社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

野澤正徳「部門連関バランスの諸形態と固定フォンド(1)(2)(3)」『経済論叢』第101巻第2,3,4号,1968年2月

2016-10-17 21:34:16 | 5.ロシアと旧ソ連の統計
野澤正徳「部門連関バランスの諸形態と固定フォンド(1)(2)(3)」『経済論叢』第101巻第2,3,4号,1968年2月

本稿は経済統計学の分野で,ソ連の最初の部門連関バランス(中央統計局作成:1962年)とその後のバランスモデルの基本性格,特徴と意義,それらの問題点を体系的にとりあげたものである。部門連関バランスといえば西側で作成されていた産業連関表との形式的親近性がとりざたされるが,ソ連では前者の問題点を解決すべく試み(オパーリン表式,ダダヤン表式)が行われていた点に興味が惹かれる。
筆者が本当に取り組みたかったのは,部門連関バランスの数理的側面の意義と限界の解明だったようである。その解明のための基本的視座の確定が本稿の目的である。

 「まえがき」「むすび」を除く,目次は以下のとおり。一見して気づくように,1962年に中央統計局が作成した部門連関バランス(エイジェリマン表式)を基準に,その後のオパーリンとダダヤンによる表式改善の試みが対比的に検討され,その際ポイントになったのが固定フォンドの運動様式であった。

Ⅰ 中央統計局=エイジェリマン表式と固定フォンド
Ⅱ オパーリン多部門表式と固定フォンド
 1 オパーリン表式の構成
 2 オパーリン表式における社会的総生産物と固定フォンド
(1) 社会的総生産物の構成
(2) 社会的総生産物の循環と固定フォンド
(i)生産フォンドの存在量
   (ii)生産手段の価値移転と補填
   (iii)国民所得の分配,再分配,最終利用
(iv)蓄積の部門分割
Ⅲ ダダヤン5部門表式と固定フォンド
Ⅳ 国民経済バランスと固定フォンド    

 中央統計局=エイジェリマン表式は,部門連関バランスの基本形態である。表式の第Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ象限では社会的総生産の価値的物的構成および社会的総生産物と国民所得の循環の諸局面,生産手段(労働対象)の生産と補填,国民所得の第一次分配,再分配および最終利用の諸局面が反映される。しかし,この表式は固定フォンドの存在量を全く捉えておらず,固定フォンドの価値移転,補填,蓄積の部門連関(固定フォンドの諸要素の生産部門別・配分部門別の連関)を十分に表示できていない。

 まさにこの固定フォンドの運動をどのように盛り込むかが,その後の部門連関バランス論の主要なテーマであった。産業連関表は形式的に部門連関バランスと構成が同一であるから,後者も固定資本,生産手段の運動の把握に難点があったが,これを改善する試みはほとんどなされなかった。しかし,部門連関バランス論では,バランスのこの問題点を解消する研究が続けられた。それらの詳細な紹介と検討が本稿の内容である。

 筆者はまず,部門連関バランスの基本形であった中央統計局=エイジェリマン表(1962年)を例に,固定フォンドの回転様式の特殊性を生産的固定フォンドと非生産的固定フォンドとに分けて明らかにしている。生産的固定フォンドに関しては,3つの局面(生産的消費と磨滅,減価償却フォンドの形成,このフォンドによる補填)があること,また社会的総生産物の拡大再生産には減価償却フォンド量が補填価値量を上回る(追加的生産化拡大フォンドの資金源泉)固有の問題があるとの説明がある。非生産的固定フォンドに関しては,生産的固定フォンドの回転様式を擬制し,再生産上の機能としては耐久消費財資料の漸次的消費,国民所得の貨幣形態による積立=蓄蔵,国民所得の最終利用=耐久消費財への支出の過程である。

 オパーリン表式は,素材的視点にたった多部門表式(多翼表式)を特徴とし,この表式は,マルクスの再生産表式を基礎に,社会主義経済における生産,交換,分配,再分配,消費と蓄積の過程を複合的に表すものとして構想された。それは次のような構成をもつ。(1)国民経済の閉鎖表式,(2)輸出入を含む表式,(3)貨幣流通表式,(4)拡大再生産の一般的他部門表式,(5)国民経済の動態モデル。筆者はこのうち第一の「国民経済の閉鎖表式」を検討している。以下はその要約である。

