ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

人気歌人の短篇集。東 直子【長崎くんの指】

2006-11-26 | and others
 
『長崎くんの指』がどうしたというのだろう?
それとも「長崎くんの指」をどうにかしてしまうのか?
長崎くんの腕は?長崎くんの足は?指以外は?
そもそも長崎くんとは誰?!

私の知りたいという気持ちをいたく刺激するこのタイトルの作品を表題作とする『長崎くんの指』は連作短篇集だ。

【長崎くんの指】clickでAmazonへ。
 長崎くんの指

 著者:東 直子
 発行:マガジンハウス
 Amazonで書評を読む


『長崎くんの指』
『バタフライガーデン』
『アマレット』
『道ばたさん』
『横穴式』
『長崎くんの今』

6つの物語がある遊園地をかすかな糸として繋がっていく。
遊園地の名前を『コキリコ・ピクニックランド』という。
この時点で、既にうら寂しいものが漂ってくる。
コキリコという音の乾いた感じや、ピクニックの明るいイメージが、さしたる呼び物もないけれど、なんとなく行ってみようか、他にないし、という遊園地をリアルに想像できてしまう。
田舎にはよくある遊園地。

物語にも同様のうら寂しさを感じる。せつない、というのとはちょっと違う。
『アマレット』では、『コキリコ・ピクニックランド』で働くマリアさんの半生と、観覧車係の森田さんの交流が描かれている。
ふたりの心の通い合いも、ラストの光景もとても美しいのだけれど、森田さんの描かれなかった時間を思うとさびしくなる。

いずれの作品も、描かれていない時間が気になってしまう。
何もかもが味気ないものだったわけではないはずだけれど、描かれていない時間が色のついていないフィルムの坦々とした連なりのように思えてしまうのだ。
振り返ったときに、ところどころ、色鮮やかに浮かび上がる部分だけを物語として読んでいる気分。
もちろん、色がない部分のほうが、ずっと長いことを思うとさびしくなってしまう。

『道ばたさん』は、突然居候がやってくるという物語。
一緒に暮らすことになった「道ばたさん」との日々を語るのが、まだ人生これからの少女であるためか、そのさびしい気分は少し薄れる。
「うかうかとしてないと、人を好きになったりできないでしょ」という母親が、道ばたさんに貸し与える赤いボディコンが妙に印象的だ。

それぞれの物語の出来事の前、出来事の後の彼らがとても気になる。
「コキリコ・ピクニックランド」の園長さんも、長崎くんも、道ばたさんも、『横穴式』で冷たい手をした双子に連れられていった彼女も。

あとがきの代わりとして短い作品が載せられている。
童話のような趣きだが、うっすらとした怖さを感じた。







※こちらの本は「本が好き!」さまよりいただきました。
 ありがとうございました。
『本』 ジャンルのランキング
コメント (2)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« チャールズ・ディケンズ【大... | トップ | 大河ドラマ『功名が辻』第47回。 »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
 (むぎこ)
2006-11-28 10:06:43
腕でもなく脚でもなく・・・・指ってなにかひかれませんか?

短編集ですね
ハードカバーなので購入と言うより
図書館 チェック本のひとつになりそうです

指・・・この響き なにか妖しげな感じがします。
なぜでしょう
 (きし)
2006-11-29 01:46:00
確かにアヤシげです。
爪、だと、どこか猟奇的な匂いが…。剥がした爪は貝殻みたいでキレイ、とか。
あっ、むぎこさま、あまり想像を逞しくしないで読まれたほうが無難だと思います…。

コメントを投稿

and others」カテゴリの最新記事

関連するみんなの記事