この秋公開される映画『カポーティ』。
この作品はカポーティの代表作の1つ『冷血』を書くために、ある殺人事件を取材している頃のことを描いたものだそうだ。
非常に気になるところだったので、まずは、と、『冷血』を読んだ。
色で言えば、沈鬱な灰色。
小説の体裁をとっているとはいえ、ノンフィクション、基本的に事実であるということが読む前から気を重くさせる。
作中で描かれる美しいはずの景色さえ、暗さを帯びたものに感じられた。
アメリカの静かな農村。
そこで起こった土地の名士の一家4人が惨殺されるという事件。
『冷血』はその事件の発生から、犯人2人の刑が執行されるまでを描いている。
作品の完成までには5年という歳月が調査と調査結果の整理に費やされたそうだ。
作品は次の4つの章からなる。
『生きた彼らを最後に見たもの』。
『通り魔』。
『解答』。
『隅っこ』。
最初の章『生きた彼らを見たもの』では、被害者となった一家、家族4人の人となり、最後の日の様子から、事件発見までが描写される。
土地の人たちにも尊敬されこそすれ、恨みをかうなどとは考えもつかないような家族。
何故この家族が被害者となることになったのか、疑問だけが大きくなる。
次の『通り魔』で、捜査にあたる特別捜査官たちと、犯人2人の動向とが描かれていく。
遅々として進まない捜査につのる焦燥感、住民の恐怖。
犯行前後の犯人たちの行動と、彼らの生い立ち。
登場する人物たちの行動の克明な描写に、それを可能にした緻密な調査を思う。
どれだけ没頭して著者は彼らの話に耳を傾けたのだろう。
『解答』ではとうとう犯人たちが逮捕される。
捜査官と犯人たちの駆け引き。
自白までの経緯と事細かに描写される心理。
犯行時の様子が明らかにされていく。
『隅っこ』とは死刑が執行される場所を指す言葉。
何故、この事件は起こったのか。
殺人の理由は何だったのか。
裁判の経緯と、刑の執行されるまでが描かれる。
多くの人たちへのインタビューや調査を基にして描かれている作品は非常に立体的な印象を与える。
もちろんそれには無関心や忘却ということさえ含まれている。
残念ながら、これがただ1つの事件ではないからだ。
著者は、犯人のうちの1人に特に筆を割いている。
実際に4人の命を奪ったほうに。
彼の生い立ち、心情にぴったりと寄り添っていくようだ。
だからこそ、この作品が事実の羅列ではない、その奥まで分け入ったようなノンフィクション・ノベルという形で結実したのだろう。
それはわかる、が、私はとても感情移入しては読めなかった。
著者が感情移入したという犯人の1人にも、その他の人たちにも。
人間はこんなにもそれぞれに異なっているのだということを改めて思う。
この作品には、著者本人の言葉として書かれたものはない。
ただ1箇所、犯人の1人がジャーナリストに語ったと描写される部分があり、そこにだけ著者の姿がある。
その著者自体が焦点となるのが映画『カポーティ』。
映画で描かれる著者の姿と、作品がどう呼応するのかにとても興味をひかれる。
公開が楽しみだ。
公開にあわせてか新訳版も発行されているのだが、今回読んだのは旧版。
昭和53年第1刷。平成11年第21刷。龍口直太郎訳。
新訳版も非常に気になるが、とても続けては読めそうもない。
冷血
著者:トルーマン・カポーティ
訳者:佐々田 雅子
発行:新潮社
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カポーティの他の作品『草の竪琴』を探しているのだけれど、見つからないのが残念。
探してるときには見つからないのが不思議だ。
素晴らしい~~。
読みにくくなかったですか?
>私はとても感情移入しては読めなかった。
分かります。
ぺりーとのやりとりは、カポーティ自身は随分シンクロされたみたいですが、それは、かなり特異な精神状態だと思います。
ちなみに新訳では、ペリーもディックも「おれ」になっているんですよ。
アマゾンにありますよ。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4102095047/
sr=1-1/qid=1157811493/ref=sr_1_1/250-1802918-
7657841?ie=UTF8&s=books
ご覧になってみてください。
ちょっと古めかしさがありましたけど、私がイメージしていた作品の雰囲気にあっていて満足。
とっつきにくいところが反って良かった感じです。
>「おれ」
え?一人称で書いてあるってことですか?
だとしたら、かなり雰囲気変わりますね。気になります。
Amazon、行ってみます。ありがとうございました。