 オパーリン表式は基本行列の「左翼」に各種フォンドの期首の存在量,その流通速度,各フォンの回転額を生産種類別に表示する行列を,「右翼」に生産物の蓄積部分を生産部門別,配分部門別に表示する行列を,「上翼」に所有部門別に分類された諸フォンド(固定フォンド・流動フォンド,消費フォンド)の行列をもつ。この表式は社会的総生産物の構成と循環とともに(エイジェルマン表式に対応),生産フォンド(固定フォンドと流動フォンド)の期首の存在量および蓄積生産手段に関する詳細な生産部門別・配分部門別の部門連関を表示することでエイジェルマン表式の限界の克服を試み,部門連関バランスの具体化と拡張の理論的な定式化である。ただし,筆者によればそこにはいくつかの難点がある。第一は固定フォンド(労働手段)と流動フォンド(労働対象)の回転様式(価値移転と補填の過程)の違いを両者の流通速度の量的差異に還元したため,固定フォンドの漸次的価値移転,減価償却,補填と大修理,減価償却額と補填額との不一致を表式に反映しえていない。第二に,生産フォンドと消費フォンド,とりわけ生産的固定フォンドと非生産的固定フォンドの再生産における機能の相異を看過し,非生産的固定フォンドに生産的固定フォンドと同じ価値移転方式をあてはめる誤りを犯している。

 次に生産物の経済的使途による5部門分割(労働手段の生産,労働対象の生産,消費資料の生産,非生産的固定フォンドの諸要素の生産,国防生産物の生産の5部門)にもとづくダダヤンの部門連関バランスは,社会的総生産物の構成と循環を反映し,その限りでオパーリン表式同様,エイジェルマン表式を踏襲している。この表式はマルクス再生産表式における社会的総生産物の諸要素の規定の具体化として意図され,直接支出係数,総支出係数,直接資本支出係数,総資本支出係数および最終生産物の概念の導入により,5部門分割における再生産諸要素の量的関係を(1)各部門の総生産物の配分関係,(2)労働対象生産部門の総生産物と各部門の最終生産物との関係,(3)各部門の総生産物の増加量と労働手段の投資資源との関係,(4)各部門の最終生産物の増加量と労働手段の投資資源との関係,に関する関数関係の体系として数学的に定式化した。ダダヤン表式の特徴は,社会的総生産物の経済的使の相異による部門分割をバランス表式に導入したこと,この部門分割と生産物の素材的特性による多部門分割とを結合することで社会的総生産物の諸要素の再生産過程をより具体的かつ全面的に反映するバランス表式を構想したことである。また5部門分割にもとづいて労働手段生産部門を独自の部門として区別し,固定フォンドの特殊な回転様式をバランスに反映させる可能性を示したことも特筆すべきである。固定フォンドの存在量の部門別表示,固定フォンドの減価償却の部門別表示,固定フォンドの現物補填と蓄積の生産部門・配分部門別の部門連関表示,また現物補填価値量と減価償却額との差額の追加的生産拡大への利用表示などによって,部門連関バランスの具体化と拡張を試みたことも成果とみてよい。しかし,この表式では非生産的固定フォンドと国防生産物の消費資料としての経済的性格の見落とし,再分局面の表示における所得の再分配経路と最終利用の主体の表示の欠如,「投資」概念の不明確さなどの欠陥をもつ。

 筆者は最後に部門連関バランスにおける固定フォンドの回転の表示方式がもつ意義と限界を理解するために,伝統役な国民経済バランスでそれがどのように反映されているかを紹介している。国民経済バランス体系(7つの主要表と11の付表からなる)に組み込まれている固定フォンドバランスは,主要表,①固定フォンドバランス(摩損を控除した本源的価値)と付表,②固定フォンドバランス(全本源的価値による),③固定フォンドバランス(対比価格の全価値による),④投資バランスからなる。これらの全体で,国民経済の諸部門と社会的所有形態の両面から,固定フォンドの運動はその物的形態にそくした具体的項目によって表示されるが,補填と蓄積の区分の欠如,固定フォンドの存在量,補填,蓄積の部門連関の欠如,部門分類(大分類)のきめの粗さなどの弱点をもつ。
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