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BLOGOS(ブロゴス)- 「飢餓の北朝鮮」と究極の瀬戸際外交
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■ 政治
「飢餓の北朝鮮」と究極の瀬戸際外交 門田隆将
吉と出るか凶と出るか――。若き指導者にとっては、乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負なのだろう。金正恩・朝鮮労働党第一書記が「3回目」の核実験を予告していることについて、さまざまな動きが起こっている。
本日、日米韓の3か国の防衛当局の局長級会合が東京で開かれ、「もし北朝鮮が核実験に踏み切れば、北朝鮮はその“結果”に対して責任を負うことになる」という共同声明が発表されたのもそうだ。
「やれるものなら、やってみろ」と、3か国の防衛当局者が面子をかけて北朝鮮に警告したわけである。だが、金正恩も必死だ。そんな脅しに屈するはずもなく、着々と核実験の準備を進めている。
無謀とも言えるその実験強行の背景を考えるために不可欠なニュースが今週、MSN産経ニュースで流れていた。「飢餓地獄の北朝鮮で人肉食相次ぐ 親が子を釜ゆで 金正恩体制下で大量餓死発生」と題された内部レポートだ。
アジアプレスの石丸次郎氏が率いる取材チームの調べで分かったこととして、北朝鮮の黄海南道と黄海北道で昨春以来、「数万人」規模の餓死者が発生していると報じたのだ。
「数万人規模」という餓死者の数も衝撃なら、私は、その「場所」に驚いた。黄海南道と黄海北道といえば、38度線を境にして韓国と国境を接する地である。つまり、北朝鮮の中では、韓国の繁栄と飽食の町・ソウルから最も近い地方なのである。
石丸氏らは今回キャッチした実態を報告書にまとめて国連に提出するそうだが、その中身は、凄まじいの一語だ。飢餓でおかしくなった親が子を釜ゆでして食べ、捕まったケースや、また親子殺人、人肉密売の実態なども明らかにするという。
長く北朝鮮報道にかかわる石丸氏らの取得した情報は、過酷な北朝鮮人民の姿を映し出している。極めて取材が困難な北朝鮮だけに、クロスチェックなどが容易にはおこなえない事情を加味しても、貴重なものだと思う。
北朝鮮の飢餓の実態を見る時、忘れてはならないキーワードは「軍による収奪」と「人肉食」である。言うまでもないが、北朝鮮の基本は「先軍思想」だ。すべてにおいて軍事が優先され、社会主義建設の主力は朝鮮人民軍である、という揺るぎない思想が北朝鮮にはある。
つまり、本来は、「人民」は飢えても、「軍」が飢えることはない国なのである。だが、その軍が平壌市民への配給用の「首都米」まで強奪し、地方幹部や警察なども人民から組織的に食糧を収奪、さらには、軍を維持するための軍糧米の名目で、収穫前に軍が田畑に入って刈り取ってしまうケースも相次いでいるという。
黄海道では5、6年前から軍による収奪が続いているというから、よほどの事態である。演説等で「人民の生活向上」を宣言していた金正恩にとっては、その地位を危ぶませる極めて深刻なありさまと言える。
昨年来、金正恩を国家の領袖としてデビューさせるために疲弊した人民の姿が思い浮かぶ。だが、金正恩が核実験をチラつかせ、それを土壇場で回避して食糧支援を勝ち取るという目論見は、残念ながら成功の見込みは薄い。
父親(金正日)が何度も使ってきた手法がいつまでも通じるはずはない。当ブログでも以前、書いたように、昨年12月、「射程1万キロ」の長距離弾道ミサイルを発射し、実験を成功させた時から、もはやアメリカは北朝鮮を「許す」はずはないのである。
核実験が終われば、核弾頭の小型化と起爆装置の開発へ「待ったなし」の段階に入る。それが成功した時には、もはやアメリカも含めて世界のどの国も、北朝鮮に「ものを言う」ことはできなくなるのである。その意味で、飢餓状態に対して3か国が「チャンス」と踏んでいることは間違いない。
私は、今日の日米韓の防衛当局の局長級会合の裏で、「何が合意されたか」という点に大いに興味がある。今の状況で、実務者のトップに近い連中が集まれば、3か国で当然、不測の事態に備えた“役まわり”を決めたはずである。
集団的自衛権が行使できない日本は、アメリカの足手まといになるのがせいぜいかもしれない。しかし、それでもなんらかの役割を日本が果たし、北朝鮮が核ミサイルを完成させるまでに“決着”をつけなくてはならないのである。
金正恩が政治の表舞台に顔を出してから1年。いよいよご祝儀相場も終了した今、究極の瀬戸際外交に挑む金正恩の表情と姿が、なぜか寂しそうに、そして自信なさげに見えるのは、私だけだろうか。
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