いろいろな業界で使われる隠語。隠語で知る裏事情。ミニミニ用語集を作りました。  

写真拡大

旅館編業界用語


■ノーショウ
無断不泊のこと。No Showとも書く。

客室に空気を泊めても一円にもならず、食事を仕入れ、準備していた旅館にとって、当日取消しのダメージは大きい。それが、連絡無しとなれば、夜遅くまで心配し、フロントに人を残しておくなど、対応のためのコストもばかにならない。

そのため、ノーショウは最も旅館が恐れるもののひとつ。ネット予約など消費者への直接販売が増えず、旅行業に頼る理由のひとつは、ノーショウ防止の意味もある。

不倫の客だろうが、折り返し職場に予約確認の電話をしてしまう旅館が多いのも、このノーショウで痛い目にあった反動である。ノーショウは、実は、業界内では社会問題となっており、旅館にとってノーショウ客は、逮捕して欲しい、くらいに思っている。

■オバケ
ノーショウの逆。ゴーショウ、Go Show、ユーレイとも呼ぶ。

予約が入っていないのに、予約したといって訪ねてくる客のこと。予約通知がフロントに流される前に到着するという場合もあるが、旅館名が似ていることで、間違ってくる方も多い。○○ホテル、本家○○、○○別館、など、ややこしいせいもある。

夜、窓の外を歩いていたり、金縛りにあわせてくれるのとは、別のものである。

■トクビ
特日。特別の日のこと。類似語=旗日(ハタビ)=祝日のこと。

そーれ、稼げ、埋めろ、高く売れ、という日。一年のうち、一割くらいしかないが、この日に予約は集中する。ノーショウやオバケが出るのもこの日が多い。

トクビになると料金が上がり、平日になると下がるので、「客の足元をみた商売」と思われることも多い。旅館側からすると「トクビの料金が通常料金で、平日が割引料金」と主張したいのだが、そう思われないのは、努力不足以外の何ものでもない。

■コマ
小間客。細かい客。個人客のこと。

団体(タマ)が入らないので、コマで埋める。というように使う。もう二度と戻ることのない“古きよき時代”を知る営業マンがよく使う。確かに団体と違って、効率は悪いし、心付けは置かないし、冷蔵庫のドリンクは飲まないし、コマを嫌っている旅館も少なくない。

しかし、そういう旅館こそ、時代錯誤甚だしく、取り残された存在であることを知らない。女性のコマ客に向かって、ぞろりと女将・仲居が並んでいらっしゃいませ、とやる旅館はその典型かもしれない。コマったものである。

■ゲタ
旅館の提供額と、旅行業の販売額との差。

ゲタをはく、ゲタばき、等のように使う。顔をしかめ、吐き捨てるような口調で発音する。

旅行業は、企画商品を作る際、大量販売の見返りに一定の格安額で仕入れ、その額に「適切な旅行業収入」を足して販売価格を設定する。そうした差額も含め、旅館が出した額と販売される価格の差を旅館ではゲタと呼び、感情的に毛嫌いしている。

旅行業サイドでは、旅館がなぜそんなに嫌うのかわからない(温泉饅頭だって同じように仕入れ販売しているではないか)。

しかし、旅行業は、仕入料金(旅館が出した料金)からも十数%の手数料(アールと呼ぶ)を取るので、1万円で売られている商品は、実は旅館の手取りは7千円くらいであることが多く、他業界に比べマージン率が高いと苦々しく思っているのである。

いずれにしろ、人口や総消費が増えないと、商売上、旅行業と旅館は対立する宿命にある。業界内でよく話し合いましょう。

■ジューショク
従業員食堂のこと。調理場の脇の小さなスペースでもこう呼ぶことが多い。

旅館で客に出される豪勢な料理と違い、質素な粗食だが、健康を損ねない質・量のものが提供される。客と同じものを食べていたら、栄養過多で死んでしまう。

かつて、ガイドも、これまで出会ったなかで最高に美味いカレーライスを北陸の旅館のジューショクで食べたし、長野では、ふき味噌のせ七分付き飯という、病み付きになるくらい美味い飯を食べたのもジューショクであった。

■パントリー
各フロアにある配膳準備室のこと。

仲居さんにとって、ジューショクは一日一回休憩しに行く“公的な場所”という感覚であるが、パントリーは、職務テリトリーの中で息が抜ける唯一の場所。業務用エレベーターやダムウェータ(小型昇降機)で、ワゴンや脇取り(食器を入れたお盆状の容器)が上がってくると配膳の仕事が始まるが、それまでひと息つけるのもこの場所である。忙しい毎日。ジューショクまで行けず、ここでそっと弁当やパンを食べて、食事とすることもある。

狭い職場なので、パントリーの人間関係に気を配るのが支配人の仕事となる。
(文:井門 隆夫)