青空の Café time

私の中には♪
いつも青空がある♪

シトロエン2CV Part3『Antique shop III 』

2016年10月18日 | 車のショートストーリー


よし。

まずカフェに行ってコーヒーをテイクアウトしよう。

あと40分。


車を駐車場から出して彼を乗せる。

目的地は代官山通りのカフェ。

彼の情報によれば、コクのある美味しいコーヒーが飲めるらしい。

いざ出発。


助手席の彼は珍しそうに車内を見ている。

そしてシフトチェンジする私の手を見つめる。


「とても変わってますね。ギアチェンジ。どうなってるんだろう」


普通床にあるシフトレバーが90度立ち上がってダッシュボードから生えているんです。

私は彼に微笑んで説明する。

ほら。

これがニュートラル。

真っ直ぐ引いて1速。

奥まで押し込んで2速。

操作する私の手を熱心に見つめる彼。


そう。

私は手に自信がある。

女としては背が高い方なので手足も長い。

服を選ぶ時は気をつけないと、袖の長さが足りなくて手首から先が出てしまう。


でもね。

これはチャームポイントでもあるの。

毎日ケアしている滑らかな白い肌と長い手。

その手でダッシュボードの真ん中、胸の高さにあるシフトレバーを操作する。


押して。

引いて。

そのまま手首を返して押す。

あえて指輪もブレスレットも着けない私の白く滑らかな手。


優しく。

優雅に。

しなやかに。


だから。

彼に見つめられて悪い気はしない。


「運転上手いですね。でもシフト操作が難しそうだな」


ありがとう。

元々、普通の主婦でも運転できるように作られた車だから、慣れれば大丈夫。

あとで試してみます?


「え、いいんですか? あ、そういえばさっきこの車、新車だとおっしゃってましたけど。でも、はるか昔に生産終了している車ですよね」


そう。

生産が終わった2CVの残った部品を、シトロエンからフランスのある会社が買い取ったんです。

その部品をオリジナルのとおり組み上げて作ったのがこの車。

だから新車なんです。

注文してから納車まで一年待ったの。

新車で買えるクラシックカー。

素敵でしょ。


「そうなんですか!知らなかったな。でもそのクルマを選んだあなたも素敵な方だ」


え。

今何て。

素敵って言った。

私のこと。

彼を横目で見たけど、自分で何を言ったのか意識してないみたい。

へー、とか言いながら私のシフト操作見てるし。

もう。


駒沢通りに出てその先を右折。

代官山通りに入って彼の案内どおりにカフェに到着。





うん。

ちょっと古びた作りの感じの良いカフェ。

もっと時間があったらな。

ゆっくりコーヒーを飲みながら彼と。

もちろん店内で。

でも仕方がない。


彼にお任せでテイクアウトをお願いして車で待つ。

さっき。

素敵な方って言われた。

微笑む私。

さて。

頭の中でミニドライブコースを確認しよう。

恵比寿駅方面、長谷戸小学校を回ってその先を左折。

恵比寿の閑静な住宅街を抜けて代官山まで戻る。

時間があれば北からぐるっと回って彼のアンティークショップへ。

あ、彼が戻ってきた。

ありがとう。

じゃあそこのドリンクホルダーを使って。

では出発。

あと30分。


代官山から離れると車も人も少なくなる。

二人の間にコーヒーの良い香りが漂う。

キャンバストップは開けてあるので開放感抜群。

空は青空。

横には素敵な彼。

何て贅沢な時間なんだろう。

例え束の間でも。

ね。


コーヒーを一口飲んで彼に聞く。


素敵なお店ですね。

もう長いんですか。

「お店自体は20年ぐらい。3年前に僕が前のオーナーから引き継いだんです。学生の時にアルバイトをやっていて。前のオーナーからアメリカに移住するので店を手放すと聞いて、8年勤めた会社を辞めて店を引き継いだんです」


えーと。

3年前にオーナーになったのね。

8年勤めた会社を辞めて。

22歳で就職したとして、22プラス8プラス3で今33歳。

私より6歳上か。

丁度いいかも。


じゃあこの辺、交通量少ないから運転してみます?2CV。


「やってみます。あなたのように運転できる自信ないけど」


笑顔を交わし席を交代する。

はい。

真っ直ぐ引いて1速。

そのまま押して・・エンスト。

「はは。難しいです。やっぱり。でも面白いなあ」

何だか子供みたい。

目を輝かせちゃって。

綺麗な目。

素敵な声。

彼が微笑んで私も笑う。

何て楽しい時間。

でもその時間がもう。


彼の運転で何とか代官山まで戻って残り10分。

もうお店に戻らないと。

再び席を交代して私がハンドルを握る。

焦ることはない。

今日は楽しかった。

彼も楽しんでもらえただろうか。

そんなことを思いながら駒沢通りで信号待ち。

そして彼がこういった。




『また会えますか?今度はもっとゆっくりと。そしてもっとあなたのことを知りたい』




ああ私。

そんな素敵な声でそんな瞳で見つめられたら・・



「でも今度の土曜日からイギリスに買い付けに行くので。多分帰るのは十二月始めの予定なんです」



もうこの人ったら。

本当にもう。

私を喜ばせたいの?

それともがっかりさせたいの?

幸せの頂点から足を踏み外して下まで落っこちたじゃない。

もう。

一瞬彼を睨んだけど何だかとても可笑しくなって笑い出してしまった。

おかしな人。

でも何だか可愛い人だ。


信号が変わって交差点を渡り坂道を下る。

彼のお店までもう直ぐ。

私は、シフトレバーに添えている私の手を見つめている彼に言う。


イギリスから戻ったらお電話ください。今度は是非、今日流れてしまったお食事でもご一緒に。


彼が微笑んで私もとっておきの笑顔で返す。

お店に着いた。

タイムリミットの正午5分前。

さすがでしょ。

私のミニドライブ計画。

名残惜しそうな彼を降ろして、じゃあご連絡お待ちしてますと言い残し車を発進させる。


ああ。

今日は最高の日曜日だった。

素敵なコーヒータイム。

40分だけの幸せの時。

あまりお話し出来なかったけどね。

でも今日はこれでいいの。

もの足りないぐらいがちょうどいい。

まだ彼と私の物語は始まったばかり。

それに。

会えない時間もお互いの想いが積もってゆく大切な時間だから。




〜END〜


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