杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

さざなみ

2016年11月05日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2016年4月9日公開 イギリス 95分

イギリスの小さな地方都市に暮らす夫婦、ジェフ(トム・コートネイ)とケイト(シャーロット・ランプリング)は、結婚45年になる。子供はおらず、仕事を引退した今はささやかな日常を送っている。土曜日に結婚45周年祝賀パーティを控えた月曜日、ジェフに一通の手紙が届く。50年以上前、雪山でジェフの恋人カチャがクレパスに落ち、行方不明となっていた。しかし温暖化により雪が溶け、当時の姿のまま発見されたので遺体確認に来てほしいというスイスの警察からの手紙だった。ジェフが「ぼくのカチャ」と不用意に口にしたとき、二人の日常に変化が訪れる。ケイトに事情を説明するジェフは目の前の妻の存在を忘れ、上の空となっている。ケイトは家の中に冷たいものが入り込むのを感じる。祝賀会の下打ち合わせに出掛けたケイトは、時計店でスイス製の高級時計を見つける。45周年の記念に夫にふさわしいと思い、家に電話を掛けるが、夫は出ない。何かに気を取られて電話に出られないのだと察し、ケイトの気持ちに陰りが生まれていく。ケイトが家に戻ると、ジェフはいつもの夫に戻っていた。しかし夕食の席で、ジェフはケイトにカチャとの出来事を語り出す。警察には夫婦と言ってあり、カチャはおもちゃのような指輪を左手の薬指にしていた、と。ケイトは余裕の表情でやり過ごすが、内心は話を切り上げたくて仕方なかった。ケイトは存在しない女への嫉妬心を重ねていき、夫へのぬぎいきれない不信感を募らせていく……。(Movie Walkerより

 

まもなく結婚45周年を迎えようとしている熟年夫婦の間に立ったさざなみが次第に波紋を広げていく様が描かれています。始まりは一通の手紙。50年以上前にジェフは山での遭難事故で恋人を喪いましたが、それはまだケイトと出会う前のことです。でも行方不明だった恋人が発見されたという通知が夫婦の関係を波立たせていきます。

過去の若い日の記憶がジェフの中に甦り、亡き恋人への追憶で心が一杯になっていき、現実の生活が上の空となります。ケイトは夫が自分と出会う前の出来事と始めは理解のある態度を取りますが、心中は穏やかではありません。何しろ夫の恋人は当時ままの若さを留めた遺体で発見されているのです。同じ時を生きている生身の人間なら張り合うことも出来ますが、思い出の中の恋人と対等な勝負なんかできるわけもありません。どんどん過去の恋愛の記憶にのめりこんでいく夫に妻の苛立ちや苦悩は届かず、二人の心に隔たりが生じます。

もちろん、ジェフにとって現実の生活は生活として、ケイトに対する愛情も変わってはいないのですが、ケイトは・・・・夫へ投げかけた「もし事故がなければあなたは彼女と結婚していたの?」の問いに「イエス」と答えた彼の言葉が決定的な刃となって心を切り裂きます。だってこれまでの結婚生活のすべてを否定されたようなものだから。ジェフは何かに夢中になると周囲が見えなくなってしまう性格とされてはいますが、まったく男ってどうしてこうも無神経で考えなしなの? 

表向きは淡々とパーティの準備をしながら、ケイトの心はもはや安寧ではありません。当日、パーティの席でジェフがケイトを讃え愛していると感謝の挨拶をしても、ケイトの心は鎮まりません。映画はここで終わってしまいますが、ケイトはこの先、夫へ全幅の信頼と愛情を注ぐことはないんだろうなと感じました

 (アメリカ映画なら派手に喧嘩して腹の中をぶちまけ合ってハッピーエンドかもね~この作品は感情の襞を丁寧に描いている点では日本的なウェットさがありました。)


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