社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

内海庫一郎「計量経済学におけるG.ティントナー」『統計学』第31号,1976年9月

2016-10-17 15:31:34 | 4-3.統計学史(英米派)
内海庫一郎「計量経済学におけるG.ティントナー」『統計学』(経済統計研究会)第31号,1976年9月

 筆者が本稿,執筆当時,入手したG.ティントナーの ”Methodology of Mathematical Economics and Econometrics” The University of Chicago Press,1966 で計量経済学の理論的組立の前提,仮定や立場が明示的に叙述されていることに触発され,ティントナー研究を思い立ち,その序説として書かれたのがこのノート。

 (1)ティントナーの来歴,(2)ティントナーの学問的貢献,(3)K.フォックスの「計量経済学革命」論,(4)クーンの科学革命の「一般理論」,(5)いわゆる「計量経済学革命」におけるティントナーの役割,という順序で議論が進む。ただし,(1)ティントナーの来歴に関しては,セングプタによる「ティントナー記念論文集」での詳述,またその邦訳書の「訳者あとがき」の記述に委ねられ,ティントナーの経歴はここではほとんどわからない。

 学問的貢献に関しては,上記のセングプタがまとめた業績の紹介をとりあげている。それによると,ティントナーの業績の第一は,危険と不確実性という条件のもとでの選択の非静態的理論の確立である。この理論により従来の消費者均衡の静態論は,動的均衡の特殊ケースとして位置づけられることになった。

 第二は,計量経済学の発展に彼が付け加えた様々なものである。その一つは,確率論の論理的基礎づけとその経済への適用可能性の研究,ふたつは重みをつけた回帰,多重共線性および同時方程式の情報理論的基礎を含む分析の諸問題の研究,三つめはそれらの方法の若干の計量経済モデルへの適用に関する研究である。他に計量経済学の定義問題,計量経済学の教育法の問題,英語・ドイツ語・スペイン語で計量経済学の教科書を書いたことがあげられている。  

 第三は,階差法の研究である。階差法はスムースな組織的部分と独立で非自己相関的な偶然誤差とを含むスーパーインポーズされた構成部分からなる発展的な時系列に適用される技術である。

 第四は,確率過程論とその応用の研究である。ティントナーはホーヴェルモの同時的経済関係の推定への確率論的接近がトレンドを含む非静態的な時系列に適用されえないこと,確率過程の理論が発展計画モデルに基づく政策の作用に有用でないことの2点を認識し,確率過程のいくつかの型の策定,推定および政策的応用を統合する試みを行った。

 第五は,確率プログラミングとオペレーションリサーチに関するものである。
筆者は次いで,ティントナーの計量経済学に特定の理解に関するK.フォックスの見解を要約,紹介している。そのフォックスによれば,数理経済学を含む広義の計量経済学の成熟が,ティントナーの生涯の間に,経済学の全分野に革命をもたらしたと言う。フォックスはそのことを示すために,セリグマンの「社会科学の百科辞典」(1931年)と「社会科学の国際百科辞典」(1968年)とを比較し,トーマス・クーンの「科学革命の構造」を紹介している。フォックスは前者で,両者の内容比較を行い,計量経済学の勝利に凱歌があがった,という。

 フォックスはまた計量経済学革命論の拠り所をクーンの科学革命論,パラダイム論にもとめているので,筆者はこれを検討している。新実証主義者の流れを汲むクーンの科学革命論の中心概念は,パラダイム(模範)とノーマル・サイエンス(通常科学)である。パラダイムとは,特定の科学集団により暫時,彼らの研究活動の土台として受け入れられる過去の科学的達成(概念,原理,技術,価値観などの体系)である。計量経済学の出現は,経済学の歴史におけるパラダイム交替の一例で,そこでは数学が科学一般のパラダイムになったというわけである。しかし,筆者はこのパラダイム論に疑義を示し,日本の唯物論者の批判的見解を紹介している。

 最後に,フォックスのティントナー評価の総括であるが,ティントナー自身は計量経済学の創始者ではなく,驚異的な関連する著作,論文を書いた伝道者,宣伝家であった。筆者の関心から見れば,彼は計量経済学の基礎にあるもの,その理論的背景をあからさまに示した点で,大きな貢献をなしたという。逆に彼の弱みは,政策面にはノータッチであったことである。アメリカでは計量経済学が政策形成にどぎついほど関与していた状況に照らすと,ある種,蚊帳の外にあったのかもしれない。筆者はまた,ティントナーが数学の有効性の強調と言う点で人後におちなかったとはいえ,その限界を気にしていないわけではなかった,少なくとも,ティントナーは数学の有効性の主張を特定の哲学的立場を前提に成り立つというぐらいのことはわきまえていたと,微妙な言い方をしている。
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