
※ドイツ薬事博物館に展示してある様々な年代の「ペニシリン」
2011年はペニシリンによる治療が始まって70年ということで、11月下旬、ドイツラジ
オ(Deutschlandradio)で抗生物質の特集がありました。ハイデルベルク大学の医学
史・医学倫理研究所所長のヴォルフガング・エッカート教授が抗生物質についてお話
しされました。それを軸に、このテーマを扱ってみたいと思います。
抗生物質の発明より前、19世紀にバクテリアが発見され、感染症に対する治療への模
索が始まりました。ロベルト・コッホは1890年に結核に対してツベルクリンを創製し
ましたが、これは治療には効果がありませんでした。その後、免疫による治療という
ことでエミール・フォン・ベーリングらにより血清療法が発見され、これによってジ
フテリアや破傷風を治療することができました。さらに、1910年パウル・エーリッヒ
は化学物質で体の組織に直接作用する化学療法による治療剤を発見し、それまで不治
の病だった梅毒が完治されるようになりました。さらに化学療法では、サルファ剤が
発見され、産褥熱、創傷、マラリア、眠り病といったものに効果が上がり、熱帯での
疾病や創傷に役立ち、ヨーロッパでの植民地政策を進める手助けとなりました。しか
しサルファ剤は結核には効かず、創傷にも効果がでないケースがありました。
ペニシリンは1929年にスコットランド人アレクサンダー・フレミングがアオカビから
発見し、それが1941年になって製剤され実用化されました。その名前はアオカビの学
術用語Penicillium notatumから来ています。第2次世界大戦中に兵士の間で臨床治療
され、効果が認められたため、連合軍の兵士の薬箱に常備されるようになりました。
ドイツは敗戦国だったため、ようやく50年代になってペニシリンが普及することにな
りました。抗生物質の発見により、感染症の克服は大きく進みましたが、別の大きな
問題が生じてきました。それは耐性の問題です。1970年代には抗生物質があまりに安
易に大量に投与されるようになりました。また食肉用のブタ、トリ等に病気の予防と
成長を促すため、低量で短い期間、抗生物質が与えるようなことが起こってきまし
た。こういった必然性に欠く抗生物質の大量使用から耐性が広がり、薬の効果が低下
しました。そして免疫低下した人、特にエイズ患者の治療に支障をきたすという大問
題をもたらしました。これに対応するには、常に新しい抗生物質を発見し合成しなけ
ればならないというジレンマに陥ったのでした。
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