陽に咲く花たち。

小説連載中

Survive <7>

2007-09-17 11:45:07 | Survive
正面に立ち、頭を下げた。
教授は目の動きだけで私を全身を観察すると、小さくぽつりと呟いた。

「見ない顔だな」

「でしょうね。彼女と共に行動する事は余りありませんから」

「私の所に送ってきた写真で君の言ってきた事が嘘ではないと判断したが、彼女と親しくないのならば一層のこと。何故気づいた?」

言葉を濁しながら教授は言う。
ラナが送りつけた盗撮現場の証拠の写真を見て、ただの言いがかりではないと思ったのだろう。
この取り引きに応じなかったら被害者の女の子だけでなく、校内や他の教授のパソコンなどにもデータをばら撒くとラナはメールで言ったらしい。それを放っておくわけにもいかないだろう。

「私も彼女にどこか憧れていたんです。親しくはないけれど、遠くから眺めている事がありました。そうしているうちに気付いたんです。彼女の側にあなたの姿がよくあることに。それで眺める対象を彼女からあなたへと移しました。そうしたら予想通り」

私はメモリーカードを取り出した。
その中に教授の撮影現場の写真が入っている。
ルカ達三人で尾行をして、こっそりと現場を押さえたらしい。
自分の父親の弱みを握る写真を撮ったその時のルカの心中を察すると胸が苦しくなった。


「約束通り、このメモリーカードはお金と引き換えにこの場でお渡し致します。中身の確認をなさってください」

私はバッグから持たされたデジカメを出してメモリーカードをセットした。それを教授の方に向けて画面をスクロールさせる。

「中身は本物のようだがバックアップを取っていないという証拠はあるのか?」

「それを言ったらお話しにならないでしょう。証拠の見せようがありません。こちらを信じて頂くしかないです」

「脅迫してきた人間の言う事を信じろというのか」

「ご不満なら交渉決裂になりますね」

つまりメモリーカードはここで渡さず予定通り写真はばら撒かれるという事だ。
ばら撒かれるか、少しでも助かる道が見えている方に乗るか。
社会的地位に固執しているという教授なら乗らないわけがない。
事前にルカと想定した通り、教授はお金の入った袋を渡してきた。
私は中をちらりと確認する。人の目がある場所で一枚ずつ数えるわけにもいかなかった。50万というお金を一度に持った事はなかったが、手の中にはしっかりとした重みがあった。

「こちらも信用致します」

そう言うと私はメモリーカードを教授に渡した。
そして、三人の夢を叶える為の切符であるこのお金をバッグへと大切にしまった。
教授はメモリーカードを持った指をかざして眺めながら、興味無さそうに言い放った。

「そんで、あんたはこれと引き換えたその金をどうするんだ」

金は貯める一方で余り浪費を好まないタイプだとルカがいうこの教授は、自分の身から出た錆を苦々しく思っているのだろうか。
その日初めて私は想定問題集になかった答えを口にした。

「新しい世界を見る為です」

今まで自分には何もないと思っていた。
何も自分で動かす事なんて出来ないと思っていた。
だけど今日手にしたこのお金の重みが私に気付かせてくれた。
ほんの少し動いただけで自分や周りが変わる事もある。
いい事でも悪い事でも、自分次第で動かせる力がちゃんとあった。
それに気付けたら、もっと新しい何かが分かるのかもしれない。
私は誰かに動かされるのではなく、自分の意思を持って帰り道を歩いた。

