あるBOX(改)

ボクシング、70年代ロック、ヲタ系、日々の出来事などをウダウダと・・・

久々読書:「神様のリング」

2013年08月05日 | ボクシング
林壮一氏著のドキュメンタリー。

「神様のリング」
単行本(ソフトカバー): 258ページ
出版社: 講談社 (2010/11/5)
一度拳を交わしただけの男たちが築いた友情
アメリカ最強と呼ばれた“野獣”アーロン・プライアーと、彼に挑んで敗れた“天才”亀田昭雄。
対戦から26年目の夏、亀田は再会のための旅に出る。そして……。

“具志堅用高を超える天才”と呼ばれた亀田昭雄は世界戦の26年後、なぜ悲運の“野獣”に会いに行ったのか…。
時空を超えて実現した二人のボクサーの再会と友情、そしてライターとの交流を描いて
静かな感動を呼ぶスポーツノンフィクション。

・・・と、amazonさんの内容を紹介されている1冊。
知ってはいたけど買うまでには至ってなかった「神様のリング」。



・・・とはいえ
失礼ながら80年代を知るボクシングファン以外には引っ掛からないキーワードばかりだし
ヘタすりゃ数年たったら絶版なんて事にもなりかねない・・・と
購入いたしました。3年遅れで。

読んだら時系列で話は進むし、
アルゲリョやらミドル級4強やら荻原千春やら
ハワード・デーヴィスやらヒルマー・ケンティやら
エマニュエル・スチュワートだのの固有名詞が次々と登場して
プライヤーと亀田昭雄が本当に会えるのかどうか途中で怪しくなるわ・・・で

ハラハラドキドキで一気に読んでしまいました。

物語はプライアー×亀田だけじゃなく、著者・林氏の絶妙のナビゲートで進みます。
ただの狂言回し的な役回りではなく、両者が引き合う運命の手助けとして・・・。



ボクサーとしてプライアーも亀田も、ある意味で規格外でした。
プライアーは常識を超えたスタミナとタフネスと柔軟性で対戦相手に圧力を掛ける。
体が柔かく相手のパンチを吸収し、突拍子もない体勢からパンチを放ち、相手を効かせてしまう。
効いたが最後、相手はプライアーの集中打で一気に打ち据えられてしまう。
スマートさに欠ける為「バタバタしすぎ」「バランスが悪い」とも評されたが
アルゲリョ2連戦に勝利すると、そんな声も鳴りを潜めてしまった。

亀田はアマチュアとして頭角を現し、モントリオール五輪前年に開催されたプレ・オリンピック大会では銀メダルを獲得。
俄然、アマ・エリートとして注目されるも、大学の旧態然とした体育会体質に嫌気がさしてキャリアを放棄。
世界大会での活躍が嘱望された選手だっただけにアマの同世代選手だった荻原千春氏は
「もったいないと思った」と残念そうに語っている。
サウスポー・スタイルから放たれるパンチはキレとタイミングに目を見張るものがあり、
プロの日本ウェルター級王座奪取時には既に将来の世界王者候補とも言われていた。
亀田の骨格はジュニア・ウェルターとしては大きく、そのスマートで肩幅の広い体型は日本人離れしていた。


右が亀田。右リードも伸びた。

事実、試合では懐の深い亀田にプライアーが身体を振って接近するという展開になっている。
その2名は、対戦相手に大きな印象を抱いて以降の人生を歩んでいた。

1982年に6R激しく拳を交えた元ボクサー2名・・・。

五輪代表に成り損ね、辛酸を嘗めつくしながらも
血の滲む努力と強靭な精神力で王座に就き、防衛を重ねながらもレナードらウェルター級王者たちへの対戦オファーは実らず。
これに勝てば3冠王アルゲリョと対戦できる亀田戦をターニングポイントと捕らえていたプライアー。

第1R、亀田の左ストレートで後方でんぐり返りダウンを喫したプライアーだったが
まるでダメージを感じさせないように攻め返し、次のラウンドから攻勢を再開。
逆にダウンを奪い、倒して倒してレフェリーストップを呼び込んだ。

初回のダウン以外はワンサイドだった印象があったが、
プライアーは亀田が元々ウェルター級で戦っていた事を知っており
「1階級上のパンチは強い」と身に染みて感じ、以降のラウンドを攻めていたと告白。
「カメダは法律の勉強もしていて、そんなボクサーは珍しいから尊敬していた」とも。
※ただし、実際はそういう事はなく、中大OBは法曹界への進出が多いから
 故・金平会長が現地で話題づくりの為そう吹聴したのだろう・・・と
 いうのが亀田昭雄氏の推察

なんと、プライアーも亀田に会いたがっていたのだ!

