ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

北森鴻の文庫新刊。【支那そば館の謎~裏京都ミステリー~】

2006-08-01 | 光文社
 
連作短編という形式は好きだ。
登場人物の役割分担がきっちりと分けられていてわかりやすいし、人物の雰囲気を気に入れば、安心感にもつながる。
「はずれが少ない」という安心感。
著者の作品には連作短編が多いが、今回、文庫で読めるシリーズがひとつ増えた。

舞台は京都。
由緒はあるが、閑散としている山門に持ち込まれる事件を解いてゆく。

厄介事を持ち込む役に、地元新聞社の女性記者・折原けい。
とにかく明るく、あっけらかんと自画自賛する憎めない女の子。
厄介事を調べる役に、訳ありの寺男・有馬次郎。
前職は手練れの怪盗。今は足を洗っているが、その手腕は事件を調べるのに大いに役立つ。
ぶつぶつ言いながらも折原を手伝ってしまう。語りは彼。
厄介事の裏を見抜く役は、ご住職。
言葉少ないながら、その慧眼で事件の核になる部分が明らかになる。
で、もちろん彼らだけでは犯人は逮捕されないわけだから、警察関係者も登場人物に加わる。
北森作品の嬉しい特徴、味覚刺激担当は「寿司割烹・十兵衛」の大将。
裏(マイナー)とはいえ京都。和食である。これまた美味しそう。

今回の作品は、他の連作短編シリーズの型や印象が入り混じっているように感じた。
人間の営み、感情の機微が生む出来事に焦点が当てられる「バー・香菜里屋」シリーズ。(『花の下にて春死なむ』『桜宵』)
古物商・越名さんが、物に絡んだ謎を解いていく「雅蘭堂」シリーズ。(『孔雀狂想曲』)
劇団員を登場人物に持ってきて、雰囲気の明るい「ミケさん」シリーズ。(『メインディッシュ』)
私が今までに読んだこれらの印象が少しずつ見え隠れする。

「香菜里屋」の工藤さんの渋さの延長にご住職、料理の腕の延長に十兵衛の大将。
有馬くんはあえていえば、自分で動かざるを得ない「雅蘭堂」の越名さんをうんとアクティブにした感じか。
折原さんや全体のにぎやかさは「メイン・ディッシュ」の雰囲気かも。

などと思うのだが、他に比べてとても明るい…というか軽い印象。
有馬と折原の掛け合いや、十兵衛の大将の普通の人加減がそう思わせるのかもしれない。
途中から登場するミステリ作家・水森堅のオトボケぶりもそれを助長。
ご住職の落ち着いた雰囲気はところどころ締めてくれるし、事件としては殺人事件が多いので重いはずなのだが、こんなに著者の作品でこんなに軽い印象なのは初めて。
冒頭3ページ目で、有馬次郎をもじって「アルマジロ」ときたときにはしばし脱力した。
表紙を見たときから、むむむ?とは思っていたのだが、ある意味、看板に偽りなしといったところ。


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 支那そば館の謎 裏京都ミステリー

 著者:北森 鴻
 発行:光文社

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直近が『桜宵』だったので、かなりギャップが…。
もちろん表紙の雰囲気は心の準備にはなったし、余韻の残る作品もあったけれど。

「香菜里屋」シリーズなど落ち着いたところから、すぐにこの作品だと軽すぎると感じるかもしれない。
間に1冊くらい挟むとちょうどよさそう。
『メイン・ディッシュ』あたりがおススメ。

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 メイン・ディッシュ
 著者:北森 鴻
 発行:集英社

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劇団の花形女優ねこさんのところにいつのまにか居ついてしまった男・ミケさん。
正体不明の彼だが、料理の腕はピカイチ。
ご家庭のキッチンから絶品料理が饗される。
胃袋の刺激度はかなり高い。
お料理上手の方なら作ることも可能なのではないだろうかと思う。
連作短編だが、全体を通してミケさんという謎があるので、飽きない。
劇団の座長・小杉さんがなかなか面白くて印象に残っている。




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2 コメント

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しなそばかん (むぎこ)
2006-08-01 19:14:52
読みましたよ・・・よかった。

なんと見えない安定感

はじめ表紙をみて

本当に北森さんのかな?っておもいましたが・・しっかり北森さんでした。



アルマジロ結構この名前すきでした・・・本当はすごい人だけど。

折原さんの情報収集能力もすごいし

和尚さんはもっとすごい・・・。



超能力集団である・・・というか、京都の必殺仕事人です。



いままでの北森さんの作品とはちがったふんいきですね(といってもあまりよんでないけど)



それとなにより北森さんって食べ物の表現がとっても楽しい。

池波正太郎を思い出してしまいます。

返信する
むぎこさんも (きし)
2006-08-01 22:47:43
そう思われました?

>はじめ表紙をみて本当に北森さんのかな?

私も、シゲシゲ眺めてしまいましたもの。



相変わらずの「美味しさ」じゃなくて「美味しそう感」でしたね~。

そんなむぎこさんには「メイン・ディッシュ」もお勧めだと思います~。お時間ができたときにでも、ゼヒ
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