社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

伊藤陽一「ケインズの確率論について-基礎理論の紹介を中心に-」『統計学』第16号, 1966年10月

2016-10-18 16:48:11 | 12-3.社会科学方法論(確率基礎論)
伊藤陽一「ケインズの確率論について-基礎理論の紹介を中心に-」『統計学』(経済統計研究会)第16号, 1966年10月

 確率論の信頼度説的解釈を集大成したケインズの理論の基礎的部分を紹介, 検討した論文。筆者の案内にしたがって, ケインズ確率論を以下に学んでいきたい。

 ケインズの確率論は, 1921年に公刊されている。その編別構成は, 次のとおりである。Ⅰ編:基礎的諸概念, Ⅱ編:基礎的諸定理, Ⅲ編:機能と類比, Ⅳ編:確率の若干の哲学的応用, Ⅴ編:統計的推論の基礎。筆者はこの論文で主として, Ⅰ編, Ⅱ編, Ⅲ編までを, 紹介, 解説している。
ケインズは確率論を論理学の一部とみる。われわれの知識は, 一部分は直接的に, 一部分は論証によって間接的に獲得される。形而上学, 科学において依拠するほとんどの論証は, その結論が決定的でなく, 確からしさに何らかのウェイトを付与したものである。従来の論理学は結論に疑問をのこす論証を扱わなかったが, ケインズはこれを論理学の一部としての確率論の課題とした。

 ケインズによれば, 確率は間接的知識が獲得される過程の論理であり, 前提となる知識が与えられたときに, この知識によって結論が付与される合理的信頼度である。ここでは確率が事象ではなく, 命題の論理的な関係に与えられていることを確認しなければならない。この合理的信念の程度としての確率は, 主観的側面と客観的側面をもつが, 後者に確率論研究の意義がある。合理的信頼度の「合理的」とは, この客観性のことである。

 合理的信念の程度としての確率はまた, 必ずしも数的に測定可能なわけではない。ケインズは確率について, 量的に測定可能な場合, 大小の比較の順序づけだけが可能な場合, それらが不可能な場合, があると結論づけている。ケインズはごく限られた場合に, すなわち無差別性原理(不充分理由原理の修正されたもの)が適用可能な場合に, 数値が付与され, 多くの場合には確率間の大小比較が行いうるだけであり, ときによっては比較も不可能とした。

 数学的確率論は, 等しさの承認を不充分理由原理にもとづいて行った。ケインズはこの不充分理由原理を無差別性原理と呼び換えたが, この原理は多くの矛盾をもたらすことをよく知っていた。したがって, ケインズはこの無差別性原理が適切性の判断に依拠していることを明らかにし, 資料が選択肢に対して対称的であるべきこと, また適切性を判断するときに選択肢の意味と形とが無視されてはならないことを指摘し, 原理のより正しい適用をはかろうとした。

 筆者は概略以上のように, ケインズの合理的信頼度説を, これに関わる基本命題(知識論との関係, 確率の量的性格, 比較のための原理, 無差別性原理の再構成, 数値測定の方法など)を論ずるなかで確認している。ケインズはこれらをふまえ, さらに確率計算の公理系, 帰納と類比, 偶然論, 統計的推論について論じている。筆者は, これらのうち, 確率計算の公理系, 帰納と類比についても詳しい解説を行っている。偶然論, 統計的推論に関しては, 次の要約を与えている, 「ケインズは, 偶然を我々の有する情報との関連においてとらえ, 偶然を主観的偶然と客観的偶然とに分ける。事象についての情報が二つの事象間に関連を与えないとき, それら二つの事象は主観的意味で偶然とされ, 客観的偶然とは, この主観的偶然の特殊な場合として位置づけられて, 完全な知識, 情報すらも偶然性を変化させないときにその偶然性は客観的偶然性と考えられるべきとされる。次に統計的推論に関しては, ・・・普遍的帰納は一般化においては, 一般化された結論は例外を許さなかったのに対し, 統計的帰納は一般化にあたって事例のいくつかに反することを許すもの, 従って論じられる単位は単一の事例ではなくて, 一組あるいは一系列であるという特徴づけを行う。そしてここでも, 確率はあくまで資料との関連においてとらえられる(従って試行の経験によって次々と予測確率が変化する)という立場から, 従来の大数法則論, 統計的推論を検討するのである」と(p.15)。

 「確率論」を執筆した頃のケインズにあっては, 帰納論理を発見の論理として位置づける余地があり, それを放棄し検証の論理に焼き直す新実証主義的見地へ転落する直前でふみとどまっていた。確かに, 概念の形成から一般的知識へ至る認識過程の分析は行われず, 一般的知識がいかに形成されるかという問題意識は乏しかった。しかし, ケインズは帰納的一般化のさいに, その確率を高める要因の分析を行い, 発見の論理を否定するヒュームの問題提起に対し, 制限付きの独立変異の仮説を提出して, 帰納原理を維持しようとした。

 また, 科学的知識の成立における帰納法の位置づけでは, 帰納は諸々の論理的方法から切り離され, 量的評価の可能性が科学的知識の現実的な形成過程から乖離し, 帰納法を独立させ, これを形式化してとらえたフシがある。

帰納的知識の確からしさの量的評価を問題にするのであれば, 前提から結論にいたる, 現象的知識から科学的知識にいたる認識過程の構造, 思惟のプロセス, そこでの知識の蓋然性を規定する諸契機を明らかにすることが先ず前提作業とされるべきであって, 安易な量的評価と, それにもとづく計算体系の樹立を急ぐことは, 数理形式主義的偏向であると, 筆者は結論付けている(p.18)。
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