アルゲリョに連勝して栄光の頂点を極めるも、網膜はく離に冒され、
燃え尽き症候群に陥り、ドラッグに嵌り、病魔に冒されたプライアーは、
全身に歪みをきたして手術と闘病の日々。

キリストへの信仰によって、かろうじて平穏でいられるが、病が心までを弱らせる。
カメダとの試合が自分を高いステージに押し上げてくれた。
カメダに会いたいなぁ・・・と。

一方の亀田昭雄。
神様が与えた才能を努力でさらに伸ばすこともなく、日本王座の防衛戦で拙戦、OPBFでも敗戦。
プライアーがIBF王者になったと聞いて自身もIBFに移ったが
「昔の亀田だったら、テリー・マーシュくらいの選手に惨敗しないのに!」と
VTRを見たファンが悔しくなる程の不出来・・・。


※画像は亀田vs守安。亀田はボディ打ちも上手かった。
 ただし、努力の日本王者・守安は亀田の左ボディアッパーを何度も食いながら
 前進を止めず、最終回には左右フックをエリートにヒット。亀田を驚かせた。


中途半端な現役生活を終え、ボクシングには関わるまいと思いながら
新たに出合った特殊な「針と灸」治療で目標を得て、充実した人生を送り、
ついにボクシングジムを主宰するようになった亀田昭雄。

※プライアーのホームタウン=シンシナティへ出向く途中で
 プライアーJrに教える授けるシーンが泣ける・・・。
 身体を解す為に軽くシャドウボクシングする亀田を見て
 現地関係者が「元選手か?」「なに?プライアーから
 ダウンを奪ったジャパニーズガイか!?」と驚き、
 せっかく米国に来たのだからとラスベガスで
 マルガリートvsコットを記者席で生観戦した時
 アルゼンチンの記者が「プライアーからダウンを奪った男」に
 インタビューを申し込み、その記者が試合内容を詳細に
 覚えていた事など、「名王者と戦った名誉」が
 感じられるシーンが心に残る・・・。



著者は両者の人生も追いかけている。
異様とも思える執念で努力を重ねたプライアー、
練習せずとも勝てる・・・と言い放ち、ロードワークをサボリ喫煙癖も治らなかった亀田。

試合直前に「世界戦が決まった」と聞かされ、現地に飛んでも宣伝に引っ張りまわされ調整も出来ず、
試合前夜にはホテルの直上階で騒がれイタズラ電話を掛けられ殆ど眠れなかった亀田。
「万全の準備で挑んでいたら」と思うのは我々だけでは無かった。
戦った張本人がそうだったのだ。
※まぁ、故金平会長なら
 「普段から努力している選手は、そういう状況でも実力を発揮するんです」と
 平気で言い放つでしょうけどね。(私も、かなりそう思う)
 会長も人の子。努力して自分の言う事を聞くコが可愛いんでしょう。

その結果、亀田がプライアーに抱く「想い」は強くなり
彼もプライアーとの再会を強く望んでいたのでした。

本作にて、亀田に関しては「天才」と持ち上げられすぎな気もするが
後輩・渡嘉敷勝男氏(努力の人)の言葉で「人間的には好きな先輩だったし、
プライアーからダウンを奪ったときはスゲエ!と思ったけど、
あんな練習しない人が世界王座を獲ってイイのかとも思った」とも伝えてられている。


※画像は亀田vs辻本。元アマエリートから日本王者になり
 世界ウェルタ-級王座にも挑んだ辻本は、亀田も憧れる選手だったが、
 若き亀田はベテラン王者を勢いよく攻め鮮烈なKO奪取。
 (良くない行為だが)ダウンした辻本に打ちかかる程この時の亀田には
 気が入っており、「亀田の早過ぎるピーク試合」「この勢いのまま
 世界挑戦が可能だったら・・・」と言われる。


また、「WBAのプライアーじゃなく、WBC王者なら絶対に獲っていた」という話もあるが
私は(ピーク過ぎたブルース・カリーは兎も角)タフなリロイ・へイリーや、
超タフなソウル・マンビーには終盤スタミナ切れして敗れたんじゃないか・・・とも思っている。

※マンビーなんて世界中どこに行っても安定のパフォーマンス見せてたし
 超一流選手の強打に耐えた顎の強さはファン・ラポルテと
 双璧だったんじゃないか・・・と思いますぞ。

ああ、
なんか、すっかりネタばれ寸前の感想になってるな。

とにかく、
ボクシングのみならず社会とか時代を良く捉えてて、
スポーツを通した男の友情という普遍的なテーマを伝える一般的題材の本としても素晴らしいと思います。
※普遍的って意味でも「神様のリング」ってタイトルなんだろうな。
 「野獣との再会」や「鷹と亀」じゃ何の事だか分からないもんな・・・。

私もドケルバン腱鞘炎と思わしき症状が治りきらないので
佐野に行く事があれば是非とも亀田先生に施術してもらいたいですねぇ・・・。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ギャビランビラン)
2015-09-17 09:22:52
ラポルテ、マンビー
この二人は本当に凄いですね。
負け数は多いですが相手の顔ぶれがこりゃまた凄い。
しかも全盛期の相手にKO負けはおろかダウンすら奪われた事も無いんじゃないでしょうか。
「無冠の帝王」ではなくて実際チャンピオンまでいってますが「王者」としてより本物中の本物とガチで戦った「身元保証」のちゃんとした「世界的選手」(WBAやWBC等の団体の王者になるより遥かに大変な事)でしたね。
コメント御礼&れす (ある@管理人)
2015-09-18 00:00:44
ラポルテとマンビーの頑強さは本当に凄いと思います。
意外と目もイイのかも知れませんね。

ラポルテなんてWゴメスやJCチャベス(Jライト時代)と戦い、
グラつきすらしなかったし。
自らはハードパンチャーで凄いKOも見せてくれました。

マンビーも敗戦の多さだけで2流王者扱いされていましたが
相手と場所を選ばず、長らく現役を続けた事は驚異的だと思います。

あと、ビト・アンツォフェルモもハグラーとの初戦では
リードパンチでの制空権争いやってて驚きました。
ラフファイトに巻き込んでハグラーのペースを崩しただけと思い込んでたんですが
ボクシング技術も見事だったですね。

コメントを投稿