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Survive <6>

2007-09-04 13:34:26 | Survive
それから数日、私もルカのマンションに通い、実行する為の打ち合わせを重ねた。
一番の問題は私を被害者の友達として大学生らしく見せる事だったけど、ロクがお姉さんの服をこっそり持ってきてくれ、ラナがスタイリングしてくれる事になった。
薄いピンクのワンピースを着て、短い丈のカーディガンを羽織る。いつもTシャツにデニムが休日スタイルの私はひどく落ち着かない。いかにも中学生な肩下くらいの直毛はラナがキレイにアップしてくれた。ほんのりとメイクまでした私の顔は確かに幾つか年齢を上げた。
あとはルカから今までのやり取りで、ルカのお父さんと対面した時に伝えていい事、いけない事を教えられ何度も確認をした。そして必要以上の事は話さないように、と言われる。ボロを出さない為でもあるし、話しすぎると年齢を偽っている事に気付かれる恐れがあるからだ。ルカを相手に受け答えの練習を何度かした。
“世界を変える”なんてやっぱりまだピンとは来ないけど、三人がどれだけ本気で事を進めてきたかはここ数日で充分に伝わっていた。
ここで私がヘマをするわけにはいかない。

決行は今日の午後七時。
陽が落ちて薄暗くなり、顔をハッキリと見られずに済むからだ。
身元を隠す為に、普段利用する駅より三つ先の駅にあるバスなどが発着するロータリーを待ち合わせ場所に選んだ。
ここなら人通りだってある。無茶な事はされないだろう。
少し離れた所から三人もやり取りを見届けると言った。
まだみんな小学生だ。そんな時間まで家に戻らなくてもいいのか心配したが、塾に通っている事になっているから平気だと言われた。
最近の子どもは中学受験対策などで早くから塾に通ったりと忙しいんだなぁ、と俯瞰で見る。
掛かる負荷が大きいから子ども達の世界も大人と同様に殺伐とするのではないだろうか。
そう考えていた時、私の携帯のアラームが鳴った。
七時十分前だ。注意深く行き交う周りの人達の観察を始めた。
ルカから写真は見せて貰ってある。こちらは服装を教えただけだ。きっと先に見つけられる。
先にこちらが見つけた方がより素の状態を見られる恐れがなく有利だとルカに言われていた。
三人が見守ってくれているであろう場所を確認しようと視線を周回させた時、メガネを掛けたスーツ姿の男の人が視界に入った。
髪はきっちりと固められていて、その身のこなしから隙は余りないように感じる。
写真で見たよりもずっと厳格そうに感じる実物の雰囲気に思わず足がすくんだ。
だけど、私が行くしかない。
一つ大きく息を吸い込むと、私はルカのお父さんの所に向かって歩いた。

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Survive <5>

2007-08-20 20:06:22 | Survive
そこには、一人の女の人の写真が大量に表示されていた。
よく見てみると、横顔や後ろ姿などが多くカメラ目線ではないものばかりだ。
髪の長さや服の種類から長期に渡って撮影されたものだと分かる。

「これってひょっとして盗撮したもの?」

「そう、読みがいいね。それでね、あなた咲良・・・サクって呼ばせて貰うけど、サクにはこの被害者の友達として撮影した人に会ってお金を受け取ってきてほしいの」

「お金?」

「まだこの被害者はストーカーされている事に気付いてないわ。そこでその事を餌に彼女にバラされたくなかったらお金出せ、ってね交渉したんだ。実際に写真を撮っている現場を押さえてその写真もメールに添付したの。これで言い逃れをする事も出来ない」

「それでその人は払う事になったの?お金っていくら?」

「50万円一括払い。だからサクにもそんなに面倒は掛けない。本当は被害者の友達なんて存在しないの。撮影された彼女もまだその事に気付いていない。今の時点でこの事を知っているのはラナ達だけ。ラナが友達になりすましてやり取りしてきたの。もう話はついてる。でも、いざ受け取りってなった時にラナじゃ友達って思ってもらえないでしょ?だから代役を探していたってわけ」

「待って、あなた達まだ小学生だよね?そんな大金集めてどうするつもりなの?」

「11歳。それが今何か関係あるかな?」

なんなんだ・・・この子達は。
これって犯罪だよね?
いくらストーカー犯だとしても、お金を要求したら恐喝になる。
子どもだからって許されるわけでもない。
しかも幾らなんでも額が大き過ぎる。
バラされたくないからとは言え、そんな大金をおとなしく本当に払うのだろうか。
そんな所に私は受け取りになんて行っても大丈夫なのか。
不安がよぎった事に気付いたのか、ラナは言葉を続けた。

