社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

是永純弘「インフレーションと物価指数論」松井安信編『信用と外国為替』ミネルヴァ書房, 1978年

2016-10-16 17:18:18 | 9.物価指数論
是永純弘「インフレーションと物価指数論」松井安信編『信用と外国為替』ミネルヴァ書房, 1978年

筆者は物価指数を貨幣価値変動の指標としている。物価指数が何をどのように反映しているのかについては, 諸説があるが, 物価指数が貨幣価値の変動と結びついていることを無視した議論が横行してきていることを憂慮し, それらの理論的問題点を批判的に検討したのがこの論文である。批判の対象となったのは, 山田喜志夫, 松村一隆, 宍戸駿太郎の諸説である。山田は貨幣価値の変動の実在をみとめるものの, それを測定することが不可能であるとし, また, 松村, 宍戸は, 物価指数論では, 特定の商品・サービスの特定の価額あるいは特定の経済活動に必要な貨幣量の変化を測定する特定物価指数のみが問題となるとするなどポイントが異なるが, 共通しているのは, 貨幣の価値が物価変動のいかなる要因から生じたかを貨幣比率そのものから識別することは不可能であるということである。  

山田, 松村, 宍戸のこれらの見解は, 蜷川虎三の労働価値説をベースにした物価指数論に対する批判という形で表明されたもので, 筆者はその蜷川物価指数論を擁護する立場から, いわば反批判を行っている。

それでは蜷川の物価指数論とはどのようなものなのだろうか。筆者の要約によれば, それは, 物価指数の測定対象が(1)一般物価, 貨幣価値あるいは物価水準の変動であり, (2)特定の商品の特定量の価額(単価×数量)の変化, あるいはある経済活動に必要な貨幣量の変化を測定するものではないことを明らかにする, というものである。蜷川は上記の2つの物価指数を峻別し, 一般的普遍的意味での貨幣の購買力の変化をとらえることが重要であるとした。

筆者はこの見解を受け継ぐとともに, 山田, 松村, 宍戸の一般物価指数の作成不可能, 特定物価指数への傾斜にある問題点が, 通貨の価値についての明確な規定がないこと, これと通貨の購買力との異同が明確でないこと, これらの点が全く曖昧なまま物価指数の役割を物価変動の動向の分析であることとしている。結果的に松村, 宍戸に限っていえば, 「両氏のいわゆる通貨の購買力なるカテゴリーは通貨の価値の実態から切り離されて, 単なる物価水準の逆数としての, 通俗的な意味での, いいかえると貨幣数量説的な意味での購買力に転化している」ので, 「もしそうだとすると, そのいわゆる『限定された範囲内での個別的物価指数』によって物価変動の動向を解明しようとしても, インフレによる物価変動についての事後的な記述はできるとしても, この物価変動の要因を通貨の側の要因として追及することは理論的にも困難になると考えられる」(p.306)。

 筆者は酒井一夫の解釈に依りながら, 次のように, 貨幣価値の二重性に言及している。この貨幣価値は, 貨幣単位として固定された金量の価値であり, 同時に計算貨幣としての金の価値である。したがって, 貨幣価値は二重の規定をもつ。金価値の変動にもとづく物価変動と, 金量の変更にもとづく物価変動である。前者は金生産における労働生産性の変化によって生じる実質的物価変動であり, 後者は貨幣単位の金量を国家が増減させることによって生じる名目的物価変動(インフレ・デフレ)である。また通貨が金の自然価値に依存していることは, 通貨の商品に対する相対的価値(購買力)がその金価値を離れて変動することを妨げるものではなく, 通貨の相対的価値変動は, 金為替本位制の場合, 金に対する外貨の相対的変動と, その外貨にたいする通貨の相対的変動と, 二重におこるから, その変動幅が増幅される, と。

 こうした通貨価値の二重性の理解がないとすると, 現象的な個別的商品の変動の合成結果としての物価指数の算定から, その逆数的結果としての通貨の変動の測定のほかに道はなく, 通俗的な「通貨価値」の概念に頼らざるをえない。いきおい, インフレによる通貨の減価を摘出, 分析する方向への研究は閉ざされることになる。

 筆者は以上のように, 客観価値説にたつ物価指数論の基本問題を貨幣価値変動の測定のための一般物価指数の合成にみた蜷川物価指数論の意義を確認し, 管理通貨制度のもとでの物価指数の指標体系の構築を展望し, 次のように結んでいる。「諸条件の一変した今日, ・・・金の市場価格変動, 為替相場, 通貨供給の総量, 労働生産性, 在庫と実現高といった諸指標の総合・・・によって一般物価指数ならぬ一般物価指標体系を構築する方向こそ, 蜷川氏の提起した物価指数論の基本問題への解答が見出されるのではなかろうか」(p.313)。
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