社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

木村和範「ネイマン=ピアソンの統計理論」高崎禎夫・長屋政勝編『統計的方法の生成と展開(経済学と数理統計学Ⅰ)』産業統計研究社, 1982年3月

2016-10-17 20:02:35 | 4-3.統計学史(英米派)
木村和範「ネイマン=ピアソンの統計理論」高崎禎夫・長屋政勝編『統計的方法の生成と展開(経済学と数理統計学Ⅰ)』産業統計研究社, 1982年3月

 本稿はネイマン=ピアソンの仮説検定論に焦点を絞り, その数学的特質, この理論が生み出された基盤と合理的核心を考察したものである。この考察の意義を, 筆者は仮説検定論の応用上の意義を評価する場合には, 個々の具体的研究に即して判断されるべきであるが, それが科学的研究を進めていくうえでいかなる役割を果たしているかに関しては一般的な考察が必要である点にもとめている。

最初に, J.ネイマン(1894-1981)とE. S.ピアソン(1895-1980)の略歴が簡明に叙述されている。ここでは二人が1926年から34年までに精力的な共同研究を行ったことが重要である。共同研究の成果は, 今日, 「ネイマン=ピアソン理論」と名付けられている。

 次いで, ネイマン=ピアソンの仮説検定論の例解が投銭ゲームで示されている。例解の数学的手続きをここに示すことはできないが, ネイマン=ピアソンの仮説検定論の特徴として, 母集団特性値を限定する二種類の仮説(「検定仮説」と「対立仮説」)が設定されること, 標本の大きさが決められること, 第一種過誤の確率が事前に定められること, 行動の規則があらかじめ作成され, それに従って検定仮説の採択・棄却が行われること(一回ごとの判定を確率付きで評価しない)が挙げられている。これらのことを確認しながら, 仮説検定で対立仮説が「単純仮説」の場合(母集団特性値を数直線上の一点で特定する場合)と, 「複合仮説」(母集団特性値を数直線上の任意の領域で特定する場合)の場合とに分けて例解が進められている。例解の最後に, 種々の標本の大きさに対応する検出力関数が図示されている。

 ネイマン=ピアソンの仮説検定論の予備的考察の後に, 筆者はそれとフィッシャーの仮説検定論との相違を検討している。両者の相違は当初は目立たなかったが, 1941年以降, 対立が鮮明になる。相違が6点に要約されている。①ネイマン=ピアソンは検定仮説と対立仮説を設定するが, フィッシャーは検定仮説のみを設定する。②ネイマン=ピアソンにあっては標本の大きさは事前に定められるが, フィッシャーにとってそれは重要でない。③ネイマン=ピアソンは仮説の採択・棄却の判定を機械的に反復せよとなっているが, フィッシャーでは一回限りの判定でよしとされる。④ネイマン=ピアソンでは判定の基準としての第一種の過誤があらかじめ決めることになっているが, フィッシャーでは有意水準を決めておく必要はないことになっている。⑤最終判定はネイマン=ピアソンでは検定仮説の採択か棄却であるが, フィッシャーでは検定仮説の棄却か判断の留保である。⑥ネイマン=ピアソンでは過誤の確率を頻度の意味で使うが, フィッシャーの有意水準は「確信確率」である。ネイマン=ピアソンの仮説検定論とフィッシャーのそれとでは, 仮説検定論という名称は同じでも, 内容が全く異なる。
そうなった理由を筆者は, ネイマン=ピアソンの仮説検定論が品質管理を前提していたのに対し, フィッシャーは圃場試験が基礎にあったことに, みている。関連して, 筆者はネイマン=ピアソンの仮説検定論が統計的品質管理の領域と密接に結びついていることを, 検定の目的, 過誤の概念, 過誤の確率, 検出力の4点にわたって確認し, その理論が統計的品質管理の領域を前提に定式化されたと結論付けている。

 最後に筆者は, ネイマン=ピアソンの仮説検定の合理的核心について次のように述べている。「そもそも確信確率(フィッシャーのいわゆる-引用者)では, 当るという判断が正しいということは当りクジが抽出されるという事象の生起と同意味であるとは考えられていない。この結果, 判断の確率が事象の確率を基礎とするが, 判断の確率は事象の確率とは相対的に独自の地位を得ている。・・・この困難性を立論のなかで回避し, 判断の確率と事象の確率を統一的に理解した点において, ネイマン=ピアソンの仮説検定論の合理的核心がある」と(p.181)。ネイマン=ピアソンの仮説検定論によれば, 仮説検定論は統計的仮説を機械的に採択か棄却かにふるいわける方法にすぎない。ネイマン=ピアソンの功績は, そこに仮説検定論の意義を見いだしたことにある。仮説検定論の多くの応用例では, 一回の判断に確率がつけられている。上記の仮説検定論の基本性格にてらすと, そのような応用は実行不可能な仕事を仮説検定論に課していることになる(p.182)。

付録に, フィッシャー, ワルト, サベッジの仮説検定論が, 投銭ゲームの例を使って細かく解説してあるので参考になる。
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