「この撮影者は大学教授なの。そして被害者はその生徒。バレたら大変な事になるでしょ?だからお金は絶対に払う。それに・・・その撮影者ってね・・・」

そこまで言うとラナは口を閉ざして目を伏せた。
続きを待っている私に、ルカが振り返り口を開く。

「俺の父親なんだ、その教授って。父さんが不審な動きをしている事に気付いたから、試しに父さんの大学のパソコンにハッキングしてみたんだ。そうしたらこのデータが出てきた」

「ルカはね、パソコンにすっごく詳しいの。セキュリティにも気をつけてて海外のサーバーを通してブロック掛けてるみたいだから、こっちの身元がバレる心配もない。こっちの作戦に抜け目はないわ。安心した?」

「ルカは・・・それでいいの?お父さんを脅してるって事でしょ?」

「俺は平気だよ。家には金なら沢山あるし少し位貰ったって困らない。父さんの牽制にもなるだろうし誰のデメリットにもならない。それで俺達は金を手にする事が出来る。この計画を言い出したのも俺なんだ」

「ねぇサク、あなた死のうとしてたんでしょ?」

ラナが私にそう問い掛けてきた。
面と向かって尋ねられると、何だか気恥ずかしくなる。

「ロクにそういう女の人を探してきて、って頼んだから分かる。今まで自分には何も出来ないって思っていろんな事諦めてきたんじゃないの?そう思う気持ちも分かる。大人とか大多数の人間は子どもは無力だって思っているから。でもね、違うよ。子どもにだって自分達を取り巻く世界を動かす事は出来る。ラナ達はそう信じてきた」

ロクが言っていたような事をラナも繰り返した。
私は再びパソコンと向き合っているルカに目をやった。
ルカもそうなのか。

「サク、幾ら諦めてきたからって自分の命まで諦めてどうするの?待ってるだけじゃ何も変わらないよ。変えてみせるの、自分達の手で。ラナ達は大人に知られずに自分達の世界を作ろうと思ってる。サクにも見せてあげたい」

ラナが発する言葉には揺るぎない自信が溢れていて、眩い光がそこには出ていた。
私はみんなのように純粋に信じる事は出来ないかもしれない。
だけど、力を貸したいと思った。
そしていつか叶うなら、私も同じ光の中で新しい景色を見れたらいいって、そう思ったの。

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Survive <4>

2007-08-17 23:15:29 | Survive
歩きながら後ろ姿を眺めて少年の事を観察する。
少し長めのサラサラとした髪は丸っこいシルエットを作っていて、どことなく育ちの良さを窺わせる。
背筋を伸ばして凛として歩く姿もいかにもそんな感じだ。
身長から察するに小学校高学年といったところだろうか。
少年は慣れた様子で高そうなマンションのエントランスに入るとセキュリティを解除した。私もその後に続く。

「今はやむなくここで活動をしているんです」

エレベーターの中で少年が話した。

「君の家なの?」

私はそう問い掛ける。

「いえ、僕じゃなくてルカの家です。あともう一人ラナっていう女の子もいます。ルカのお母さんが仕事から帰ってくる夕方までが今の所僕達が活動出来る場所です。お母さんに気付かれる前にいつも僕達は帰るので」

「ルカ・・・ラナ・・・変わった名前だね。さっきから言ってるその活動っていうのは何なの?」

「みんな偽名を使っています。ちなみに僕の名前はここではロクって事になっています。詳しい事は着いてから説明しますよ」

そう言うとロクという少年は黙ってエレベーターが上っていく階数を示す表示パネルを見つめた。
一体ここで何が行われているのだろう。
のこのこ着いてきた自分を少し忌まわしく思ったが不思議と怖くはなかった。
例えるならば、今はサッカー試合のロスタイムみたいなもので余った時間を過ごしているのだから嫌になったらいつでも辞めればいい。
そう考えると怖さよりも自分の中に潜む好奇心みたいなものが沸々と沸いてくるのを感じた。

