「地方の公立病院の危機ばかりがクローズアップされているため“東京では医師や病院が多いので安心”と楽観視する首都圏の人も多いはずです。しかし、団塊世代がすべて後期高齢者となる2025年から、首都圏では医療・介護危機が始まることが予想されます」

そう警鐘を鳴らすのは、「医療ガバナンス研究所」理事長で医師の上昌広さんだ。

「あまり知られていませんが、現在でも首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の10万人あたりの医師数は230人で、四国278人や九州北部287人に比べても少ないんです。“首都圏は医師が充足している”というのは幻想です」(上さん・以下同)

それが’25年を境に、さらに悪化の道を辿るというのだ。

「’70年代の“1県1医大構想”によって、40校の医学部や医学校が新設されましたが、当時の卒業生たちが60歳近くになり、当直や手術をどんどんこなすような第一線の勤務医から退いていきます。もちろん医師と同じように患者も高齢化しますので、病気になる人も増えてきます」

75歳以上の人口1,000人に対しての75歳未満の医師数も、首都圏では全県にわたり減少することが予想されている。

「たとえば’15年と’25年を比べると、東京では24.47人から22.49人に、千葉では14.29人が11.12人、埼玉では13.07人が9.72人にまで減少します」

そして、医師不足が病院の経営を悪化させる。

「将来的に、都立病院であっても統廃合されたり、潰れてくるところも出てくるでしょう。医療機関が少なければ、患者の受け入れもできない。長時間の診療待ちによって、待合室は患者であふれかえってしまいます。さらに命に関わるような症例であっても、救急車のたらい回しは常態化するはずです。医師とのコネや、お金がある一部の人が優先的に診察を受けるような医療体制になることも考えられます」

これは決して絵空事ではなく、すでに兆候もあるという。

「’13年に埼玉県在住の男性が、36回も救急搬送の受け入れを拒否され、死亡する事件がありました。現状のままでは、将来こうしたケースが頻発するということです」

さらに、国は膨れ上がる医療費を支えきれず、“医療費抑制”へと舵を切る。

「これまでのように患者が3割、国が7割の医療費を維持することは困難。患者が全額負担する自由診療の幅も広がり、金銭的に医療が受けられない人も出てくる恐れもあります」

病気ばかりではない。介護問題も深刻だ。

「病気の種類によって異なりますが、今の医療制度は入院期間がある一定の日数を超えると、診療報酬がガクンと下がります。当然、公立病院のような赤字体質の病院の場合、採算を取るために“日数超え”した患者を早々に退院させ、医療点数の高い新規の患者を受け入れるサイクルを取ることになります」

患者が介護を要するような状態になった場合が悲惨だ。

「首都圏にはまだ介護施設も少なく、2025年以降には“行き場がない”患者さんも多く出てくるはずです」