社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

森博美「消費者物価指数に関する一考察-「統計局消費者物価指数」における銘柄変更の取り扱いをめぐって-」『研究所報』No.2,1977年3月

2016-10-16 16:44:13 | 9.物価指数論
森博美「消費者物価指数に関する一考察-「統計局消費者物価指数」における銘柄変更の取り扱いをめぐって-」『研究所報』No.2(法政大学・日本統計研究所)1977年3月

物価指数の計算では,基準時が5年ごとに改定され,その際,対象品目が見直される。また,銘柄変更が適宜行われる。この論文は消費者物価指数における銘柄変更の問題を,銘柄変更の内容(銘柄がなぜ,どのように変更されたのか)との関連で,分析している。

 一般に銘柄変更で,新旧銘柄の間には一定の価格差が生じ,これは主として(1)純粋の価格変動(名目的価格変動)に帰せられる部分と,(2)新旧銘柄間の品質差(実質的価格変動)の部分とからなる。それらは通常,一体のものとなって現れる。しかも,ある場合には名目的変動が価格差の主要な規定要因となり,別の場合には実質的変動がその支配的要因となる。

 銘柄変更は実際には,決まった定式がなく経験的に行われ,多様である。筆者は便宜的にそうした多様で無定形な銘柄変更事例の分類を下記のように整理している。このような分類を行った事情を筆者は次のように解説している。「本稿では,銘柄変更をその内容に応じて分類し,この一般化された銘柄変更との関連で指数処理問題を考察するという方法を採用した。銘柄変更の多様性からして,その分類が困難で,不完全なものに終わらざるをえないことはすでに十分予想される。しかしながら,銘柄変更とその指数的処理との関連を個別事例の次元で直接論じるのではなく,あえてこのような接近を試みた。なぜなら,銘柄変更の指数的処理に関して蓄積されてきた豊富な経験の整理を通して,銘柄変更の内容とその指数的処理との対応の規則を導出することは,本稿の課題にとって大きな意味をもっている。すなわち,それにより単に現行の銘柄変更の処理方式を模索するうえでも重要な参考資料を提供しうると考えられるからである」と(p.53)。(【 】内は事例)。

<Ⅰ銘柄変更なし>
・事実上の調査対象無変更(Ⅰ-Ⅰ)[単位・名称の単なる変更(Ⅰ-Ⅰ-Ⅰ)【小麦百匁⇒375g】,前銘柄を包含する変更(Ⅰ-Ⅰ-Ⅱ)【電気冷蔵庫100ℓ⇒95~105ℓ】] 
・調査方法の変更(Ⅰ-Ⅱ)[価格採取方法の変更(Ⅰ-Ⅱ-Ⅰ)【新聞朝刊⇒朝夕刊】,分割取引可能物の調査単位の変更(Ⅰ-Ⅱ-Ⅱ)【精米1kg⇒10kg】]        
<Ⅱ狭義の銘柄変更>
・調査商品名変更(Ⅱ-Ⅰ)
[モデルチェンジ(Ⅱ-Ⅰ-Ⅰ),併存商品間の変更(Ⅱ-Ⅰ-Ⅱ)【歯磨き粉「デンターライオン(175g入り)⇒「ホワイトライオン(90g入り)】],              
・調査指定項目の変更(Ⅱ-Ⅱ)
 単一項目の変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ)[素材の量的変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅰ)【テレビのインチ数の変更】,素材の質的変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅱ)(i)等級の変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅱ-Ⅰ)【上級品⇒中級品】],(ii) 材質の変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅱ-Ⅱ)【岩手わかめ⇒鳴戸わかめ】
 その他の変更の変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ)[品質指定の量的変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ-Ⅰ)【銘柄の指定重量・熱量の変更】,製造法の変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ-Ⅱ),デザインの変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ-Ⅲ)【セーター⇒カーディガン】,メカニズムの変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ-Ⅳ)【家電の構造の変化】]
 複数項目の同時変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅱ)

 筆者は次に統計技術的に可能な価格差の指数的処理方法の検討に入っている。当時の統計局
は次のような指数的処理方法を採用していた。
(a)新旧価格を指数として直接接続する方法
(b)新旧銘柄の内容比をとり,等量に換算して接続する方法
(c)新旧銘柄の価格比(リンク係数)をもとめ,比較時価格を修正して接続する方法
(d)複数の価格資料から新銘柄の旧価格を推計し,その価格比をリンク係数として用いる方法

 (a)は新旧価格差をそのまま指数として反映する。
 (b)は内容量の変化=効用の変化を前提とする。
 (c)は最も広範に使われ,銘柄変更の結果生じた価格差をすべて品質,性能の差,いわゆる「効用」の差として評価する。価格差の原因が調査主体の側にある場合には有効な方法であるが,価格差のなかに名目的価格変動要因が含まれていても指数に反映されない難点をもつ。
(d)は新銘柄価格修正のためのリンク係数を回帰推定値からもとめ,価格比で接続する方法である。

 それでは,銘柄変更とその指数処理との間には,どのような関連があるのだろうか。上記の「単位,名称の単なる変更(Ⅰ-Ⅰ-Ⅰ)」には(a)は使われ,そのままでよい。
 「前銘柄を包含する変更(Ⅰ-Ⅰ-Ⅱ)」には(a)(c)が使われているが,(a)を用いて接続するのが最も妥当である。
 「価格採取方法の変更(Ⅰ-Ⅱ-Ⅰ)」では(a)(c)が使い分けられているが,統一的に(c)で処理されなければならない。
 「分割取引可能物の調査単位の変更(Ⅰ-Ⅱ-Ⅱ)」は指数作成次元で,銘柄変更として扱われていない。「モデルチェンジ(Ⅱ-Ⅰ-Ⅰ)」では4つの方法が個々に使い分けられ,いくつかの問題を孕んでいるが(d)が一つの意味ある処理の仕方である。
 「併存商品間の変更(Ⅱ-Ⅰ-Ⅱ)」に対しては(c)の方法が適用されていて,その方法が妥当である。
 「素材の量的変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅰ)」では(c)で処理されている。やむをえない措置であるが,問題は残っている。
 「素材の質的変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅱ)」では(a)(c)の二種類の方法が使われているが,この分類で(i)級間変更には(c)が,(ii)級内変更には(a)が妥当である。
 「材質の変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅱ-Ⅱ)」でもa)(c)の二種類の方法が使われているが,(i)素材的に均一な銘柄には(c)を(ii)複数の素材により構成される銘柄には(a)の適用が妥当である。
「品質指定の量的変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ-Ⅰ)」および「製造法の変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ-Ⅱ)」には(a)が適当である。
 「デザインの変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ-Ⅲ)」にはきわめて広範な事例が含まれ,適当な類別の指針を与えることはできない。
 「メカニズムの変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ-Ⅳ)」では(i)銘柄の使用にとって副次的,補助的部分の改良,(ii)銘柄の有効性を飛躍的に増大させる核心的部分の改良に分け,前者には(a)の適用が,後者には(c)の適用が妥当である。
 「複数項目の同時変更(Ⅱ-Ⅱ-Ⅱ)」はほとんど(c)で処理せざるをえない。

 筆者は最後に膨大な計算能力を技術的前提として,銘柄の代表性が重要な課題になってきているとして,銘柄数を拡大するだけでなく,利用可能な計算能力を指数改善のために役立てるべきと指摘している。また,新たな指数化の方法の開拓だけでなく,分類項目(Ⅱ-Ⅱ)に属する銘柄について銘柄指定の観点から再度,吟味する必要がある,と述べている。
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