正面に立ち、頭を下げた。
教授は目の動きだけで私を全身を観察すると、小さくぽつりと呟いた。
「見ない顔だな」
「でしょうね。彼女と共に行動する事は余りありませんから」
「私の所に送ってきた写真で君の言ってきた事が嘘ではないと判断したが、彼女と親しくないのならば一層のこと。何故気づいた?」
言葉を濁しながら教授は言う。
ラナが送りつけた盗撮現場の証拠の写真を見て、ただの言いがかりではないと思ったのだろう。
この取り引きに応じなかったら被害者の女の子だけでなく、校内や他の教授のパソコンなどにもデータをばら撒くとラナはメールで言ったらしい。それを放っておくわけにもいかないだろう。
「私も彼女にどこか憧れていたんです。親しくはないけれど、遠くから眺めている事がありました。そうしているうちに気付いたんです。彼女の側にあなたの姿がよくあることに。それで眺める対象を彼女からあなたへと移しました。そうしたら予想通り」
私はメモリーカードを取り出した。
その中に教授の撮影現場の写真が入っている。
ルカ達三人で尾行をして、こっそりと現場を押さえたらしい。
自分の父親の弱みを握る写真を撮ったその時のルカの心中を察すると胸が苦しくなった。
「約束通り、このメモリーカードはお金と引き換えにこの場でお渡し致します。中身の確認をなさってください」
私はバッグから持たされたデジカメを出してメモリーカードをセットした。それを教授の方に向けて画面をスクロールさせる。
「中身は本物のようだがバックアップを取っていないという証拠はあるのか?」
「それを言ったらお話しにならないでしょう。証拠の見せようがありません。こちらを信じて頂くしかないです」
「脅迫してきた人間の言う事を信じろというのか」
「ご不満なら交渉決裂になりますね」
つまりメモリーカードはここで渡さず予定通り写真はばら撒かれるという事だ。
ばら撒かれるか、少しでも助かる道が見えている方に乗るか。
社会的地位に固執しているという教授なら乗らないわけがない。
事前にルカと想定した通り、教授はお金の入った袋を渡してきた。
私は中をちらりと確認する。人の目がある場所で一枚ずつ数えるわけにもいかなかった。50万というお金を一度に持った事はなかったが、手の中にはしっかりとした重みがあった。
「こちらも信用致します」
そう言うと私はメモリーカードを教授に渡した。
そして、三人の夢を叶える為の切符であるこのお金をバッグへと大切にしまった。
教授はメモリーカードを持った指をかざして眺めながら、興味無さそうに言い放った。
「そんで、あんたはこれと引き換えたその金をどうするんだ」
金は貯める一方で余り浪費を好まないタイプだとルカがいうこの教授は、自分の身から出た錆を苦々しく思っているのだろうか。
その日初めて私は想定問題集になかった答えを口にした。
「新しい世界を見る為です」
今まで自分には何もないと思っていた。
何も自分で動かす事なんて出来ないと思っていた。
だけど今日手にしたこのお金の重みが私に気付かせてくれた。
ほんの少し動いただけで自分や周りが変わる事もある。
いい事でも悪い事でも、自分次第で動かせる力がちゃんとあった。
それに気付けたら、もっと新しい何かが分かるのかもしれない。
私は誰かに動かされるのではなく、自分の意思を持って帰り道を歩いた。
教授は目の動きだけで私を全身を観察すると、小さくぽつりと呟いた。
「見ない顔だな」
「でしょうね。彼女と共に行動する事は余りありませんから」
「私の所に送ってきた写真で君の言ってきた事が嘘ではないと判断したが、彼女と親しくないのならば一層のこと。何故気づいた?」
言葉を濁しながら教授は言う。
ラナが送りつけた盗撮現場の証拠の写真を見て、ただの言いがかりではないと思ったのだろう。
この取り引きに応じなかったら被害者の女の子だけでなく、校内や他の教授のパソコンなどにもデータをばら撒くとラナはメールで言ったらしい。それを放っておくわけにもいかないだろう。
「私も彼女にどこか憧れていたんです。親しくはないけれど、遠くから眺めている事がありました。そうしているうちに気付いたんです。彼女の側にあなたの姿がよくあることに。それで眺める対象を彼女からあなたへと移しました。そうしたら予想通り」
私はメモリーカードを取り出した。
その中に教授の撮影現場の写真が入っている。
ルカ達三人で尾行をして、こっそりと現場を押さえたらしい。
自分の父親の弱みを握る写真を撮ったその時のルカの心中を察すると胸が苦しくなった。
「約束通り、このメモリーカードはお金と引き換えにこの場でお渡し致します。中身の確認をなさってください」
私はバッグから持たされたデジカメを出してメモリーカードをセットした。それを教授の方に向けて画面をスクロールさせる。
「中身は本物のようだがバックアップを取っていないという証拠はあるのか?」
「それを言ったらお話しにならないでしょう。証拠の見せようがありません。こちらを信じて頂くしかないです」
「脅迫してきた人間の言う事を信じろというのか」
「ご不満なら交渉決裂になりますね」
つまりメモリーカードはここで渡さず予定通り写真はばら撒かれるという事だ。
ばら撒かれるか、少しでも助かる道が見えている方に乗るか。
社会的地位に固執しているという教授なら乗らないわけがない。
事前にルカと想定した通り、教授はお金の入った袋を渡してきた。
私は中をちらりと確認する。人の目がある場所で一枚ずつ数えるわけにもいかなかった。50万というお金を一度に持った事はなかったが、手の中にはしっかりとした重みがあった。
「こちらも信用致します」
そう言うと私はメモリーカードを教授に渡した。
そして、三人の夢を叶える為の切符であるこのお金をバッグへと大切にしまった。
教授はメモリーカードを持った指をかざして眺めながら、興味無さそうに言い放った。
「そんで、あんたはこれと引き換えたその金をどうするんだ」
金は貯める一方で余り浪費を好まないタイプだとルカがいうこの教授は、自分の身から出た錆を苦々しく思っているのだろうか。
その日初めて私は想定問題集になかった答えを口にした。
「新しい世界を見る為です」
今まで自分には何もないと思っていた。
何も自分で動かす事なんて出来ないと思っていた。
だけど今日手にしたこのお金の重みが私に気付かせてくれた。
ほんの少し動いただけで自分や周りが変わる事もある。
いい事でも悪い事でも、自分次第で動かせる力がちゃんとあった。
それに気付けたら、もっと新しい何かが分かるのかもしれない。
私は誰かに動かされるのではなく、自分の意思を持って帰り道を歩いた。