社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

大橋隆憲「アメリカ統計論の発展過程-「アメリカ統計協会」の活動を中心として-」大橋隆憲・野村良樹『統計学総論(上)』有信堂,1963年

2016-10-17 15:28:53 | 4-3.統計学史(英米派)
大橋隆憲「アメリカ統計論の発展過程-「アメリカ統計協会」の活動を中心として-」大橋隆憲・野村良樹『統計学総論(上)』有信堂,1963年

 筆者はアメリカにおける統計理論の発展過程を5期にわけて,それぞれの期の特徴を示している。第一期は,「アメリカ統計協会」の創立(1839年)から19世紀末まで。第二期は,20世紀直前から1925年まで。第三期は1929-33年の恐慌期から第二次大戦まで。第四期は第二次大戦中。第五期は第二次大戦以降,この本が出版される直前まで。

 第一期(1839-88)は「アメリカ統計協会」の創立(1839年)から始まるが,国状学的な研究が主流だった。協会は機関誌Publication of the American Statistical Society を発行し,全国的な統計研究の普及につとめた。特筆すべきは,統計調査史の分野で,国勢調査(1790年)が初めて実施され,以後10年おきに定期化したことである。アメリカ統計協会の会長はほとんど例外なく,国勢調査に参加し,実施の監督者となった。19世紀後半のアメリカ統計学は,国勢調査を国家権力と確立と強化の手段と位置づけ,それにふさわしい問題の解明に関心を集中した。部分的には標本調査が農作物の収量調査,賃金,物価などの経済統計などに採用された。

 第二期(1888­1925)はその前半と後半とに分けて解説されている。1888年は,アメリカ統計協会の機関誌(上記)が創刊された年である。前半(1888­1914)には,統計学の内容で形式主義化=技術化が進んだ。具体的には,ピアソン流の数理統計学が浸透した。また景気予測を中心とした経済統計,産業合理化の手段としての経営統計学が展開された。筆者は上記のアメリカ統計協会の機関誌に掲載された論文を参考に,人口統計,社会統計,経済統計,労働統計,行政統計の分野での特徴を示している。人口統計分野では人口センサス,人口動態,生命表などの研究がさかんだった。社会統計分野は貧困の状態の統計的研究,富の分配の不平等度の研究,犯罪統計,婚姻・離婚統計に関する研究によって特徴づけられる。経済統計分野では指数研究や鉄道統計の研究が,労働統計分野では賃金や労働時間に関するテーマの研究が,行政統計分野では国家や地方の財政問題,衛生問題,学校教育問題などがとりあげられた。統計学の方向は,政治算術の方向に舵がとられた。

 後半(1914­25)は第一次大戦後から1920年前後までである。この時期の特徴は,人口統計と社会統計の分野での研究の相対的停滞と,統計方法とくに数理的手法(指数論と景気予測論)の長足の進歩である。物価指数論ではフィッシャーによって理想算式が提唱され,景気予測論ではパーソンズ,ハーヴァード景気研究所の仕事が知られている。パーソンズの業績は,アメリカにこの分野での形式主義化を方向づけた。これ以降,記述統計学の内容の一元化と形式主義的整合性の精緻化が顕著になるが,思想的背景としてはプラグマティズムがある。

 第三期(1925­1940)には,資本主義経済の危機を反映して,企業内部への科学的管理法の導入,シューハートの品質管理法が普及した。サンプリング理論への関心がたかまってきたのもこの時期である。推測統計学と標本調査論の発展期といえる。サンプリングや一部調査は,既述のように,それまでにも実施されていたが,1920年代中葉になると明確に確率論的思考を基盤に展開されるようになった。フィッシャーのStatistical Methods for Research Workers が一つの契機で,この著作はユールをして,「相関と曲線のあてはめ」「あらゆる種類の係数」の時期から「推定の問題と有意性の検定の問題との相違の認識」「小標本の総括」「健全な実験計画と分析の基礎の確立」の時期への転換を画するものと賞賛せしめた業績である。ボーレーの社会現象の無作為抽出の精度計算についての報告もこの時期を特徴づける業績である。これ以降も,ネイマンの社会調査への標本理論適用の可能性を促す業績,そのネイマンとE.ピアソンによる仮説検定論と実験計画原理の展開に関する業績が続いた。筆者は,さらにこの時期で触れなければならないものとして,品質管理論の統計的諸手法の開発をあげている。

 第四期(1940­1945)は軍事目的に,各種数理統計的方法ならびに応用統計学的方法が提供された。フィッシャーの業績を受けて発達した小標本の確率分布論は,戦争経済に突入する中で,軍需品生産を主とする大量商品の生産過程における統計的品質管理とその取引過程での抜取調査へ適用された。くわえて,軍事目的で,さまざまな分野で数学的計画課の方法が導入された。オペレーションズ・リサーチ,リニア・プログラミングなどがそれである。筆者はこうした特徴をもつ統計的品質管理論,標本調査論の事例,経済統計分野での生産指数,生産性測定,生計費問題を紹介しているが,いずれも戦争政策との絡みで登場したものばかりである。

 第五期(1945­)には軍事目的のために発展した数理統計的方法が平和時の経済的要求,経営的目的に転用された。経営学の分野でのオペレーションズ・リサーチ,マーケティング,リニア・プログラミングなどがそれである。それらは推測統計学の一般理論の経営学の分野への適用であるが,適用分野の質的な点検の認識を欠いたままに試行されたため,その成果は疑わしいものが多かったようである。1950年以降には,アメリカの統計学は確率論的接近が爆発的に普及し,形式主義化を一層強めた。筆者はその原因をアメリカ独占資本の経済的要求にもとめている。計量経済学の展開もこの時期の特徴である。その展開を決定づけた業績の一つとして,筆者はホーヴェルモの,Econometrica に掲載された論文 The Probability Approach in Econometrics をあげている。これによって,近代経済学と推測統計学の結合は確かなものなった,という。この論文の登場までは,統計解析では時系列分析の特殊手法が詳細に追及されたが,これ以降には各種の推測統計的手法,たとえば最尤法,仮説検定法が積極的に導入されるようになった。アメリカ統計学の最新の発展方向は,多岐にわたり,専門的に限定された分野で示されるようになったとして,筆者は情報理論,ゲームの理論を含むオペレーションズ・リサーチ,待ち合わせ行列論,数学的計画法(線形計画法,非線形計画法),実験計画法,活動分析,品質管理論法,標本調査法,マーケティング・リサーチ,計量経済学,企業経営の計量分析,計量心理学,投入・産出分析などを列挙している。

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