エレベーターは八階で止まり、ロクは降りてすぐ目の前にある部屋に入るよう私を促した。
恐る恐る私は扉を開けてみる。
すると目の前に、まるでお人形のような格好をした女の子が立っていた。
胸の辺りまである長い真っ黒な髪の前髪は眉毛の上で真っ直ぐに切り揃えられ、頭には大きなリボンのカチューシャが付いていた。それに何だかレースがいっぱい付いたドレスのような服を着ている。そして黒目がちな大きな瞳で私の事をじっと見つめていた。
その容姿に見入っていると、恐らくラナというこの少女はその顔に似合わない歪んだ笑みを浮かべると満足そうにロクに向かって話し掛けた。

「ロクってば、本当に見つけてきたんだ。うん、悪くないじゃない。ちょっとガキっぽい感じもするけど、身長もあるしカバー出来るでしょ」

そう言うと視線を私に戻し、もう一度ジロジロと私を眺めてから笑顔で手を差し出してきた。
確かに165cmと同じ歳の平均身長からいったら私の背は高かったが、それを差し引いても私より遥かに小さな子に“ガキっぽい”と言われるのは心外だった。
だけど何とも言えないこのアウエー感。私は黙ってその小さな手を握った。

「ラナです。今回の事引き受けてくれてありがとう。どうぞよろしくね」

「あ・・・森咲良です。あの今回の事って言われても私まだ何も聞いてなくて・・・協力とか出来るかわかんないんだけど」

「なんだロク話してなかったの?でも何も難しい事はないよ。ただちょっと受け取ってきて欲しいものがあるの。こっちに来てみて」

ラナは廊下の突き当たりにあるドアを開けると私を奥へと案内した。
それにしても広い家だ。うちのマンションとは比べ物にならない。この部屋に来るまでに扉が幾つもあった。
ますます私は異空間に飛び込んだような気持ちに駆られる。
奥の部屋はダイニングキッチンとリビングが一緒になっていて、その片隅に置かれているパソコンの前にもう一人男の子が座っていた。
あの子がきっとルカだ。
幼さが残るあどけない顔立ちのロクと比べて涼し気な目元が印象的だ。
ひたすらパソコン画面と向き合い、何かを打ち込んでいる。

「ルカ、あれ見せて」

ラナの声でルカが何か新しい画面を開いて私に見せた。


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Survive <3>

2007-08-16 20:58:22 | Survive
さて、どうしようと淵をそろそろと歩いてみる。
一瞬強く吹いた風に煽られて体が大きく揺れてヒヤッとした。
死ぬと決めても、それに踏み出す一歩は勇気がいる。
だけど迷ってばかりもいられない。
私は一度目を閉じると、心の中で覚悟を決めた。
よーし、さぁ行くぞ。飛び降りる為の準備作業として軽く腰を落としてしゃがみ込んだ時、不意に後ろで声がした。

「あのー、これから死のうとしているんですよね?それ」

振り返ると、小柄な少年が立っていた。
いつからいたのか。驚いて私は言葉を返せない。
普通は死のうとしている人間なんて見掛けたら気味が悪いと思うんだけど。
なんだろう、引き止めでもするつもりなのだろうか。
そうなら折角人が心を決めた所を邪魔しないで欲しい。
でも少年の目の前で飛び降りるのも何だか申し訳ない。
相手の動きを探っていると、少年はもう一度声を掛けてきた。

「あの、どうせ死ぬつもりならその命ちょっと貸してくれませんか?」

何?言っている意味が分からない。

「捨てようとしているなら、要らないって事ですよね?あなたの体が少し必要なんですけど」

何だそれ。ひょっとして臓器移植とかそんな類?
飛び降りた体の臓器なんて使い物にはならないだろう。
ってことは今、切り取るって事なのか。
想像すると、何故か身震いがした。

