社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

伊藤陽一「統計局物価指数のしくみと問題点」『くらしを反映する指数を-消費者物価指数の問題点をえぐる-』春闘共闘委員会, 1976年7月

2016-10-16 15:35:33 | 9.物価指数論
伊藤陽一「統計局物価指数のしくみと問題点」『くらしを反映する指数を-消費者物価指数の問題点をえぐる-』春闘共闘委員会, 1976年7月

 消費者物価指数は, 以前は総理府統計局で作成されていた。総理府統計局は, 現在, 総務庁統計局となっている。作成されている消費者物価指数の作成方法, 算式などは, 今も昔も基本的に変わらない。本稿は, その消費者物価指数の基本性格と問題点を明らかにしたものである。主張の仔細は以下のとおりであるが, 大筋は汎用性があるがゆえに性格のはっきりしない現行消費者物価指数を, 国民の生活改善にとって役立つ生計費指数として作り変えよ, ということである。現に, この論稿が執筆された頃, 政府機関とは異なるところで(春闘共闘委員会など), 独自の生計費指数作成の試みがみられ, 筆者はそれらに目配りしながら, この稿を書き下ろした。

 構成はまず「消費者物価指数のしくみ」について, 注意点を示しながら紹介し, 次いで指数の性格, 非消費支出の扱い, ウェイト変更(1975年基準), 民間の指数づくりに, 順次コメントを加えていくかたちをとっている。

 「消費者物価指数のしくみについて」では数値例でそのしくみが明らかにされ, この指数は品目の価格変化が, かりにどの家計にも同じ影響を及ぼすにしても, ウェイトの取り方で異なった結果になると述べている。現行の指数計算では, 階層を問わない全世帯の家計支出の平均にもとづいて調査品目の選定によってウェイトづけが行われている。筆者はそれが虚構であるという。また, 指数が生計費であるかどうかを考えると, 現行のそれは家計が購入する消費品目とサービスの価格変化を計算の射程に入れ, 価格以外のそれは考慮していないので, それを生計費指数としてみるのは一面的であると, 指摘している。

 筆者の関心は, 現行消費者物価指数が生計費指数といえるのかどうか, という点にあったが, これに対しては否定的であるばかりか, 指数が何を反映しているのかが全くもってわかりにくくなっていると, 指摘している。

 筆者は現行消費者物価指数の性格があいまいになってしまった理由を, この指数が生計費指数ととらえられていた当時も, 対象となる家計が経営者とか自営業者も含むそれであったこと, もともと生計費指数として意図されていたこの指数が, 実感とのずれが問われるなかで消費者物価指数と名称を変更してしまったこと, などにもとめている。
森田優三もいうように, この指数は汎用物価指数となってしまったのだが, それは何にでも少しは役立つが, 特殊な目的には役立たずの指数になってしまった。政府はさらにこの指数にデフレータとしての役割をも期待するが, 内容をよく検討してみるとデフレータにも使えない。「現行指数をデフレータとして多用するのは, 厳密性をぬきにした, 便宜主義に他ならない」と筆者は述べている(p.39)。

 現行消費者物価指数の問題点としてよく知られているのは, それが家計の支出項目のなかの消費支出項目部分のみを対象としている, ということがある。これゆえに, 住宅および土地の購入は, 長く指数計算からはずされていた。また, 所得税や社会保険の負担費も, 指数計算に組み込まれてこなかった。現行消費者物価指数を生計費指数的な性格のものにすべきと主張する筆者にとって, これらの措置は不当である。政府が「住宅および土地の購入」を指数計算からはずしてきた理由は, それが投資とみなされたからである。しかし, 政府はその見解を貫くことをあらため, 1970年の基準改正のおりに, 持ち家の住宅費用を帰属家賃として指数計算に組み込むこととした。筆者からみればこの措置とて便宜的なものなので, さらに検討されなければならないとしている。また, 直接税や社会保険の負担額を指数計算からはずしてはならない, としている。

 筆者はこのような一連の改善がくわえられ, 生計費指数に近いものになったとしても, それは依然として, 価格以外の, 生計費を構成する質的な変化を考慮していない指数なので, そうした性格の指数として不十分であると述べている。しかし, 春闘共闘委員会が非消費支出を織り込んだ指数と, それを織り込まない指数との二本立てで指数を用意したことについては,これを高く評価している。

 筆者は政府の指数改善を望めないなかで, 民間による指数作成の試みを紹介し, その展開に期待を寄せている(当時は春闘共闘委員会以外にも, 私鉄総連, 第一勧銀, 統計指標研究会, 生活経済研究所, 関西大学高木ゼミナールなどが指数の作成を試みていたようである)。それらの試みに対する方向性として, 階層別生計費指数の可能性を示唆し, 若干の留意点を列挙している。第一は, 階層別指数を作成しえたとしても, 現行の指数作成方法を前提とすると, 価格上昇の家計への影響は高所得世帯と低所得世帯とでは微妙に異なるので, それぞれの計算結果を慎重に検討すべきこと, 第二に, 当然のことであるが, 階層をどのように設定するかが問われるので, これもよく検討されなければならないこと, 第三に価格調査を強化すべきこと, などである。

 「指数作成の際の消費品目・銘柄, したがってウェイトの設定を, 家計調査の示す実勢にそのまま依拠するのではなしに, 理論的検討を経た理論的標準ウェイトといったものに依拠して行うこと」(p.45)が何度も強調されている。記憶にとどめたい。
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