社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

野澤正徳「経済計画化における部門連関バランスの意義と限界」『経済論叢』第102巻第1号,1969年

2016-10-17 21:38:19 | 5.ロシアと旧ソ連の統計
野澤正徳「経済計画化における部門連関バランスの意義と限界」『経済論叢』第102巻第1号,1969年

 部門連関バランスとは,旧ソ連(以下ソ連と略)で1950年代後半に作成された西側の産業連関表と同型の統計表である。形式は酷似しているが,基礎となる経済論はマルクス再生産論であるので,表の構成に若干の違いはある(物的生産部門と不生産的部門の区別,減価償却の表示形式)。最初の全国表は,中央統計局が1962年に作成・公表した1959年社会的生産物の部門連関バランスである。ソ連では社会主義経済の計画的運営のために長く国民経済バランスを作成し,利用していたが,部門連関バランスの作成を契機に,計画方法論に新たな問題提起がなされ,議論が交わされた。筆者は経済計画化におけるその役割,意義と限界を本稿で検討している。直接検討の対象となったのは,1962年実験的連関バランスの経験,とくにその数理的側面(バランスの数学的構成,直接支出係数と総支出係数,最終生産物にもとづく社会的総生産物の決定方法など)である。

 上記に指摘した部門連関バランスと西側の産業連関表との形式的同一性は,両者の数理的側面をみると具体的に明らかである。産業連関表の需給バランス式,投入係数,逆行列係数は,部門連関バランスではそれぞれ社会的生産物の価値の方程式,直接支出係数,総支出係数と呼び換えられている。産業連関論(表形式と分析手法)に対しては,社会統計学の分野でその批判的検討が従来あり,筆者はその成果を評価の物差しとして踏襲し,部門連関バランスの問題点を点検している。部門連関バランスにもとづく数理モデルは,種々の非現実的仮定,過度の単純化,固定化が前提されているとの指摘がそれである。

 1962年実験的連関バランスは計画バランスとしての利用が予定されていたこともあり,初期の直接支出係数がもっていた難点を克服しようという意図があったとして,筆者はその紹介を行っている。現物表示の直接支出係数で部門原理として集約的部門を採用し,また係数の内容に比例的支出部分と不比例的部分を盛り込んだことがそれである(筆者は一例としてА.Н.エフィモフ,Л.Я.ベーリによる「鋼一トンに対する耐火物資の直接支出係数」の計算手続きをあげている)。また価額表示の直接支出係数では「総生産高方式」による生産物測定方式が採用されたため,自家生産され自家消費される生産物を計上しないので,計画期間の係数の変化に影響する諸要因の推定を含む幾多の工夫が施された。筆者はその意義を求めつつ,しかし価額表示の係数の時系列比較は,依然として物的生産構造の状態を正確に反映していないこと,係数の計算の基礎となる諸経済量が集計量あるいは平均値で,その正確性は保証されていないこと,部門分割が十分な詳細度をもっていないことを難点として掲げている。

 総支出係数は以上の直接支出係数をもとに計算されるので,ここでも現実の経済過程の形式化,固定化,単純化の危険性を免れていない。とくに最終生産の需要が発生すれば部門間の生産の無限の波及過程が無時間的に,中断なく即時に実現されるとする非現実的仮定,複雑な漸近的な現実の波及過程が瞬間的に完結される過程とみなされ,異なる生産諸段階の生産諸条件(技術水準と生産組織)の変化が看過され,結果的に現実の生産諸条件が固定化されていること,総支出係数でとらえられる諸部門間の波及過程が最終生産物を保証するのに直接・間接に必要な労働対象に関する波及だけに限定され,労働手段を媒介にした波及が射程に入っていないことが大きな問題点である。

 1962年連関計画バランスによる計画指標の推定は,基本的には,59年連関報告バランスの最終生産物の諸要素の大きさを,これにほぼ対応する計画の諸要素の59-62年の発展テンポを考慮して外挿する方式であり,発展計画に間接的にリンクする方式である。筆者は,このような構想に二つの問題を指摘している。第一は最終生産物の指標と構成の問題である。部門連関バランスを推奨する論者は,最終生産物指標を総生産物から経常的物的支出(中間生産物)=再び生産的に消費される労働対象を控除した部分と規定し,消費資料,蓄積用生産手段(労働対象と労働対象在庫),磨滅補填用と労働手段を構成要素とする。筆者の考え方は年間の生産活動をとらえるには,最終生産物指標でなく,社会的生産物あるいは国民所得(物的,価値的形態)で十分に把握できる,最終生産物指標の利用は部門連関バランスでは不必要である,というものである。
第二の問題は,最終生産物の量,構成の外生的決定との関わりについての問題である。筆者は最終生産物の独立的かつ外生的決定は不可能という。なぜなら,最終生産物の要素としての消費フォンド,蓄積フォンド,摩損補填あるいは償却フォンドの量と部門構成は,社会的生産物の量と構成,したがって再生産過程の生産諸条件,社会的諸条件との内的連関に規定されるからである。最終生産物の規定の正確性を保証するには,部門・品目分類,生産物評価などを調整し,発展計画,国民経済バランスと部門連関バランスの諸指標を統合することが必要である。

 筆者の結論は次のようである。連関計画バランスはいくつかの限界をもちつつ,計画化の実際に利用でき,重要な意義をもちうる方法である。同時にバランスの構成,バランスと係数の数学的表現,統計資料的基礎の不備から生じるいくつかの難点をもつ。したがって,連関計画バランスは計画化の独立した基本的方法でありえず,この論稿が執筆された時点では国民経済バランスの補助的計画用具の位置にとどまる。(注意しなければならないのは,筆者が最後にバランスの構成と数理経済モデルの改善,統計的資料的基礎の発達により,将来さらに意味のある役割を担いうるとの予想を表明していることである。)
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