「とりあえず、こっちに来て貰えませんか?ちょっとその格好もどうかと思いますし」

そう言われて私は、中腰姿勢のまま少年を振り返ってフリーズしていた事に気が付いた。
確かにこれは恥ずかしいかもしれない。
私はさり気なく姿勢を起こすと、体ごと少年の方を向いた。
二人の間に隔たっているフェンスごしに話し掛ける。

「私に出来る事なんてないと思うけど。その・・・痛いのだって嫌だし」

「痛い?変な事言うんですね。死ぬ事よりも痛い事の方が嫌なんだ」

それは何ていうか。先に感じる苦痛の方が嫌だというか。
目先の事に捉われてるっていうのは分かっているんだけど・・・。
ごちゃごちゃ頭の中で言い訳をしていたら、少年は口調を強めて言ってきた。

「とにかく僕についてきてください。僕らの作戦を完成させるには大人の体が必要なんです。その体、要らないなら僕達に使わせてください」

「え、ちょっと・・・」

私だってまだ大人じゃないし。
それに作戦だとか、“僕ら”って一体誰を指しているのか・・・。
すると、少年は子どものくせに美しく眉間に皺を寄せると、まだ何か?という顔をしてみせた。
その妙な迫力に私は浮かんだ疑問を飲み込んでしまった。

「大丈夫です。あなたの心配している痛い事は何もありません。それに、あなただって世界を変えてみたいとは思いませんか?」

少年の顔は真剣だった。
真剣な顔で新興宗教も真っ青な事を言ってのけた。
だけど、それはつい数日前まで私も考えて、考えて考えた挙句諦めた事だった。
それをこの少年は、その仲間だとかは、信じているというのだろうか。
無理だと笑いたい気持ちと、少年達を羨み、夢を見られるそっち側へ私も行ってみたいという二つの気持ちが渦巻いた。
少年はもう背を向けて歩きだしている。
確かに私はこの命を捨てる所だった。
だったら捨てたつもりで、少し位この少年の言う通りに体を貸してあげてもいいかもしれない。
どうせ出鼻を挫かれているのだ。
私はフェンスを乗り越えると、少年の後を追いかけた。

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Survive <2>

2007-08-15 16:26:15 | Survive
「咲良がやってよ」
「私達友達だもんね」
「お願い、今日用事があるんだ」
「代わってあげなよ、友達でしょ?」

都合よく使われる“友達”という言葉。
押し付けられる掃除当番。
中学生にありがちな設定を作って、他のみんなは帰り支度を始める。
その用事とは、これから立ち寄るゲーセンだとかファーストフードだとかそういった下らない類の事で、そう分かりきっていても平穏が訪れる事をまだどこかで期待をし、笑顔を作って引き受ける私はもっと下らなくて情けない。
こっちが反撃に出ないと分かると、グループ内で生まれた格差はより開かれていって、今やクラス中にも知れ渡る程の構図になっていた。
そうなると、グループ外のクラスメートからも侮蔑の視線が送られる。
今までの対等な立場でなく、私は格下の人間として見られている。

私は武器を何も持っていなかった。
それを補う策も持ち合わせていなかった。
周りと同じ攻防戦に参加しているつもりでいても、実際はその手に何も持たず、ただ立ち尽くしているだけで、押し寄せてくる攻撃の波に流れ流され、気が付けば傷だらけになっていた。
これを悲観せず、何を悲観しろというのか。

