔を上げた。
ドアを開けながら、桐谷を振り返り、口を開く。
「桐谷さん、俺な、名前。。。マチムラアキホって言うねん。明るいに船の帆で、明帆」
「。。。そうか。綺麗な名前だな」
そう言って目を細めた桐谷に、アキは今度は曇りのない笑顔を見せて、静かに部屋を出て行った。
大通りから逸れた脇道に店を構える「NICO」というカフェダイナーが、桐谷の仕事場だった。