社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

伊藤陽一「アメリカ合衆国労働統計局と失業統計および消費者物価指数」『経済志林』第51巻2号, 1983年10月

2016-10-16 20:23:48 | 9.物価指数論
伊藤陽一「アメリカ合衆国労働統計局と失業統計および消費者物価指数」『経済志林』第51巻2号, 1983年10月

 アメリカ労働省・アメリカ合衆国労働統計局(BLS:Bureau of Labor Statistics)の制度とその沿革, そして労働統計局が発表している労働力・失業統計と消費者物価指数の概略を紹介した論文。
構成は次のとおりである。
Ⅰ アメリカ合衆国労働統計局の歴史と活動
1 労働統計局の沿革
2 労働統計局の現況 (1)制度 (2)民意吸収の仕組み (3)作成統計
Ⅱ アメリカ合衆国労働統計局の活動と統計をめぐって
1 統計活動の政治色化
2 労働力・失業統計 (1)現行労働力・失業統計とCPS (2)労働力・失業統計概念の推移 (3)失業統計の批判をめぐる論議
3 生計費指数と消費者物価指数 (1)現行CPIの概略 (2)生計費指数・CPI概念の推移 (3)CPIの批判をめぐって
 以下では, 紙幅の関係で, Ⅰの2, Ⅱの1, 2を省略し, BLSの沿革, 「生計費指数と消費者物価指数」の部分を要約する。

 労働統計局(BLS)は, その起源を内務省労働統計局(1885年)とし, 以降, 労働省(1888年), 商務・労働省労働局(1903年)を経て, 現在の労働省労働統計局(1913年)に至る。筆者は, 概略以上の沿革について, それを平板に説明するのではなく, それぞれの社会的背景(労働者の状態とその改善のための闘い), 時々の政治との関わり, 歴代の労働局長の考え方などを織り交ぜて, 詳しく, 経緯を追っている。

統計関係の記述がとくに詳細である。20世紀に入って, 農業統計, 企業統計, 人口動態統計, 公衆衛生統計, 金融統計などの連邦政府統計が作成されるようになったことの説明を皮切りに, 1919年には生計費指数が公表されたこと, この生計費指数作成にあたり, 1917­19年に家計調査が実施されたこと, 20年代に統計機関の数が増え, 国民所得統計作成が本格化したこと, サンプリング技術の導入にともない調査の数が拡大したことへの言及がある。

しかし, 労働統計関連に限っていえば, その質も量もまだ貧弱であり, BLSが毎月発表していた統計は製造業の雇用と賃金, 食料品の小売物価, 卸売物価にとどまっていた。また, 1929年の恐慌に前後して, 政府統計があらゆる方面から批判の矢面にたち, 窮地に陥り, 労働・失業統計も例外でなく, 1930年のセンサスに関連して失業者の規定をめぐる論争(1932年センサス論争)が展開された。その後, 第二次世界大戦遂行の時期と戦後にかけて, 国家の経済と社会への介入が強まるにつれ, 統計に対する需要が高まり, 国民勘定, 物価, 国際収支, 雇用・失業統計などの主要統計が整備, 強化された。1946年は戦後インフレのなかで史上最大規模のストライキがくまれたが, これを背景に生計費指数をめぐる論争が起こった他, 1950年の朝鮮戦争勃発とともに物価スライド制を含む賃金契約が広がるなかで, BLSは暫定消費者物価指数の作成に取り組んだ。

CPIに関しては, その概略(算式は修正ラスパイレス式), 筆者による批判的検討がなされている。主要な内容は, CPIが「都市全消費物価指数(CPI-U)」と「都市賃金・事務労働者物価指数(CPI-W)」の二本立てになっていること, もともとは生計費指数として作成されていたこと(第一次大戦時より), 第二次大戦中の経済の混乱のなかで生計費指数論争がくりかえされ, 後に名称変更されたこと, その後も「スティグラー・レポート」を初めとして指数の検討が繰り返され, 改訂も数度にわたって行われたこと, などである。

 国民経済計算体系に関わる論議の進展とともに指数の性格が変更されていくことへの懸念, 「帰属家賃方式」導入に対する批判が絶えず表明されている。なかでも, 1978年の指数改訂に前後して, BLSが「都市労働者指数」を廃止しようとしたのに対し, 労働組合側からの強い反対で廃止の提案が取り下げられた経緯は, 注目に値する(労働者側は, 指数をたとえば, 現行指数, 退職者指数, 極貧層指数, 給与取得層・専門職指数などを用意すべきことを提唱, しかしこの提案に対しBLSは経費がかかりすぎるとして拒否した)。
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