本を実際に読むまでのタイムラグのために、それを準備した時に何を思っていたのか、たいていの場合、わからなくなっています。
さて、どうしてまた、こんな御大層なタイトルの本を読もうとしたものか…。
たぶん、有名だけれどよく知らないから…だったと思うのですが。
こういうとき、本棚を曝していることがちょっと恥ずかしいです。

七つの愛の物語
「イシスとオシリス」から「トリスタンとイゾルデ」まで
著者:ダイアン・ウォークスタイン
訳者:丹羽 隆子・川口 昌男
発行:大修館書店
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収められている七篇は『イシスとオシリス』、『イナンナとドゥムジ』、『シヴァとサティー』、『雅歌』、『プシュケーとエロース』、『ライラーとマジュヌーン』。
最後が『トリスタンとイゾルデ』。
エジプトの神話から始まるいずれもエキゾティックな舞台設定です。
原著は語ることを前提としているものとのことで、この本も実際に声に出して語られたら感じ方も違うのかもしれません。
「イナンナとドゥムジ」は初めて知りましたが、これはメソポタミアはチグリス・ユーフラテスの畔の神話。
嫁入り道具に印章を準備するところなどがあって、シュメール文化の雰囲気が漂います。
このイナンナは神様の娘で天界の巫女なのですが、その結婚相手として選ばれたのは羊飼いのドゥムジ。
最初イナンナはそれに不満たらたら。
自分のために働いてくれる農夫がいいなどといっているのですが、ドゥムジが俺いい奴だし、尽くすから!と訴えるので、それならと花嫁になることを承諾します。
そうなってからはてのひらをかえしたような極甘の日々。
「彼はわたしの子宮の最愛のひと」と語りかけます。
時代の古い神話であればあるほど、愛が快楽と直結し、神格を持つ存在の婚姻はそのまま豊穣へと繋がる印象がありますが、「子宮の最愛のひと」というのはなんだかすごいです。
この後、なぜかはよくわかりませんが、イナンナは冥府の女王に会いに行き、殺されてしまいます。
地上に生き返るためには身代わりが必要となるのですが、あの人はだめ、この人はだめと言って、結局はドゥムジを身代りにご指名。
最愛の人じゃなかったのか?!脳ミソと子宮は別物なのか?!イナンナ?!
愛憎は紙一重。動揺したまま読み進めると、話はドゥムジの逃避行に移り、最後はドゥムジと弟・ドゥムジと溺愛する人格者の姉とが1年を半分にして冥界へ下り、ドゥムジが地上にいる間はまた睦まじく暮らすような終りになっています。
…ちょっとよくわからない…。
話としてわかりやすいのは『イシスとオシリス』で、オシリスを心から愛していた妹のイシスは、彼が罠にかけられ死んだあともその遺体を探し歩き、彼(死んでからのというあたりがすごい)との間の子供ホルスを王にするために執念を燃やします。
初志貫徹の女神イシス。崇められるわけです。
時代が下って、『プシュケーとエロース』、『トリスタンとイゾルデ』あたりは、話も物語として整えられた感があります。
イゾルデがトリスタンの亡骸のそばから正妻を追い払うところとかはちょっと怖い感じがするほどの終わりですが、インド神話『シヴァとサティー』と比べてしまうと全体的なスケールが小さい。
神様じゃなくて人だから?
でもギリシャ神話、ローマ神話あたりは必要以上に人間っぽいですしね。
その『シヴァとサティー』は、シヴァがいつまでも独り身だと世界が崩壊した時の再生が心配だから結婚させようとブラフマーが企むお話。
出だしはちょっとブラフマーに小物感があるのですが、その後、シヴァが結婚を承諾するまでのくだりのスケール感はさすがインド神話という雰囲気です。
生成と調和と破壊の神々と、聖なる宇宙のエネルギー。
シヴァの妻となったサティーはそのエネルギーそのものである女神の化身で、ひとめで恋に落ちたシヴァが彼女を愛すること九千年。
その蜜月は、女神との約束が違えられたことで破られてしまうのですが、シヴァの一途な愛情をサティーという存在として受けとめていた女神は、生まれ変わってまたシヴァとともに生きることを選択します。
破壊神シヴァが新妻を愛でるあたりはかわいらしさすら漂うようで、これが一番好きな物語でした。
愛の物語としてのインパクトが強かったのは『ライラーとマジュヌーン』。
このふたりは恋人同士として手を携えることすら一度もなく、物語の最後を迎えます。
少年カイースは出会った少女ライラーに一目惚れ。彼女に恋い焦がれた挙句、出奔。
砂漠の民の長となる者への期待も、親の愛も、人らしい生活すべてを捨ててしまったカイースは、恋する想いの激しさのあまり、岩に頭を打ちつけるは、砂漠を裸同然でさまよい歩くはで、狂人・マジュヌーンと呼ばれるようになります。
心配した家族が息子を狂気から救おうと祈る神に、自ら「僕の恋を癒さないで」と願うマジュヌーン。
「ただ愛のために愛させてください!」
ただただ一途な熱情。
恋する美しい人への想いを綴る詩は砂漠をゆく人たちの間に広まり愛されていきますが、ライラーとの恋は実らぬまま時は過ぎ、彼女は他の王の花嫁となることを余儀なくされます。
ライラーもマジュヌーンと同じ時から彼に恋い焦がれているというのに。
マジュヌーンへの想いから、夫となった男との初夜を拒み続けるライラー。
実質がないとはいえ、彼女の結婚により、すべての望みは絶たれ、ふたりをつなぐものは互いへの想いと、マジュヌーンがライラーに捧げ続ける詩だけとなります。
深い愛情を持って差し出される肉親の手も拒み、砂漠で動物たちとともに生き続けるマジュヌーン。
物語の最後、マジュヌーンはライラーの墓を抱きしめて塵となり、ライラーへの愛だけに生きることを願った彼の一生が終わります。
美しくはありますが、幸せというべきか否か…。
願いどおりだったのですから幸せなのでしょうけれども、もしライラーと結婚ということになっていたらマジュヌーンはどうしていただろうとちょっと考えてしまいます。
嬉しすぎて結局死んでしまったりしそう…。
表紙カバーと挿画は杉本真文(すぎもとまふみ)という方の作品。
黒白のコントラストのくっきりとした装飾的なイラストは本の雰囲気にはぴったりでした。









