ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

ウィリアム・サローヤンの【パパ・ユーアクレイジー】

2007-05-08 | 新潮社
 
こどもの日にちなんでと読んでいたのが、この本。
10歳の少年とその父親の生活と対話を、ウィリアム・サローヤンが少年の視点から描いた自伝風の作品です。

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 パパ・ユーアクレイジー

 著者:W.サローヤン
 訳者:伊丹 十三
 発行:新潮社
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この作品は断続的な場面を描いた短い文章がいくつも続いて、そのタイトルが並ぶ目次を見ているだけで、なんとなく詩を読んでいるような気分。

本・海・月。
ポット・車輪・剣・玩具。
道路・箱舟・学校。
ベッド・海岸・列車。

少年の生活のきらきら加減をみるよう。
最初は「本」。ここで少年は、父親から1冊の本と、「仕事」をプレゼントされます。
仕事とは「小説を書くこと。」

========
『僕、書き方を知らないんだ。』
『知っているとうそぶいて許されるのは偉大な作家だけだ。お前にはまだ早い。』
『だって、僕は何を書くの?何について?』
『お前自身についてさ、もちろん』
『僕?僕って何だろう?』
『それは小説を書いて発見するんだね。私は私で料理の本を1冊書こうと思っている。』
========

少年の10歳の誕生日をきっかけに始まった父親との生活は、事件!というようなことは起こりませんが、今まで見ていた物事を再発見する新鮮な生活。
作家である少年の父親は、彼によく見ること、正しく言葉を使えるようになることが大切といい、彼にさまざまな質問をし、そして、彼の質問にも答えていきます。
少年もまた同じように、たくさん問いかけ、そして答えを返します。
お互いに、とてもとても誠実に。

少年は、自分自身で世界を理解していこうとしています。
いつかわかるだろうという予感とともに。

いっぷう変わった親子の生活。
そして、それを伝えるのは、やはりこれも普通とは違っている訳文。
『僕』、『私』、『あなたの』、『僕の』。
人称代名詞を省略しない文章は、日本語としては読みにくいものがありますが、きちんと何かを捉えようとしている少年の視線の表れであるようにも思えて、独特の味、と感じることができます。
それでも読みにくいには違いないのですけれど。訳者の意図したところにすっかりはまった感じです。

料理本を書くという父親の料理はシンプルでおいしそう。
新聞紙がテーブルクロスの食卓や、旅先の早朝のパン屋さんなど、とても食事が楽しげでした。
食べること、食べながら語り合うことはやはり大切なことなのでしょう。
パン屋のおじさんの言葉。

『パンとチーズ、これをいつも憶えておくんだね。世の中がすっかりいやになったような時、パンとチーズを思い出すんだ。元気が戻ってくるよ』

思わず頷いてしまいました。
私は、おにぎり派ですけれど。
 
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