アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・写真を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

やはり本物!児玉のブルックナー

2017-05-14 05:00:00 | 音楽/芸術

一昨年に聴いた児玉宏のブルックナーが忘れられず、いつかはまた聴いてみたいと思い続けてきたが、今回再び鑑賞する機会を得た。前回の演奏会の記事は2015年10月に有るから見て頂くと有難いが、今回は神奈川フィルに客演という形で第8番、それも第一稿を使用するという。これを聴かずして何を聴くかと思われる内容である。

現代は、本当に何においても恵まれた時代になったものだ。インターネットで何でも探せてしまうし、ブルックナーの楽譜の問題も、あらゆる版が手に入る時代となった。アントンKがブルックナーを聴き始めた1970年代中ごろは、今ほどブルックナーの実演などなく、まして第8番第一稿なんぞ世界中みても演奏の実績は無かった時代だ。こんな時代に、忘れもしない、当時のNHK-FMの番組で、ブルックナー第8番のライブ放送があり、この時の解説者金子建志氏が、放送にちなんで、この第8交響曲について細かく解説された。その中で、実は第1楽章には、こんな壮大なコーダが付いていたと、この部分をオルガンで弾いて見せたのだった。このほかにも、相違するポイントを実際のオルガンを使って示したため、大変わかりやすかった思い出がある。そしてその後、現在ではマーラー指揮者の第一人者であるエリアフ・インバルが、フランクフルト放送交響楽団でこのブルックナー第8番第一稿を世界初演としてレコーディングし我々ファンを衝撃のルツボに落としたのであった。

話がそれてしまったが、現在では、この第8番初稿もCD録音の種類を簡単に選べて演奏そのものは聴ける時代。アントンKもご多分に漏れずほとんど所有しているが、こと実演となるとまだレアな楽曲ということになる訳だ。

さて今回の第8の演奏だが、やはり児玉宏は本物のブルックナー指揮者であった。奇手を狙わずそこに書いてある楽譜を素直に音に変えて我々に示し、ちょうど朝比奈隆が70年代後半から80年代にかけて次々とブルックナーの演奏を行っていた頃の響きとでも言ったらいいだろうか。響き自体は粗削りだが、非常に素朴であり、一気にアントンKの中にはブルックナーが宿ってしまったのだ。

第1楽章の出の弦楽器の響きからしてすぐにブルックナーを感じずにはいられず、同時にこれから何かとんでもない演奏が始まるという予感ができた。この楽章こそ、まだオケ自体不安定な音色もあったが、第2~第3楽章へと進むにつれてますます良くなり、大きな音楽が目の前に現れてきた。全体の印象では、弦楽器群の熱演もさることながら、管楽器の主張はポイントで際立ち、トゥッティの個所でも、バランスを崩さずに欲しい旋律のエッジが見えており感動的。特にスケルツォのトリオは、どこか郷愁ただよう心のこもった音楽が展開され、今までにない感動をもたらした。これはおそらくCD録音ではわからないし、何も伝わらず通り過ぎるだろうが、指揮者、演奏者それに聴衆との間に生まれた奇跡なのだろう。そして圧巻だったのは、フィナーレだった。冒頭の導入部から、腰の据わったメリハリの利いた弦楽器の上に管楽器群が主題を提示する。全てが見渡せるテンポといったらいいか、バランスを崩すことなく進む提示部から展開部への進行は今回の演奏の白眉だった。強烈なテインパニは、要所要所で効果があり聴衆を圧倒する。音楽がとても大きいのだ。広がるのである。頂点へと向かう上り坂では絶妙な溜めが入りブレーキを踏む。情熱的なポイントではオケをあおり突進していく。聴きながら、昔聴いたマタチッチを思い出したポイントだ。

本番前のプレトークで児玉宏は、第8でも一般的な第二稿と今日演奏する第一稿とは別の音楽だと語っていたが、確かに聴き終わった印象は異なり、今日の演奏は第二稿より楽譜が長いはずなのに短く感じてしまった。しかし今のアントンKには、正直譜面云々は関係ない。児玉宏というブルックナー指揮者の存在そのものに感謝したい気持ちだ。ミュンヘン在住であり、多忙を極めているようなので、そう簡単に次の機会は訪れないだろうが、アントンKの中で今後ますます注目して行きたい指揮者の誕生である。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団 第329回定期演奏会

ブルックナー 交響曲第8番 ハ短調(1887年第一稿)

指揮 児玉 宏

2017年5月13日 横浜  みなとみらいホール

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