「最近の若者は死に急ぎすぎる」とテレビで言っているのを見たことがあるけど、果たしてそうなのだろうか。
こんな惨めな状況を親になど言えるわけがない。
先生にだって訴えてみたところで、何かが変わるはずもない。
変わるとしたら、より「いじめる側」「いじめられる側」といった悲しい構図が明確に浮き彫りにされるだけだ。
そうしたら、私の傷はより一層増すだろう。
やめてくれ、と言えばいいのだろうか。
直接、グループに、クラスメートに、「私をいじめるのはやめてくれ」と?
そんな情けない事を懇願するくらいなら消えたいと思う。
これ以上傷を増やすくらいなら、負け戦のままでいい。
きっと私が抗ってみたところで、劇的に何かが変わるなんてありえないと思う。
どうせ、もがいたところで変わらずに、今が続いていって、このまま私を取り巻く世界に押し潰されていくのなら、そうだ!死んでみよう、とばかりにビルの屋上行きを決めてみた。
訪れるはずの明日が明るくないのなら、自ら光を失う事と何がそうも違うというのだろう。

私はやはり、律儀に靴を揃えて脱いでみた。
遺書は残していない。
死んでからも尚言いたいことがあるのなら、それは生前に伝えるべきであって、私みたいにそれが出来ないのであればもう潔く書き残すべきではないと思った。
だいたい、死んでまで自分の残した遺書でああだこうだ言われて、笑い者にされるだなんて嫌過ぎる。
そういうわけで、マスコミなどが言うように感情的になって突発的に死ぬのではなく、冷静に熟考して死ぬことを決めたのだ。
偉そうに“未来予想図”などと言ってみたけど、別にそこに大した未来が書き込まれているわけでもなかった。
これから待ち受ける予想される私の未来と、今現実に受けている痛みを比べて計ってみたら、現実からの逃避の方が上回った。そういう事だ。

15歳は余りにちっぽけだった。
現状を覆す革命なんて、自分で起こせるわけもなかった。
現実を受け入れるか、否かの二者択一だった。
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Survive <1>

2007-08-14 18:51:41 | Survive
屋上の淵に立つ。

自分の描く未来予想図に、こんな光景などなかった。
ましてや15歳。受験だ何だで忙しさ真っ盛りの時である。
本来ならこんな事をしている場合ではない。
でも現実に、私は今屋上の淵に立っている。
ここは、やはりセオリーとして靴を揃えて脱いでおくべきだろうか。
意外と余裕を持ってそんなふうに考える。
夏の始まりを待たずに、私は自分の人生を終わらせる事を決めた。
15歳の私の世界は、殆どが家と学校の往復だけで構築されていた。
その非常に狭い世界の中で、私は生き残り争奪戦から脱落した。
平和だとか謳ってみたところで、所詮この世の中はサバイバルゲームなのだ。
強い者こそが勝ち抜いていく。

私の場合、主な戦場は学校だ。
教室という名のフィールドの上では常に攻防戦が繰り広げられている。
相手に隙を見せてはならない。隙を見つけたらそこに漬け込まれる。
人間は優劣をつけたがる生き物だから。
仲の良さを演じながら、笑顔の裏では自分の優位性をどこか探して、それを保つようにみんな努力している。
じゃないと不安で堪らなくなる。
みんな自分の身を安全な所に置いておきたいのだから。
だからといって、常に突出していたらいいってもんじゃない。
目立ち過ぎたら潰される。妬ましさを抱く者たちから集中砲火を受けるのだ。
見下されてもダメ。何事もほどほどに。
柔軟に対応出来るバランス感覚の持ち主こそが最強戦士だ。
私はその重要なバランス感覚が著しく欠けていた。
最近よく“空気を読む”なんて言葉が使われているけど、きっと私はそれが下手くそなんだ。
グループの中でうまく過ごすには、いかにその場にすんなり溶け込むかに懸かっていると思う。
その輪の中に流れている空気を読んで、みんな状況を判断しているんだ。
私も努めてそうしているつもりなのに、ことごとく私はそのタイミングを外す。
きっと周りの目を気にし過ぎているから、人よりワンテンポ行動にタイムラグがあるのだ。
そして少しずつボロが出始めて、やがて不協和音となっていく。

