筝(日本のコトは琴ではないのです。)の譜面をみたことがおありだろうか。
通常の筝の弦は13弦。(弦が17ある十七弦という種類もある。私はこれの音がすきなのだけれど、邦楽器の中ではダントツにかさばる楽器だと思う。長く、しかも分解できない。)
弾くときの体から遠い弦から一、二、三となり十まで、手前の3弦は斗(と)、為(い)、巾(きん)となり、柱(じ)を立てることで音程をつくる。大雑把に言って遠いほうが低い音、近いほうが高い音。
柱(じ)は昔は象牙で、我が母は「私の持ち物の中でいくらかでも換金できるのはこれだけ。お金に困ったら売っていい。」となんでも鑑定団のようなことを言っている。
…と、譜面の話だった。
譜面は、漢数字が縦書きされ、それに歌詞があれば歌詞が併記され、弾き方の指示もある。
楽譜というよりは、お経の雰囲気。
ちなみに、口三味線はチン、トン、シャンだけれど、筝はツルツル、テン。
そんな昔ながらの譜面よりもずっと馴染みのある五線譜が学校で教えられるようになったのは明治になってから。
そんな頃の文豪たちと音楽の関わりを取り上げたのが、E姐さまからのいただきもののこの本。
曰く「きしちゃんが好きそうな本だから」。ご明察。
読んでないくせに、文豪という言葉に弱いワタクシです。
漱石が聴いたベートーヴェン 音楽に魅せられた文豪たち 著者:滝井 敬子 発行:中央公論新社 このアイテムの詳細を見る |
森鴎外、幸田露伴、島崎藤村、夏目漱石、寺田寅彦、永井荷風。
彼らの活躍した時代は西洋の文化がなだれ込んできた時代。
様々なものがあり、受け入れがたいものも多かっただろう。
だが、音楽は、例え縦が横に変わろうとも、心奪われるものの筆頭であったに違いない。
森鴎外、永井荷風はオペラに魅了され、日本のオペラを成立させようともしている。
鴎外はドイツ、荷風はアメリカに留学中にオペラに魅せられている。
台本に書き込みをしている鴎外の気合の入り方にちょっと驚いた。
幸田露伴は妹君2人が当時名の知られた音楽家。
音楽も身近であったらしく、著作の中でも<花は天上の音楽の氷った者のやうに思はれる>という一節があるという。
思わずメモッておきたいフレーズだった。
島崎藤村は音楽学校に通っていた時期があるという。洗礼も受けているということで、彼の音楽体験の初めは賛美歌ということらしい。
この本の中では藤村にだいぶページが割かれている。
藤村の部分で出てきた橘糸重という人のことは今回初めて知った。
幸田露伴の妹・幸田延と同時期に活躍したピアニストだそうだ。
歌人でもあったようで、いくつかの作品が取り上げられている。
茶の花のまろき蕾に顔書きて叱られたりしかの四畳半
少女時代の思い出を詠ったものだそうだが、何とも愛らしい歌だ。
かと思うと、何かと心をふさぐことが多かった人らしく、こんな歌も。
しのぶれどあまりにつらき夕べかな我がむねささむ剣かせ人
「つらき夕べ」の原因には藤村も入っている。藤村は彼女をモデルにした人物を作中に登場させていたことがあったらしい。
その彼女も晩年にはこのような歌を詠む心境に至ったとのこと。
わがこゝろそととりだして見つむれど何ものもなし何ものもなし
著者は「苦笑いしている彼女が目に浮かぶ」としているが、読むほうの心境によっては、いかようにも読めそうだ。
なくなったのが恨みつらみであるとすれば、達観した歌だとは思うけれど。
夏目漱石と寺田寅彦師弟は、音楽に関しては寺田寅彦がお師匠様の様子。
演奏会に言って、2人が同じ女性に気をとられていたというエピソードがおもしろかった。
まるっきりの余談だけれど、作品中の寺田寅彦の雰囲気が好きな私としては、彼がヴァイオリンを弾いているというのが嬉しいが、夏目先生とちがって、写真を見ても嬉しくないのが難点。
私の中の寺田寅彦はずっと昔に観た『帝都物語』という映画で演じていた寺泉憲さんになってしまっている。白いスーツが良くお似合いでした…。
島崎藤村・・・ちょっと前に、友人の結婚式で、彼の母校のチャペルに行ってまいりました(都の史跡にも指定されていたと思います)。
礼拝堂は2つ。プロテスタント学校なので、御像などはありません、どちらも、飾り気はないけれど、歴史を感じさせる暖かな感じのする礼拝堂でした。
ああいうところで、賛美歌を聴いた藤村が、音楽に目覚めてしまう気持ちはわかる気がします。
(余談ですが、この間書いた柳川さんの結婚式は、そこの小さいほうのチャペルがモデルだったりしました)
結婚式で、何故か皆さん歌えているのが不思議です。
私、全然分かりませんでした。
>彼の母校のチャペル
モデル、そうだったんですね。意外なつながりがちょっと嬉しい感じです。
前奏で、メロディーを一通り弾いてくれることが多いので適当にあわせると歌えます。
牧師さん・・あるいは神父さんがうたってくれる場合は、彼についてゆく(迷える仔羊状態(笑))
>一度教会でパイプオルガンつきで賛美歌を聴いてみたいなと思ったりもします。
このガッコの大きいほうの礼拝堂のパイプオルガンが、素敵です。
小さいほうの礼拝堂においてあったオルガン・・・日本で最大で最古のリードオルガン(足踏みオルガンの一種)だと、牧師様がいってました。このオルガンの音も、素朴でよかったです。
皆さん、そうだったんですね~。
>このガッコの大きいほうの礼拝堂のパイプオルガンが、素敵です。
行ってみる機会があると嬉しいんですけど。最大、最古のオルガンもそそられます。
koharuさま、あちこち行かれてますね~。
讃美歌は、子どもの頃祖父の兄弟が集まると、出ましたね。先祖代々仏教なのですが、祖父が農学校で聖書研究会に入ってたとか、弟の一人が内村鑑三のお弟子さんの娘と結婚したとか、そんな関係で「慈しみ深き」などの讃美歌はよく聞きました。でも、最近聞くのは仕事仲間や恩師の葬儀とか悲しい場面が多くて。フィンランディアや魔弾の射手は、私にとっては讃美歌の印象が強いです(^_^;)>poripori
フィンランディアや魔弾の射手がさくっとでてくるのもnarkejpさんならでは?
人のご縁もいろいろですね。私は幼稚園がそちら系だったのですが、賛美歌、全然覚えていません。生誕劇、やったのに
ちなみに、この本、駅ビルの本屋さんにありました。
確かにタイトルの割りに、漱石の部分少なかったですね~。有名度合いと、語呂の問題でしょうか。
永井荷風とオペラという取り合わせは読んでいて意外だなと思ったことを思い出します。
この本を読んだのは、去年なんですね~。懐かしいような気分です。