社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

泉弘志「購買力平価と産業連関表の多国間比較-日中韓2000年を対象に-」『産業連関』(環太平洋産業連関分析学会)第15巻第2号, 2007年

2016-10-10 11:47:59 | 8.産業連関分析とその応用
泉弘志「購買力平価と産業連関表の多国間比較-日中韓2000年を対象に-」『産業連関』(環太平洋産業連関分析学会)第15巻第2号, 2007年[李潔・梁炫玉との共同執筆](『投下労働量計算と基本統計指標-新しい経済統計学の探求』大月書店, 2014年)

 経済効率, 生産性, エネルギー効率などの国際比較を全産業について行うには, 同一形式, 同一通貨単位, 同一価格水準で表示された産業連関表がなければならない。そのために必要なのが, 購買力平価(同一通貨単位にすると同時に, 同一価格水準にする換算比率)である。この購買力平価をもとめるには種々のやり方があるが, 筆者はGK法(Geary-Khamis method)が適していると評価し, その算定を行い, その他に独自のユニークな方法として国際平均投下労働量法を提起し, その計算も示している。(この日中韓購買力推計は, 李潔, 梁炫玉との共同研究との断り書きがある。)

産業連関表を使った生産性, エネルギー効率などの国際比較を実施する場合, 各国の産業連関表には次の条件がもとめられる。第一は, それぞれの産業連関表が同一形式であること, 第二にそれらが同一通貨単位で表示されること, 第三にそれらが同一価格水準で表示されていることである。同一通貨単位にすると同時に, 同一価格水準にする換算比率である購買力平価で変換された連関表が, 実質値産業連関表である。

実質値産業連関表の3つの性質に注意が喚起されている。第一は加法整合性である。第二は基準国不変性である。第三は推移性である。加法整合性とは, 合計項目の実質値が, 構成項目の実質値と等しくなることである。基準国不変性とは, 基準国を変えても相対価格水準が変化しないことである。推移性とは, 国ごとの特定価額項目の比率が整合的でなければならないとする比率である。以上のうち, とりわけ重要なのが, 加法整合性という性質である。実質値産業連関表作成がこのようなものとなる購買力平価の算定がもとめられる。

 筆者によれば, 各国産業連関表を同一価格水準に統一する場合に, どのような価格に統一するかには3つの方法がある。①基準国価格に統一する方法, ②国際平均価格に統一する方法, ③経済理論にもとづき導出した価格に統一する方法, である。筆者はGK法を②と, 独自の国際平均投下労働量モデルにもとづく購買力平価算式を③と位置づけ, 両者の推計手順の解説に入る。

 筆者が具体的に行った作業は, 日本総務省, 中国国家統計局, 韓国銀行の2000年産業連関表を同一形式の連関表(28部門)にすることである。その手順は, 次のとおりである。
第一段階:産業部門ごとの購買力平価の推計。①基準国不変性を満たす産業部門別2国間購買力平価の計算, ②推移性を満たす産業部門別3国間購買力平価の計算

 ①によってもとめた結果は2国間ごとに基準国不変性を満足するが, 推移性を満たさない。そこで, 次の手順が必要になる。それは①の結果を利用してEKS算式(当該2か国の結果の2乗と他国を介して間接的に得られる結果とを幾何平均)によって, 産業ごとに推移性を満たす購買力平価をもとめる作業である。この結果を利用すると, 日中韓のどれかの国を基準とし, 他の2か国の産業連関表を基準国価格に変換できる。この作業によって, 産業別国内生産額および輸入額のそれぞれは, 基準国不変性と推移性を満たす産業別購買力平価を使用したことになるので, 日本価格, 中国価格, 韓国価格のいずれに変換した場合にも相対的大きさは同じである。しかし, 国内生産額輸入額合計はそうはならない。国内生産額輸入額合計も基準国不変性を満たすよう次の第二段階の作業が必要である。

 第二段階:加法整合性を満たす産業別購買力平価の推計。ここでの課題は基準国を変えても変化しない一つの価格体系で全ての国の産業連関表を表示することであるが, 問題はこの一つの価格体系として何を利用するかである。筆者は2とおり考えている。第一の方法がGK法, 第二の方法が国際平均投下労働量法である。前者は現実の各産品の各国価格を欠く産品の各国数量で加重平均した価格を使用する方法である。後者は各産品の生産に直接・間接に必要な労働量の国際平均に比例する価格を使用する方法である。

 計算結果が示されている。中国のGDP(2000年)は, 日本価格で統一した場合日本の1.79倍, 韓国価格で統一した場合日本の1.89倍であるが, GK法で国際円価格を統一した場合, 日本の1.36倍である。これを独自の国際平均投下労働量モデルで計算した労働国際円価格を採用すると, 中国のGDPは日本の2.52倍となる。「これは, 現実の価格が投下労働量に比例したものより農業や軽工業で相対的に低く重化学工業やサービスで相対的に高くなっている結果, 投下労働量をウェイトにした場合農業や軽工業のウェイトを大きくし重化学工業やサービスのウェイトを小さくするので中国の相対値を大きくし, 現実価額をウェイトにした場合は逆になるということである」(p.110)。筆者はGK法, 国際平均投下労働量法の併用を推奨している。

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