杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

とっても不幸な幸運

2010年09月24日 | 
畠中恵 著  双葉社 発行

ちょっとひねくれているけれど、料理自慢で世話好き店長のいる酒場。クセモノ常連客が集うこの店に、いわくつきの「とっても不幸な幸運」という名の缶が持ち込まれた。缶の中から現れたのは、不思議な幻影やベートーベンの曲や、昔の知り合いの姿・・・いったいどんな意味が?そして缶を開けた人間にもたらされたのは「災い」?それとも「幸せ」?じんわり温かく、そしてほんのり切ないファンタジックミステリー!(紹介文よ

今まで「しゃばけ」シリーズや明治を舞台とした物語ばかり読んできたのでこの作家さんの現代モノは初めて。
でも登場人物に共通する人間的な温かさ、まっすぐなところは他の物語と変わらないのね。
やっぱり好きだな~~この作家さん。

「酒場」という名の酒場に集まる人々とその関係者に起きる不思議な出来事を書いた短編小説集になっています。

第一話 のり子は缶を買う
 店長・小牧洋介の義理の娘のり子が100円ショップで見つけた缶を開けたら亡くなった母の幻影が見えた。その後洋介が友人の身に起こった困り事の相談に乗って貰える人物かどうかをこの缶で試そうとした彼女は・・

一連の出来事の触り部分となります。
高校生と違法薬物という物騒なネタですが、これを鮮やかに解決してしまう洋介ってどんな人物?という興味を抱かせます。

第二話 飯田はベートーベンを聴く
酒場の常連客、医者の飯田と妻にまつわるお話。
彼の「不滅の恋人」とは誰?ちょっと切ない大人のラブストーリー仕立て。

第三話 健也は友の名を知る
酒場のウェイターである健也にまつわるお話。
彼の過去が明らかにされ、実は多重人格であったというのは少々ぶっ飛んでる気もするけど・・とりあえず、健也が己と向き合う気持ちを持てたからいっか

第四話 花立は新宿を走る
酒場の常連客で店長の親友の警察関係者である花立が関わった事件の顛末。
時限爆弾を店に持ち込まれても落ち着いている店長と常連客って肝が据わってるというか・・やっぱり普通じゃない豪胆さの持ち主ばかり

第五話 天野はマジックを見せる
同じく常連客のマジシャン天野の過去にまつわるお話。
進路も恋人との将来も考えずにいた大学時代、ふとした一言から将来について自分の望みをはっきり自覚した天野に周囲が示した反応は・・・女が恐いのか、嫉妬が恐いのか・・どっちだ?

第六話 敬二郎は恋をする
時代が遡り、先代店長とまだ若い洋介が一人の女性を取り合ったお話。
ちょっぴり切なくほろ苦い思い出話です。
敬二郎と洋介が養子縁組した理由も描かれています。
この章には100円ショップの缶は登場しませんが、「宝探し」の鍵になるのが「缶」なんだな

そして序章には「酒場」と店長の人となりなどの説明が、終章では第一話にチラッと登場したその筋の客である阿久根の出所祝いの様子が描かれています。

作者には珍しく世の中を知る「大人」たちがメインの物語でした。

缶から出てきたのは開けた本人にとって不幸だったのか幸運だったのか?缶を開けた後でトラブルに見舞われるように思わせて、実は本人たちが心の奥に抱えていたものと対峙し乗り越えていく強さを引き出す役目を果たしていたのかも。

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