社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

近昭夫「A.A.チュプロフにおける帰納法と『統計的方法』」『法経研究』(静岡大学)第16巻第3・4号,1968年

2016-10-17 21:36:30 | 5.ロシアと旧ソ連の統計
近昭夫「A.A.チュプロフにおける帰納法と『統計的方法』」『法経研究』(静岡大学)第16巻第3・4号,1968年(「帰納法と統計的方法」『チュプロフの統計理論』産業統計研究社,1987年)

 筆者は冒頭で本稿の内容を提示しているので,まずそれを確認しておきたい。チュプロフによれば,統計的方法は「イデオグラフィア的」機能と「ノモグラフィア的」機能とを兼ね備えた集団を媒介に,さらに「ノモグラフィア的」科学を志向するものであった。このような統計的方法の論理的基礎は,次のように考えられる。この問題は科学的研究における帰納法と統計的方法との対立という観点から考察できる。科学的研究は多くの場合,「原因の多義性」と「結果の多義性」という事情に遭遇する。この際に帰納法は,適用不能になる。代わって使われるのが統計的方法である。この統計的方法は,ロシアの統計学者ジュラフスキーのいう「カテゴリー的計算」と一致する。より一層の研究には,確率論の導入が不可欠である。統計的方法と確率論とは,不可分な関係にある。

 以上が要約であるが,これだけでは内容がわかりにくい。筆者はこの内容を本文でパラフレーズしていく。

 チュプロフにあっては,世界に生ずる諸現象の関係には因果的連関が存在し,これを一般的公式に表すことが「ノモグラフィア的科学」の基本問題である。因果的連関を研究するには,三つの公準が前提となる。第一の公準は,「現象の反復性」(因果的連関の知覚のためにはその連関が「いつでもどこでも」繰り返されなければならないこと)である。第二,第三の公準は,「力学的複合の原理」(諸現象が要素的原因と要素的結果との因果的連関をもった諸要素から成立していること)と「因果的原子論」(それらの諸要素間の複合が当該現象の因果的連関を構成すること)である。

 従来,「ノモグラフィア的」研究に必要とされたのは,帰納の諸方法(J.S.ミルが『論理学体系』で展開した「一致法」「差異法」「一致差異併用法」「共変法」「剰余法」)であった。チュプロフは,このうち「一致法」「差異法」「共変法」にのみ言及し,その他の方法に意義を認めていない。帰納の諸方法の可能性は,原因の多義性と結果の多義性とにかかわる。ミルの帰納法は,因果関係にある2つの現象について,その諸要素が全て数え上げられることを前提とする。しかし,実際の研究では,そのような事情は稀である。原因と結果との関係は,帰納の諸方法が期待するように一義的でなく,多義的である(「原因の多数性」「結果の多数性」)。

 「原因の多数性」は,チュプロフのオリジナルではなく,すでにミルが「一致性」の不十分さを説いたくだりで言及したことであったが,ミルはそれを確率論との関連で考察することはなかった。「結果の多数性」は,それまでの論理学では無視されていた。しかしチュプロフにとって,それは重要な概念であった。「結果の多数性」は「原因の多数性」とともに確率論と密接に結びついているからである。研究にとって必要なのは,原因と結果との切り離すことのできない関係ではなく,「連関の緊密でない形態」「自由な連関」「緩い因果関係」であり,そこでは帰納の諸方法は役立たず,統計的方法が必要になる。その具体的例として,チュプロフはジュラフスキーのカテゴリー計算をあげる。統計的方法は,このカテゴリー計算と同じものである。(しかし,筆者は「カテゴリー計算」といっても,ジュラフスキーのそれと,チュプロフのそれとでは非常に異なる,と書いている。)(p.47)

 カテゴリー計算は,ジュラフスキーが『統計情報の源泉と利用について』(1846年)で展開した。ジュラフスキーは,研究方法に必要な「操作」として,対象の内的諸性質を明らかにすること(観察,実験)と対象の量的内実との関係を明らかにすること(計算)とをあげている。「計算」は事実,現象および概念の,それらの類と種による類目的計算を必要とする。このような「カテゴリー的計数法」に基づいた純粋数学の実証科学への適用が統計学の目的である。統計学は「カテゴリー計算の学」である。

 ジュラフスキーの「カテゴリー計算の学」は次のような体系であった(国状学的な色彩が強い)。
Ⅰ.資料統計学(a.基本資料,b.年代記資料,c.比較資料),Ⅱ 合理的統計学(a.基本統計学,b.応用統計学)。そして,12の主要カテゴリーをあげている(気候,地域,人口,人々の習慣,個人財産,人々の仕事と生産性,賦役と税金,災害,道徳,教育,国家の行政,国家と経済)。

 筆者は,以上のような内容をなすチュプロフの見解の特徴について,ミルの考え方との親近性(原因と結果との因果的連関を継起的関係と捉える点,原因と結果との並列的な諸要因への分解と単純な総合,3つの公準とミル帰納法の大前提)を指摘しつつ,しかし帰納法が「要素的原因」と「要素的結果」との対応関係を確定する方法に矮小化されているとみている。また,チュプロフのもう一つの考え方の特徴として,科学的研究に帰納法が用いられないときには統計的方法が代用されること,帰納法と統計的方法が同格のものとして位置づけられていることがあるという(リューメリンの考え方の継承)。

 「チュプロフの一定の時間的規定および場所的規定をもった『集団』という抽象的な概念は,その本質は,諸現象間の連関の『非規定性』を,いわば救済するために考え出されたものであり,『非規定性』故に,直ちに確率論と結びつく,とされている。というよりむしろ,それは統計的方法の基礎づけに確率論を導入することを合理化するために,考え出されたものである,と言った方がより適切であろう」。(p.47)
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