ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

女による女のためのR-18文学賞大賞受賞。 宮木あや子【花宵道中】

2007-11-21 | 新潮社
 
【女による女のためのR−18文学賞読者賞(第5回)】というすごいタイトルの文学賞を受賞した表題作を含む5篇の連作短篇集です。
これは『本が好き!』で提供されていた本で、その時は、どうしたものかな、と思っていたのですが、結局そのままになっていました。
で、今回、思いがけず手元に…。

花宵道中
 花宵道中
 著者:宮木あや子
 発行:新潮社
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表題作『花宵道中』で描かれるのは、遊女・朝霧の恋。
タイトルのとおり、物語を様々な花が飾ります。
枝に、髪に、衣に、肌に。
そして、恋しいその男がこの世にいないのならば、生きていることすらできなくなるような恋の果てに、朝霧は、密やかに最後の花を咲かせます。

この『花宵道中』の朝霧を軸にして、前後の遊女達の物語がその他の4編。
『薄羽蜉蝣』、『青色牡丹』、『十六夜時雨』、『雪紐観音』。
『青色牡丹』は若干違った印象を受けますが、彼女達の姿からは、趣をことにしながらもそれぞれに美しい、遊女であることの哀感が匂いたつようです。
「女のための」というのはこの哀しさのため、この作品で描かれる毒も臭みも抜かれたぬるい吉原が、もし、たとえ彼女達がただ悲しんでいる女であっても、あるいは、何もかもを諦めて生きる女であっても許容するからではないかと思います。

幼い頃に売られるという形で吉原に入った彼女達。
それは、彼女達の咎ではなく、いわれなき受難です。
借金に縛られ、成長して、客をとるようになる彼女達は、大門に閉ざされた吉原の罪無き囚人。
やってくる出来事がどのようなものでも、金で買われようとも、いくら傷つけられようとも、とりあえず受け容れなければならない彼女達は、ただ悲嘆にくれたとしても非難どころか不憫と思われ、もし立ち向かえばけなげと映ります。
そんな彼女達に贈り物のように突然訪れる恋。
その時、彼女達は遊女であることを嘆いても、遊女であることで自分を責める必要がありません。
他の男と枕を交わすことは不実でも裏切りでもなく、遊女であれば仕方の無いこと。
それどころか、他の男がつけた跡を恋しい男に触れられて、哀しみすら甘美なものとなります。
罪悪感とは無縁であるからこそかと。

評判がいいのもわかるような気がします。
一体どんなものなのやらと読み始めましたが、なんと直球な恋愛小説であることか。
文章には著者自身の呼吸があるというか、雰囲気があり、濡れ場よりも他に読みどころがありそうです。
クライマックスであるには違いなのですが、それまでの運びで盛り上げてあるからで、わざわざR-18などと断らなくてもいいではないかと思うくらい。
(いわゆる官能小説を読んだことが無いので、ほんとは比較できていない、偏見込みの発言ですが。)
5篇を読んで、それぞれの物語が互いに補完しあう良さがわかります。
引っかかっていたところも、あとから、ああ、そうか、と、合点がいくところとか。
物語のなかの女達が綺麗で、恋仲になる相手が誠実ないい男であるところが、何よりも「女のため」かもしれません。




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4 コメント

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女のための・・・ (koharu)
2007-11-23 20:20:21
R18の小説。
ほとんど読んだことがなかったのですが、
色気に乏しい自分の話を何とかしようと、一時期、ネット小説で女性が書かれたものを、あれこれと物色してみたことがございまして…
多くの話は、あっという間にRなシーンに直行…3日前に出会ったのに?OLさんなのに?教師と生徒なのに? かなり、びっくりしました。
でも、結局、ランキングの上位でもR18シーンばかりのものは中途で投げ出しました。
「なにもわざわざR18だと断らなくてもいいのでは?」というようなもののほうが面白かったです。「(私も偏見込みの発言ですが…)

>物語のなかの女達が綺麗で、恋仲になる相手が誠実ないい男であるなところが、何よりも「女のため」かもしれません。
確かに
この作品 (きし)
2007-11-24 00:11:14
参考になるかどうかはまた別の問題ですが、この作品はオススメ。
>あっという間にRなシーンに直行
ということはありません。
もちろん、そのシーンはやや濃厚かと思われますが(でも大して長くない)、唐突な感じないのですよ。
それより、koharuさんの物語にそういう色気はなくても…と思います。ワタクシ個人といたしましては…ですが
Unknown (藍色)
2008-03-19 03:16:33
はじめまして。
トラックバックさせていただきました。
美しさと切なさで胸がいっぱいになりました。
各編のつながりがとってもよかったです。

トラックバックやコメントなどいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
藍色さま (きし)
2008-03-19 19:35:22
はじめまして。いらっしゃいませ。
コメント、TBありがとうございました。

>各編のつながりが
ほんとにそうですね。1冊でおおきな1つというか。
よく出来た作品でした…。

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