前兆。意識がぼうとして力が入らない。寝ている間に麻酔か何か打たれたのだろう。こんなことをしなくても私は逃げたりしないのに。薄く目を当てるとそこはあたりにそこらじゅうにコードが伸びた機械ばかりが並ぶ小さな部屋だった。今はそれら全部が私のためにあるんだ。私の傍らにいる見慣れぬ人はまさに手はずを整え終わったところのようだった。私は意識を取り戻したのがばれないように眼を閉じた。はだけた胸に冷たくぬめるゼリーみたいなものがぬられて、よく分からない機械がまるで落とした宝石でも探し当てるように私の胸のあたりを順繰りに巡っていく。
この機械を当てられるのは前兆だ。こんなことは前にもあった。その数日後に私は臓器を取られた。皮膚をとられたときも、あばらを抜かれたときもみんな同じだ。今度、私は『それ』をとられて元の姿のままだろうか?まだ生きていられるんだろうか?いっそのこと殺して冷蔵庫の中に入れておいてもいいだろうに。こんな面倒くさいマネまでして私を生かしておく意味はなんだろう?その方が安くつくんだろうか?夜な夜な私が出歩くのを許しているし、よく分からない。
これは私を生かす検査じゃない。でも、私の身体で誰かを生かすことになるんだ。一瞬、あの子の顔が浮かんだ。やっぱりそうなんだろう。
「あの娘になら、いいかな…」
ぼんやりした頭でそう考えるうち私は再び意識を失った。
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