「咲良って、つまらないよね」 何気なく発せられた一言。
その瞬間、それがグループの共通意識となって優位性が決められた。
つまり私は最下層。
これまで必死に守り抜いてきた“ほどほどに”の立ち位置から見事に引きずり下ろされる。
メッキの剥がれた私は、人目を気にしてがんじがらめになっていて臆病で何も出来ない惨めな姿だった。
みんな私と自分を比べる事で、その優位性を確認し安心してその場を過ごす事が出来る。
張り詰めていた空気は和らいで、グループ内の攻防戦は休止を迎えた。
落とし所が見つかればいいのだ。
1番弱い人間は総攻撃を受ける。

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有言不実行。

2007-08-13 22:58:33 | *葵通信*
おひさしぶりです。
街で向日葵が咲いているのを見かけて嬉しい季節になりました。
こうなる前に、やらねばならぬことが、色々あったはずですが、
やれずにここまで来ました。すみません。


明日から、新作書きます。

(前触れなし。)


しかも、以前発表したものとは別です。

プロット・・・昨日立てました。

第1話・・・今日書きました。

書いて出して、になります。
更新ペース、前以上に不安定になります。
編集加えずに出すので、話の区切りが悪いと思います。
ここで切れるのかよ、みたいな。。
でも、おつきあいくださいませ

秋までに完結目標




ちょっと紹介

タイトルSurvive(仮題)

とりあえず、これでいかせてください。
もっとピンとくるのがきたら、変えます。

主人公は中3の女の子。咲良(さくら)。


珍しく、恋愛要素、一切なし。

自分でも、こーゆぅの書けるのね、って話になると思う。。





世界を変えることは出来ますか?





見届けてください。

よろしくお願いします。



日向葵。

終わりました。

2007-06-13 11:18:29 | *葵通信*
納得して頂ける形じゃなかったかもしれない。



この話を完成し原稿に落としたのが4年前。
今回ちんたらと1年くらいかけてネット上に上げさせて頂きました。
その際、多少表現などを手直し致しました。
それでも、頭に浮かぶ書きたいイメージとぴったりリンクする表現が出てこなくて何度ももどかしい気持ちに駆られました。
私の持ってる語彙数の少なさに落胆しました。
今は、こんなものしか書けませんが、いつか成長出来たら、と思います。


茜と奏と武。
武も茜のキーパーソンです。
この後のストーリーを少し考えてみました。
茜と奏はどうなるのだろうか。
武はどうなるのだろうか。
恐らく、彼らの関係性は変わらないでしょう。
4年前、話を書いたときは、おや?と思わせるラストになっていました。
もしかしたら、他にストーリーが動くかもということです。
でも、4年の月日を経て、もう一度この登場人物と向き合った今、それはないだろうと思い、こういう結末にしました。
茜と奏の結びつき、いわば絆を信じられるようになりました。
私も大人になったのでしょうか。



何はともあれ、これで終了です。
今までお付き合い頂けた方、どうもありがとうございました!!




そして、今後の事をお話し致します。
また新しいお話を連載していこうと思います。
が、それはまだプロットが上がっている段階で、形にはなっていません。
これから入稿します。
遅筆な葵は暫くかかるかもなぁ
気長に待って頂けたら幸いです。
暇な時、このサイトに足をお運びください。
何か更新されているかもしれません(ぇ


一応、カンタンに今決まっていることをお伝え致します。
次のタイトルは「五月雨」
これもプロットは4年位前に書きました。
舞台は高校です。また学園物かよ
すいません。「青春小説家」なので。。
主人公は男の子です。
葵の中では非常に珍しいです。挑戦です。

実は葵的に「deep Red」って結構異色で、普段書いてるのとテイストが違うんです。
「五月雨」は普段の葵らしい、暗い重い話になると思います
そういうのが好きなんです・・・。。
頑張って、執筆します。その時はまた応援してやってくださいませ




