杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

アントキノイノチ

2009年08月11日 | 
さだまさし(著)幻冬舎(刊)
2009年5月20日 発行

21歳の杏平は、ある同級生の「悪意」をきっかけに2度、その男を殺しかけ、高校を3年で中退し、それ以来、うまく他人とかかわることにできない心の病を抱えていた。
彼を心配する父の口利きで、遺品整理業“CO-OPERS”の見習い社員になった杏平は、亡くなった方のため、ご遺族のため誠実に働く会社の先輩たち、そして同い年の明るいゆきちゃんと過ごすことで、少しずつ心がほぐれてゆく。
けれど、ある日ゆきちゃんの壮絶な過去を知り、「生命」の本当の意味を初めて知ることになる……。

本に出てくる同級生・松井というのは、自分が一番でちやほやされていないと我慢がならないというヤツで、その悪意は人を死に追いやるほどのものでした。そうやって他人を傷つけても彼自身はちっとも自分の行為を顧みることも反省することもなかったのです。悪意の塊のような松井ですが、でも彼のエゴはもしかしたら心の奥底に誰でも少しは隠し持っている悪意なのかも知れないとも思いました。だからといって、松井のしたことは許される範囲を超えているけれど。

この松井に苦しめられた高校時代と現在の“CO-OPERS”での仕事の様子が交互に書かれ、やがて二つの時が重なる一瞬に、筆者の視線の温かさを感じることができます。

杏平の働く遺品整理業という仕事はこの小説で初めて知りました。
亡くなった方の遺品を整理するだけでなく、その現場の処理も仕事のうちで、特に死後時間が経過した現場の「お掃除」場面は壮絶ですらあります。私の大嫌いなあの虫の描写はかなりキツイものでしたが、そういうことも敢えて避けずにしっかりと伝える筆の真摯さを前に、読み手もしっかりと受け止めなければという思いになりました。生半可な気持ちでは続けられない仕事ですね。

「キーパーズ」という実在する会社の方々に協力頂いての執筆だそうです。

この本を読んでいる間に大原麗子さんの孤独死のニュースとか、タクシー強盗の米兵への判決が出たりとか、なかなかにタイムリーな時期に読んじゃったなぁという気もしております。

人生の最終課題である死んだ後の身辺整理・・・生きているうちから少し真面目に考えようかな~~。

タイトルはゆきちゃんが亡くした「あの時の命」、杏平が奪い損なった命、奪い取られた命をもじったもので、二人の会話の中で登場します。この言葉とそれから連想される「元気ですかぁ」というフレーズが小説の終わりにとても爽やかな余韻を与えています。

とても重い題材を扱っているけれど、読み終わって、前に向かう勇気を貰える一冊です。

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