資金集めは「現役」 

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 功遂げ、身退くは天の道なり――。老子はそう説くが、名声を手にした人間ほど引き際を見誤るのは世の常。東京五輪組織委のトップに鎮座する森喜朗元総理(79)は、その最たる例である。2012年に政界を引退した後も巨額の「政治資金」を手中に収め、その上、黒い噂は絶えないのだ。

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 組織委会長に就いてからというもの、森氏はことあるごとに「滅私奉公」をアピールしてきた。佐野研二郎氏の公式エンブレムが撤回された15年には、

〈この件に関しては(武藤敏郎)事務総長らが報酬の一部を自主返納する処分を決めました。私は無報酬だから、返納しようがない。女房からもらった小遣いを差し出すんですか〉(同年10月16日付毎日新聞)

 と開き直っている。

資金集めは「現役」

 だが、そんな「元総理」が今なお、潤沢な「政治資金」を手にしていることは知られざる事実。先の都知事選にも出馬した、山口敏夫元労働相が慨嘆する。

「オリンピックは公平中立な立場で運営されなければなりません。その点、森元総理が組織委会長に相応しいとは思えない。未だにカネ集めに長けた現役の政治家そのものだからです」

 この証言を裏付けるのは、森氏が代表を務める資金管理団体「春風会」の存在である。そもそも、政界を引退したはずの元総理が「公職の候補者」として政治団体の代表に収まっていること自体、疑問が残るが、税理士の浦野広明氏によれば、

「資金管理団体を含めた政治団体には税制上の優遇措置があります。もし、森元総理自身が企業からお金を受け取れば所得税が、個人からであれば贈与税が発生する。つまり、課税を免れる目的で資金管理団体を利用していると言われても仕方がないわけです」

 収支報告書に目を通せば、際立った集金力は一目瞭然。昨年公開された15年分の「収入」は、実に7000万円超に上る。それどころか、13年から3年間の合計は約2億3000万円に達しているのだ。その大半は、「忘年例会」や「『私の履歴書』出版記念会」などのパーティー券収入である。

 ちなみに、昨年末に共同通信が発表した現職政治家の政治資金に関するデータによれば、自民党議員の平均額は4590万円。つまり、政界引退から4年以上を経ても、現役議員の2倍近くの政治資金を荒稼ぎしていることになる。

 政治部デスクによれば、

「金額以上に問題なのは、春風会の政治資金を巡る黒い疑惑の数々。その筆頭に挙げられるのは、大口のパーティー券購入者である澁谷工業にまつわるものです」

■返還義務も…

 森氏の地元・石川県の金沢市に本社を構える澁谷工業は、15年までの3年間で計4回、400万円のパーティー券を購入している。しかも、同社の澁谷弘利社長は13年1月に設立された「自由民主党石川県地域振興支部」の代表でもあるのだ。

 この政党支部は「政界を引退した森元総理の企業献金の受け皿」(先のデスク)とされ、先ほどと同じ3年間で2100万円を「春風会」に寄附している。

 だが、有価証券報告書によれば、澁谷工業は15年6月期に連結子会社と併せて2億400万円もの国庫補助金を受けていた。

 この点を俎上に載せるのは、政治とカネの問題に詳しい神戸学院大学の上脇博之教授である。

「政治資金規正法は、1年以内に国から補助を受けた企業が政治家に寄附することを禁じています。厳密に言えばパーティー券の購入は対象外ですが、税金を原資とした補助金が政治家に還流するのを防ぐことが法律の目的。政治献金という意味では寄附と違いなく、政治資金規正法違反の疑いがあります」

 澁谷工業の法務担当は、「(国ではなく)石川県もしくは金沢市などの地方公共団体からの補助金」なので法律に抵触しないとする。

 だが一方、森氏の「スカウト」で政界入りした馳浩代議士は文科相時代、同社からの献金を指摘されて返金しているのだ。「親分」が知らぬ存ぜぬでは済むまい。

 また、金沢市の運送業者・シンクラン(旧アトム運輸)も、中小企業緊急雇用安定助成金を受給しながらパーティー券を買い続けてきた。しかも、同社は13年に石川労働局から助成金の不正受給を告発され、約2億8000万円を返還した経緯があった。

「この助成金も規定に抵触すると考えられ、不正に受給した税金が政治献金として還流されていた恐れもある。森元総理には説明責任と返還義務が生じると言わざるを得ません」(上脇氏)

 問題はそれだけではない。パーティションメーカーのコマニーもパーティー券を購入する地元の有力企業。同社は公式フェイスブック上で、主に日本代表選手が練習に用いるナショナルトレーニングセンターへの商品納入を公表している。

「五輪関連施設への納品実績を喧伝している企業が組織委会長に献金しているとなれば、癒着を疑われても仕方がない」(同)

 数々の黒い疑惑について森氏は弁護士を通じ、

「ご指摘は当たりません」

 と回答するのみ。一方、

「春風会はかつて清和研に多額の寄附を行っていた。また、森さんは今月末に告示が迫る地元の能美市長選でも新人を担ぎ出している。威光が衰えないのは資金力あってこそ」(石川県議)

 黒い政治資金をバックに隠然たる影響力を誇るのでは「無報酬」が聞いて呆れる。これでも天の道に外れた「元総理」を許せるか?

ワイド特集「秘せずは花なるべからず」より

「週刊新潮」2017年1月26日号 掲載