アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

ヴァイオリニスト「崔文洙」に感激!

2016-10-22 10:00:00 | 音楽/芸術

前回の記事にて、上岡敏之=新日本フィルによるベートーヴェン・チクルスの凄まじさはお伝えした通りだが、この凄まじさを牽引していたのが、紛れもない今回お伝えするヴァイオリニストの崔文洙(チェ・ムンス)である。

崔文洙と名前だけ聞くと、外国人に感じるが実は日本人であり、現在は新日本フィルのコンサートマスターに就任している。この事実はアントンKは最近まで知らず、かなり意表を突かれてしまった感がある。この崔文洙との最初の出会いは、忘れもしない昨年の大フィルのコンサートの時であった。神戸で行われた大ブルックナー展第1回の演奏会の時、大フィルにとてつもないコンマスが入っていると思ったのだ。それがまさしく崔文洙であった。今にして思えば、指揮者の井上道義氏がおそらく連れて来たのかもしれないが、とにかくその時の崔文洙の印象は強烈だった。確かこのブログにも当時の印象を書き留めてあるはずだが、それ以来、心のどこかで彼のことは意識していたのである。今回、その崔文洙がソリストを務め、それも大好きなベートーヴェンのコンチェルトだという事を知り、居てもたってもいられなくなった訳だ。

アントンKにとって、今回のベートーヴェンチクルス、3曲どれも素晴らしいと感じたが、中でもヴァイオリン協奏曲は、今まで味わったことのない感動を得られた。実演では数えるほどしか聴いたことがなく、その大半がCD録音での鑑賞だったこのコンチェルトだが、おそらく今まで聴いた全てのうちでベストの演奏に入るのではないだろうか。少なくともアントンKの好みで直球ど真ん中を食らった気持である。

どの楽章も印象的だったが、やはり第1楽章は語らずにはいられない。指揮者上岡の解釈は、今回の3曲とも全曲高速進行と思いきや、実はこのコンチェルトでは、その逆に普段聴く演奏よりもじっくり演奏されていた。あとでわかったことだが、これには多分にソリストの崔文洙の解釈が作用してのことだろう。とにかく崔文洙の音色は、暖かく、しかし分厚く、そして何より叙情的で優しいのだ。その音色が聴衆一人一人に語りかけてくる訳だから、どっぷりとホールに浸かっているアントンKにはたまらなかった。崔文洙の奏でる語りのようなヴァイオリンの音色が、心の奥すみまで入ってきて慰めの音楽を聴かせるのである。何度目頭を押さえたか知れないが、ここまで気持ちのこもったヴァイオリンをアントンKは聴いたことがない。後半のカデンツァからコーダにかけての展開は、極端にテンポを落とし、かつ最弱音で演奏され、上岡敏之とのアイコンタクトを何度も繰り返しながら、コーダへと上り詰めて行ったが、このあたりが絶品だったと断言しておく。第2楽章においても、中間部で最弱音が多用され緊張感を仰ぐが、崔文洙の丁寧で暖かい音色がいつまでも耳に残る。

鳴りやまない拍手に応えて、崔文洙はバッハの無伴奏ソナタ第1番からアダージョを演奏。ここでもたっぷりと鳴らし、深く気持ちを込めた演奏であった。この日の演奏会、上岡敏之の息を飲む情熱的なベートーヴェンにも感激だが、それとは対照的に聴こえたこのコンチェルトは、暖かく心の琴線に触れる名演であったと思っている。

演奏会のチケットを買って聴きに行くようになってから、40年以上の歳月が流れたが、その中身はいつも朝比奈隆を代表したオーケストラ音楽がメインディッシュだった。リサイタルでは、やはり一番身近だったピアノリサイタルが一番多いが、今回の崔文洙との出会いで、今までとは違ったスタンスになりそうな予感がしている。

 



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