社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

岸啓二郎「家計調査の国際基準-ILO国際労働統計家会議における論議-」『研究所報』No.21977年3月

2016-10-16 11:20:00 | 10.家計調査論
岸啓二郎「家計調査の国際基準-ILO国際労働統計家会議における論議-」『研究所報』No.2(法政大学・日本統計研究所)1977年3月

 国際労働機関(ILO)に所属する国際労働統計家会議は,その創立当初から労働統計全般にわたって議論を重ねてきた。家計調査に関しても,何度かメインテーマになっている。本稿はその議論の変遷をまとめたものである。

 家計調査が主題となった会議は,第3回国際労働統計家会議が最初である。この会議は1926年10月18日から23日まで,ジュネーブで開催された。主要な議題は,(1)家計調査,(2)労働協約統計,(3)労働争議統計,(4)産業分類であった。この会議に先立って,前年4月に開催された第2回会議で家計調査を行っていない国へ調査を実施するように勧告する決議があり,これを受けての第3回会議であった。

 次に家計調査がメインテーマになったのは,第7回国際労働統計家会議(1949年)である。議題となったのは「家計研究の方法」で,このテーマとともに「国際標準職業分類」「賃金統計」「労働生産性統計」も取り上げられた。

 その後,家計調査に関する諸問題が議題となったのは,1973年10月16日から26日までの会期で開1催された第12回国際労働統計家会議である。議題は「労働統計に関する一般的検討」「賃金および雇用者所得統計」「家計調査の範囲,方法,利用」であった。

 筆者は以上の3つの大きな国際労働統計家会議の内容を,順を追って解説している。その際,会議の前に配布された決議草案を含むレポート,会議の最終報告を利用している。

 第3回国際労働統計家会議では,事前に『家計調査の実施方法』が加盟各国に配布されていた。そこでは家計調査の目的が,生活水準に関する詳細な情報を得るためと生計費指数算定のウェイトを得ることの,2点があることが指摘されていた。調査対象は曖昧であったが,それは人口を大きく等質区分した各部分の代表的世帯としている。想定されていたのは,都市の賃金労働者,サラリーマン,公務員の世帯であったようである。対象を階層別に分類することの重要性についての言及もある。調査対象に,失業世帯を加えるかどうか,世帯の家族構成に限定を加えるべきかについても議論された。調査方法に関して,センサスは無理なので種々考えられたが,継続審議になった。また調査を家計簿によるか,面接方法によるかも話題になった。他に,調査期間,収入と支出の範囲に関わる諸問題が取り上げられた。会議の審議内容には,この頃までの各国での家計調査の経験を交流しあうという気運が強く,ひとつの方向に事柄を収斂させる空気はなかった形跡がみられる。そのためか,決議は4項目しかない。

 第7回国際労働統計家会議では,家計調査全般にわたるかなり詳細な指針が出された。大きな特徴は,家計研究が人口の重要部分の全て,具体的には各種の社会的経済的階層,各種の収入階層,各種の人種的民族的集団,都市および農村部分,各種の世帯または家族にまで広げられたことである。調査目的は(1)小売物価指数の作成基準として用いられる支出の型と,(2)その収入,支出および貯蓄の分析を行うことをできるような資料を含め,生活水準に関する十分な資料を得ることとされ,第3回会議のそれと位置づけが逆になった。対象が拡大されたので,人口の各階層間の生活水準の比較という視点がより明確になっている。特別な人口階層に属する世帯(失業世帯,移民または外国人労働者世帯,鉱夫世帯など)の生活状態に関し,特別調査を行うことの必要性が特記されているのも注目点である。
調査方法ではランダムサンプリングの有用性が事務局から問題提起され,これを巡ってかなり激しい対立があった。結果として決議では,事務局の専門家を中心とするランダムサンプリングの家計調査への全面的導入という考え方が,各国の反対論によって,後退した表現になった。調査を家計簿方式で行うか,対面方式で行うかについても,依然として一つの方向に落着させるのは無理であったようで,継続審議になった。世帯の収入および支出の範囲と分類とについては多くの議論がなされた。なかでも重要だったのは,農家世帯での自家生産物の自家消費の問題で(調査対象が全人口に拡大されたことにより),その区別ができるような努力を払うべきと強調された。第3回会議では簡単にしか触れられなかった収入と支出の分類に関して,第7回会議では細かな分類がなされた。その一覧表が本稿に掲載されている(pp.67-8)。

 第12回国際労働統計家会議に先立って,「家計調査の範囲,方法,利用に関する専門家会議」がジュネーブ開かれ,この会議が戦後のこの分野の動きの一つの大きな転換点になった。会議の前に事務局がレポートを纏め,決議案とともに資料として配布された。その内容は,家計調査を国民経済計算(SNAあるいはMPS)に対応できるものに方向づけるというものであった。この方向は,各国ですでに行われていた国民所得の推計,マクロ経済分析に適合した形での家計調査の再編を追認するものであった。本稿には,具体的な収入・支出項目について,ILOの分類提案とSNAのそれとの対照表が付されている(pp.73-8)。これを仔細にながめると,必ずしも一致しない部分が多々ある。その理由は,一方では前者がマクロ的な利用だけでなく,ミクロ的な分析も可能なように分類がなされなければならないからであり,他方では発展途上国にはSNAの分類が実際の統計の利用に適合しにくいこと,さらに調査の実施にあたってSNAの分類がもとめる資料の獲得が難しいからである。   
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