社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

伊藤陽一「階層別生計費指数における世帯の階層区分」『国民生活研究』第16巻3号,1977年3月

2016-10-16 16:18:12 | 9.物価指数論
伊藤陽一「階層別生計費指数における世帯の階層区分」『国民生活研究』第16巻3号,1977年3月

 国民生活センター調査研究部による「消費者物価指数研究委員会」がこの時期に実施した家計調査という実践のために書かれた論文なので,筆者は末尾でこの調査の実施のおりにどのように世帯の階層区分を行ったのかを結論として明示している。世帯区分に関して講ぜられた措置は,全世帯をどれかの階層に区分するというのではなく,特定の階層世帯を調査するという意味での階層別調査とした。その際,注目した階層は,国民の多数階層について推論を及ぼしうる標準的階層と当時の物価高において生活が強く圧迫されている階層であった。このうち標準的世帯は勤労者について,年齢は30代,40代を中心に,世帯構成としては2人,3人,4人の層を標本とし,そのうえで世帯に関する調査属性によって,世帯区分が行った。

 世帯属性に関する標識は,以下のとおりである。
A.世帯主の産業別,職業別,官民別,勤め先企業規模別。
B.世帯主年間収入,その他世帯員年間収入(したがって世帯年間収入)。
C.世帯人員収入,世帯主年齢,妻年齢,長子年齢,長子の就業の有無,有業人員,在学者・学校種別。
D.住宅所有関係,住宅の広さ,取得時期,借入金残高,各種学校・塾等への通学,自動車の所有の有無,自動車購入時期,価格,新車・中古車,および各種耐久消費財保有の有無,使用料口座自動振替の有無,背広,婦人服,紳士靴,婦人靴,さらに旅行についての過去年間における購入の有無,および価格・費用。

 物価上昇の被圧迫世帯としては,第一に老人層世帯(夫婦だけの2人世帯で,世帯年齢60歳以上),第二に低所得者層(日雇労働者世帯)。これらの世帯属性は,標準世帯について調査したもののうち,老人層世帯に設定した条件によって対象外になるものを除くすべてとした。

 結果表における諸属性の組み合わせと表示に関しては,老人層世帯と日雇労働者世帯について調べた標識を必要に応じて組み合わせた統計作成とした。家計収支表に関しては,標準世帯について世帯人員数(2人,3人,4人)で区分。うち4人世帯については収入区分,世帯主年齢(あらかじめ30代と40代に限定),住居所有関係(持家,民間借家,その他)の3標識でのクロスとした。3人世帯については収入と住居所有関係のクロス,老人層世帯についても同様とした。

 この結論にいたるまでに,筆者はいくつかのサーヴェイを行っている。それらは階層別指数という場合の「階層」という概念の含意をILOの国際労働統計家の一連の決議の整理,続いてこのうちの最も基本となる社会階級・階層に関して,日本の統計の利用可能性の吟味,さらに指数や家計関連調査で階層区分が具体的にどのように行われたのかの紹介,論評である。筆者の参加した生計費調査の目的を定め,その目的実現のための階級・階層区分,世帯属性の規定が,このサーヴェイの狙いである。

 ILOの議論では,階層別生計費指数における世帯の階層区分を行う際の幾つかの示唆が提供されている。まず調査対象世帯の確定である。標準世帯をどのように確定する場合,特定グループを考える場合,それらの代表性をどのように考えるかが重要である(「標準」「典型」)。また社会階層別の消費内容の調査(その違いをもたらす世帯の標識の検出,その標識による世帯分類)がとりわけ重要であるとの指摘がある。そして,物価上昇などで生活を強く圧迫される低所得者層,年金生活者などの社会政策の対象となる世帯の生活実態と消費内容の把握が重要である。

 筆者は階級・階層区分では,社会階級(資本家階級,小ブルジョア階層,労働者階級)を基軸にすえる必要性があると強調している。労働者階級は,生産的労働者層と不生産的労働者層の区分(社会的および工場内分業に基づく区分)と上・中・下層の区分(労働過程における役割区分)が不可欠である。後者の上・中・下層の区分では,順に指揮監督労働を代行する層,安定的な雇用関係にある層,停滞的・流動的過剰人口の層である。筆者は,こうした視点から,政府統計には階級・階層区分を明示する概念がないこと,しかし近似的に利用可能な規定があり(従業上の地位・職業分類組み合わせ表),その利用可能性を示唆し,具体的に大橋方式による階級構成を紹介している(p.17)。

 階級構成表の単位は個人であるが,筆者は世帯を単位とする家計分析が重要であるとして,世帯の階級属性区分の可能性を追求し,国勢調査を使って世帯の階級・階層属性分布表を作成している(p.19)。この表の作成方法は,統計指標研究会が定式化した。
概略以上の整理を念頭に,筆者は生計費指数計算や家計分析の際の世帯区分の検討に入る。具体的には,政府の消費者物価指数,家計調査,全国消費実態調査,東京都生計費分析調査,京都府勤労者生計費実態調査,春闘共闘家計調査,高木秀玄による研究である。生計費指数算定,家計分析における階層区分の意義は,生活実態の生活実感への反映,国民の個々の階層の具体的な性格実態分析,これらを家計収支の内容をとおして把握することにある。したがって,階層区分を単に所得階級別で行っても意味がない。

 調査対象に関して言えば,まず標準世帯は世帯属性の種々に異なった世帯を一括することは避け,できるだけ標準世帯の属性を具体的に確定しなければならない。その世帯は階級・階層に関する諸規定にそくして決めるべきである。その際,各属性のモードが考慮されるべきである(階級構成表,階級属性別世帯分布表が参考になる)。次いで特定階層の設定では,低収入によって切り詰めた生活を余儀なくされ,継続的な物価上昇の圧迫を受け,それに見合う収入獲得の手だてを欠き,生活困窮状態に陥っている社会的グループの状態を把握できる世帯が対象となる。それらは零細企業者,自営業者,中小企業労働者,臨時・日雇労働者,貧農,老齢者,その他の重度疾病患者を抱える世帯である。

 以上の検討をふまえると,従来の政府統計は全国消費実態調査を除くと消費者物価指数,家計調査とも,標識をクロスさせて対象グループを具体的に規定する概念装置がない。消費者物価指数に着目すると,この指数にウェイトを与える家計調査では,世帯人員数,世帯類型別,世帯主勤務規模別等の標識による世帯区分が行われながら,それが活用されていない。標識の内容について言及すれば,全体として収入階級ないし収入分位階級が多く,しかも単一標識で与えられることが多く,これをもとに作成された統計が平板である。対象世帯グループがどれだけ具体的に捉えられているかという視点からみると,全世帯区分とその他で,政府統計の全国消費実態調査が,また全世帯区分に関しては京都府と高木秀玄の研究が特定グループ世帯について,詳しい規定を与えている。

 これらの検討があって,冒頭のこの研究会の調査における世帯の階層区分が与えられたのであるが,それらは限られた調査資金の裏付けと現実の調査実施の可能性という制約のもとで考慮されたものである。
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