社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

大屋祐雪「日本統計制度史の一齣」『経済学研究』第30巻第5・6号,1965年2月

2016-10-08 21:22:16 | 11.日本の統計・統計学
大屋祐雪「日本統計制度史の一齣-大内委員会のこと-」『経済学研究』(九州大学経済学会)第30巻第5・6号,1965年2月

 戦後の統計制度再建を主導したのは,誰であったのか。そこに登場する主要な動きは4つあった。第一は大内兵衛を中心とする教授グループ(旧労農派),第二は連合軍総司令部の要請で来日したアメリカの学者グループ,第三は統計行政官僚グループ,第四は各省行政機関の動きである。教授グループと統計行政官僚グループとはほぼ同一の目標,すなわち統計制度の中央集権化による統計調査と統計体系の合理化をめざしていた。連合軍総司令部は,一方では占領政策遂行のために必要な統計作成を前提とした統計制度を勧告しながら(「日本の作物報告制度改善に関する勧告」),他方では近代統計制度の理想を日本で実らせようとしていた(ライス・レポート)。この連合軍総司令部の意向の前者は教授グループや統計行政官僚グループの意図と対立し,後者はこれらのグループの意向と軌を一にし,支援する関係にあった。戦後の統計制度再建をめぐる主導権問題が重要な問題であるのは,それが資本主義的統計制度の特質を知る好個の手がかりだからであり(それぞれのグループの利害関係がどのようなかたちでこの再建の過程にもちこまれ,どのグループのどのような関心と理想がどのような経緯で生かされなかったか),また日本の統計制度に内在する諸矛盾の認識を深める契機だからである。しかし,前者に関する客観的手だてはない。ここでは,後者の問題を考察する。

 統計制度再建は統計委員会が実質的に推進したが,そのスタートは統計懇談会であった(1946年5月22日)。それ以前に,すでに山中四郎が「経済安定本部ノ運用ニ関スル私見」(3月17日),「経済動態統計速報および基本統計要覧作成に関する件」(4月20日)でその示唆があった。統計懇談会はその後,統計研究会に発展的に改称する。筆者によればこの統計研究会の第二回会合(7月2日)までは,統計制度改善の問題は長期的視野で考えるとされていた。しかし,わずか2週間後には,統計制度改善の問題が前面にでてきた。「統計制度改善に関する委員会」(いわゆる大内委員会)の立ち上げである。その契機となったのは,川島直彦(統計局長)による「統計制度改善案」(川島私案)が統計研究会,内閣関係者,連合軍総司令部係官に提出されたことであった。統計制度改善の動きは,これによって一挙に加速化することになった。

 川島私案の中身は,統計制度の強力な一元化をめざす中央統計庁構想であり,統計局の首脳部がかねてから抱いていた理念の表明であった。しかし,当然のことながら,この私案に対して,「統計制度改善に関する委員会」では反対意見が多く表明された。統計法の作成,統計専門学校の設置以外では,命令権の統一,中央統計局の上位指導権,中央統計局の位置づけ,都道府県の統計課の地位などで悉く反対を受けたようである。反対あるいは関連した意見は,川島私案が行政実務と密接不可分に発達してきた日本の官庁統計の歴史と性格になじまない,中央統計局は各行政官庁の専管に属さない第一義統計の調整機関ないしは統計技術機関に限定するならば認めてよい,各省が実施する統計調査の企画,実行に関する中央調整は総合的になされなければならず,それは中央連絡機構の設置で果たされる,というものであった。この会合は,政府への答申作成のための実質的討議を小委員会に付託して散会した。

 小委員会で集中的に審議されたのは,次の3点であった。(A)中央統制機構の問題,(B)中央統計局をめぐる機構問題,(C)統計法に関する問題。筆者はこのあと,これらについて,どのような議論がなされたのかを推し量っている。話は統計制度の本質論議が行われたというよりは,統計委員会をどこに所属させ,その構成をどうしたらよいかといった実利的,かつ政略的な方向に向かったのであろう,というのが筆者の見方である。中央統計局の問題についても,その実現を一挙にはかるのは拙速となるので,先送りすることになったのではなかろうか,と。この小委員会は第二回総会(10月21日)の議を経て,「統計制度改善に関する委員会の答申」となった。

筆者は最後に2点,問題提起を行っている。一つは,ここまでの経過で主導権をとっていたのがどのグループだったのかである。記録にあらわれない抵抗勢力としてのタコ壺的官僚機構の存在を指摘している。この点については,ライス統計使節団のことを論じる際に触れるとしている。もう一つは,一連の経過の背後で動いていた総司令部の動きである。このことに関しては別途,分析すると予告して本稿は終わっている。末尾に「未完」とある。さらに「統計制度改善に関する委員会の答申」の全文が載っている。
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