あと!!
繋ぎではないですが、その連載までに、1つ絵本をここに上げます。
絵本て、また無茶苦茶な
趣味で書いてみた絵本なんですが、結構話が気に入ったので。
絵本、っていっても文字の間に挿絵程度に描いてみたもので、しかも葵のある意味、天才的画力なので、絵と呼んでいいのかも分かりませんが。
絵もしつつ、話を載せる、という試みをしてみようと思います。

箸休めにご覧下さいませ。
タイトルは「りんごの詩」です


じゃぁ、これからタイトル画でも描こうかな
では、どうもありがとうございました。
日向葵でした

deep Red <25>

2007-06-13 10:49:54 | deep Red
私は最後の仕上げを買い足した絵の具で一気に済ませた。
書き上げた途端、嬉しさと愛しさが込み上げて、暫くキャンバスを見つめ続けた。
私の思い全てを込めたこの絵を持って、奏の所へ行こう。
何の準備もしないまま、そのままの格好で私は駆け出した。
自然に足が前へと進む。
一秒でも早く奏に会いたい。



息が上がったままインターホンを押して、通された奏の部屋はすっかり荷物がまとめられていて、無機質に感じる程何も無い部屋が少し私を緊張させた。

「すごく片付いちゃったね」

「半分位向こうに荷物送ったから」

そう言って床に座る奏に、私はキャンバスを差し出した。

「こんな事しか出来なかったけど、これ」

キャンバスを受け取った奏は、そっと掛けられているカバーを外した。
そこに描かれているのは、この前海で見た時の夕陽だ。
海に落ちていく真っ赤な太陽。

「ずっと応援しているからね。もし、不安になる事があったら思い出して」

奏は何も言わない。

「私が癒すなんて無理かもしれないけど」

私は奏の前に立って、床に膝を着こうとした。
その瞬間、奏に腕を強く引っ張られて私はバランスを崩す。
受け止められた奏の腕の中で、私は息を呑み込んだ。

「茜」

問い掛けるように奏が口を開いた。

「ごめんな」

何を指してそう言うのか、奏は言葉にしなかったけど、奏の気持ちが痛い程伝わってきて私は深く頷いた。

「確かな事は何も言ってやれないけど、これからも俺はおまえの事を一番に思い出すだろうし、その度におまえに助けられていくと思う」

奏は低い声でゆっくりとそう言った。
奏の言葉が胸を打って、切なさが体に響く。

「充分だよ」

そう言うと、奏の肩にそっと腕を回した。
私の手が震えているのを隠して、精一杯に抱きしめた。
言葉はもう何も要らなくて、ただお互いの温もりを分け合った。
壁に立て掛けられた私の絵が視界に入り、窓の外から入り込む光に反射して輝いていて私は腕の力を強くした。
きっと夕陽を見る度に、私は奏の事を思い出す。
いろんな思いが込み上げてくると思う。
そんな気持ちを大切に抱きしめて、私は歩いていく。
目の前に広がっている私の道を。
奏から貰った気持ちを盾に、これからもずっと。



     *   *   *   *   *



時間だけは何も変わる事なく流れて、あっという間に後期の授業が始まった。
いつもの裏庭で私はデッサンをする。
奏も光もいなくなって、N美には私と佑だけが残された。
時々、足を止めて空を見上げてみる。
めまぐるしい勢いで季節や自分を取り巻く景色は変わっていくけど、ただ青く広がり続ける空はいつも安心出来て、少しの勇気をくれる。
私がペンを走らせていると、後ろでドアが開く音が聞こえた。

「調子はどう?」

そう呼び掛ける声に、私は振り返ると笑って言った。

「絶好調!」

そこにあるのは、いつも変わらない武の笑った顔。
それを受けて、背中を押されたみたいに私はまた向き合っていけるんだ。
夢を信じていく、強い気持ちに。




今年の夏は過ぎ去っていった。
すぐに新しい季節が訪れて、また私達を満たしていくのだろう。
幾度となく巡っていく季節の中で、そこに残された面影に私はそっと笑い掛けた。

そして、今日という日が始まっていく。
静かに、だけど確かな力で。



     *   *   *   *   *



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