社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

山田耕之介「『統計学の諸問題に関する科学会議』の検討-その1 議事録を中心に-」有澤広巳編『統計学の対象と方法-ソヴェト統計学論争の紹介と検討-』日本評論新社, 1956年

2016-10-17 21:19:32 | 5.ロシアと旧ソ連の統計
山田耕之介「『統計学の諸問題に関する科学会議』の検討-その1 議事録を中心に-」有澤広巳編『統計学の対象と方法-ソヴェト統計学論争の紹介と検討-』日本評論新社, 1956年

 旧ソ連で1950年前半に展開された統計学の学問的性格をめぐる統計学論争を, その議事録にそくして要約, 検討した論文。

「統計学の諸問題に関する科学会議」は論争を総括し, 統計学の対象と方法を明確に定義するため, 1954年3月16日から26日までの11日間にわたって開催された。総勢760人の研究者, 実務家が参加した。報告は文書で意見をよせたものを含め80人で, その要旨は, 本書の末尾に一括して掲載されている。

 科学アカデミーのオストロヴィチャノフは, 多くの意見をかなり強引ながら, 3つの見解にまとめた。統計学を普遍科学方法論とする説(統計学は, 社会や自然の現象を研究する科学である), 社会科学方法論とする説(統計学は, 方法論的な社会科学であって, あれこれの社会現象を特徴づけている数字の資料をあつめる基礎になっている原理と, その資料を加工する方法についての学問である), 実質科学とする説(統計学は, おもに社会的生産関係, すなわち経済を研究する社会科学である)がそれらである。筆者はこの区分がたぶんに便宜的で, とくに社会科学方法論説と実質科学説の境は曖昧であると述べている。

 普遍科学方法論説を支持した論者には, ピサレフ, ヤストレムスキー, ルコムスキー, シウシェリン, メンデリソン, ケドロフ, ネムチーノフ, ウルラニス, マガリルなどである。社会科学方法論説をとった論者はドルジーニン, テネンバウム, ファルブシュタインなどである。実質科学説に属した論者は, コズロフ, マールイ, ソーボリなどである。

 討論の結果, この会議が最終的に採択した統計学の定義は, 次のような内容で, それは上記の諸見解のうち, 実質科学説的な性格のコズロフ的見地に依拠したものであった。すなわち, 統計学は, 独立の社会科学である。統計学は, 社会的大量現象の量的側面を, その質的側面と不可分の関係において研究し, 時間と場所の具体的条件のもとで, 社会発展の法則性が量的にどのようにあらわれているかを研究する。統計学は, 社会的生産の量的側面を, 生産力と生産関係の統一において研究し, 社会の文化生活や政治生活の現象を研究する。さらに統計学は, 自然的要因や技術的要因の影響と社会生活の自然的条件におよぼす社会的生産の発展とが, 社会生活の量的な変化におよぼす影響を研究する。統計学の理論的基礎は, 史的唯物論とマルクス・レーニン主義経済学である。これらの科学の原理と法則をよりどころにして, 統計学は, 社会の具体的な大量現象の量的な変化を明るみにだし, その法則性を明らかにする。

 決議が採択されたと言っても, 会議の性格を考えれば, およその結論は最初から予定されていた。筆者の紹介を読むと, 第三の実質科学的立場からの第一の立場, 第二の立場への批判があいついだようである。
主要論点は,統計学の対象と方法をどのように定義づけるかであった。関連して統計学と数学, 数理統計学, 経済学, 他の社会諸科学との関係, 大数法則の理解と位置づけ, 確率論の評価, 統計学の教科書の構成, など多岐にわたった。

 筆者はこの議事録・決議を翻訳した当事者であるので, 限られたスペースで, この会議の様子, 問題点を手際よく整理している。結論として, 既述のように, オストロヴィチャノフの整理がやや強引であること, その彼が示した統計学の定義が実質科学的立場からなされ, 普遍科学方法論説を否定したが, その否定によって数理経済学の影響が完全に消え去ったわけでなかったこと, オストロヴィチャノフによる第二の社会科学方法論説への批判の根拠が脆弱であること, などが指摘されている。また筆者は, 統計学の対象と方法を論ずるには, 統計と統計科学との区別を明確にすべきであるとの, プロシコの見解に共感を寄せている。
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