Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

012‐『機械仕掛けの神』(後編)

2012-09-25 23:59:59 | 伝承軌道上の恋の歌

 どうやら彼もアノンと同じ勘違いをしてるらしい。そもそも彼女からそう聞いたのかもしれないが。
「…あのね。何を勘違いしてるか知らないけど…あの事故は本当に起こったことなの!」
 アキラが割って入ってくる。
「いや、いいんだ、アキラ…」
「…でも」
「…あのな、モノ…とにかく違…」
 僕が言いかけた時には、モノはあさっての方を向いて「みんな、あのシルシさんが来てくれたんだ!」と叫んでいた。呼びかけた方向から、妙な格好をした恐らく『スフィア』の連中がぞろぞろと顔を並べた。
「…や、やあ」
 彼らの風貌には見慣れたつもりでも、僕の笑顔は少しひきつってしまう。
「ああ、あの…残念、アノン会いたがってたのに」
 その内のやっぱりマキーナ子が言う。
「アノンはいないのか?」
「今いないよ」
 また違うマキーナの女の子は確か神宮橋でも見かけた。
「こんな大事なイベントすっぽかして、てっきりあんたとかと思ったんだけど?昼、あんたと一緒に連れ立ってたから…」
 その女の子もやっぱりマキーナの…
「ちょっとシルシ先輩どういうことですかっ!?私に内緒で何浮気して…!」とそれを聞いたトトが僕のコートの袖を引っ張る。
「…トト、お前は問題を複雑にするな」
「いや、誰からなんか電話あったみたいで、それで抜けたっきりいなくなっちゃった」
「誰かって?」
「誰かだよ。本当かどうかは知らない。普段から嘘つきなんだ、彼女。もっとも俺もこいつもみんなそうだけどね」
「それがスフィア化さ」モノが得意げに言う。
「はは、面白い」
 スフィアのメンバーたちが揃って笑い出す。駄目だ。ついていけない。
「で、知りたいことがあるんでしょ?」
 赤髪をしたスフィアの女の子が聞く。
「…あの曲、マキーナの新曲を誰が作ったのか知りたいんだ」
「『委 員会』に問い合わせたって無駄だよ。だって誰かがネットとかにアップロードしてた曲だし、それもどんどん増殖してってオリジナルも追えない。最初の『ゆら ぎ』はもうスフィアの果てを眺めても観測できないんだ。このスフィアは今ここにある形を楽しむスタンス。もっともアノンだけは違うみたいだけどね。あの子 はここに入ってきた時からオリジネイターの話ばっかり」
「…で、アノンが見込んだ意中の人が、あんた、シルシさん」
 モノが僕を指さす。
「…ああ、どうやら違ったけどな。アノンにもそのことは伝えた」
「えー、そうなの残念…」
 人に勝手に期待して勝手に失望して実に迷惑な連中だ。
「じゃあ、あのビラ配りも…」
 大きかったり小さかったり、青色や緑色のマキーナが口々に言ってる。
「だから、本当だって言ってるでしょ?」とアキラが割って入ってくる。
「…そもそもオリジネイターってイナギっていうやつじゃないのか?」
 僕がそう言うと、スフィアの連中が一瞬、みんなで顔を見合わせた。


「ああ、あの人かもね」一人がつぶやく。
「…今日も来てるぜ、ほら…」
 本多は薄暗い会場でもひときわ違和感のある集団を指さした。皆モノトーンのレザー調の、そこにベルトや何やらでやたらと金具のついた服で揃えている。メイクも目の周りに極端なアイラインを引いて。一番眼を目を惹くのが皆揃いも揃って大きな十字架を背負っていることだ。
「あのスフィア、オリジナル・シンっていうんだけど…」
 死神みたいな集団の中に一人だけ、普段着の男がときおり会場をかけめぐるライトに照らされていた。
「…あの一人だけフツーなのがイナギ」
 細くてふちなしのメガネをかけて、白のワイシャツにチノパンを履いてやけに長いマフラーをしてる。
「…そうイナギ、かも」
 モノが言った。
「…かも?」
「俺達のスフィア、デウ・エクス・マキーナもイナギが創設者だって言うのは知ってるよな?確かにスフィアはそうだ。でもデウ・エクス・マキーナ自体は?マキーナをイナギが作ったのか誰も知らない。そもそも、あの人がイナギなのかも知らない」
「イナギだって自称するのが何人かいるんだ」
「スフィア=神話化してるのさ。全部まがい物。イミテーション」
 周りを取り囲んでる連中も十字架の他にも包帯を巻いてるのもいれば、車椅子に乗ってるのもいる。
「とりまきもまともじゃなさそうだね」
 アキラがつぶやく。
「イナギがこのスフィアの後に作ったオリジナル・シンっていうスフィア。なんでも皆背負ってる原罪をスフィア化してるんだって…」
「なんか気持ち悪いです」とトト。ああ、僕も大分気分が悪い。とはいっても僕の目の前にいる連中も、僕が酔狂で周知活動やってたと思ってたやつらだ。
「でも、噂が本当なら、オリジナル・シンもオリジナルがあるのかもね…」
「…あれもモデルがあるっていうのか?それが僕の家族、それにあの事件と?」
 僕は思わずモノに詰め寄るが、「…?」
 当の本人は何のことかわかりかねてるといった様子で、片方の口元を不自然に釣り上げた。とにかく気分が悪い。
「…帰る」
 僕は言い残して、一人会場の外へと足を向けた。

…つづき

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