社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

成島辰巳「ジェヴォンスの経済分析における統計的方法」山田貢・近昭夫編『経済分析と統計的方法(経済学と数理統計学Ⅱ)』産業統計研究社, 1982年6月

2016-10-17 20:08:42 | 4-3.統計学史(英米派)
成島辰巳「ジェヴォンスの経済分析における統計的方法」山田貢・近昭夫編『経済分析と統計的方法(経済学と数理統計学Ⅱ)』産業統計研究社, 1982年6月

 W.S.ジェヴォンス(1835-1882)は有名な経済学者であるが, 統計研究者でもあり, 経済学の機能的・実証的分野でも多くの業績を残したことを知らしめてくれたのがこの論文である。

 この分野で, 今日まで残されているジェヴォンスの業績には, 物価指数の計算への幾何平均の採用, 半対数表(変化の割合を正確に表現できる)の活用, 季節変動の時系列解析, 経済恐慌の周期を太陽黒点のそれと結び付けた実証研究, など多方面にまたがっている。筆者はこうした業績の数々を, 次のように要約している, 「ジェヴォンスが経済学の研究を始めた当時, 経済現象の統計的研究はやっと始まったばかりであった。彼は多くの問題を, みずからの考察による新しい方法で解決しようとした。その成果が統計学上の遺産として現在もわれわれの統計的研究に役立っている。また, 経済分析による統計利用の普及に果たした役割ははかり知れないものがある」と(p.71)。

実証分野での成果はともあれ, ジェヴォンスの統計学理論はどのようなものだったのだろうか? 筆者はこの点について詳しく論じている。

 それによると, ジェヴォンスはその平均概念に対する見解では, ケトレーの平均概念の影響を受けていたことが知られている。ケトレーは平均を, 実在する平均と実在しない平均とに区別した他, あらゆる事物に偏在する重心に示される平均を実在する客観的平均と認めていた。ジェヴォンスも実在する平均と実在しない平均との区別という点で, ケトレーにならっていたものの, あらゆる事物に偏在する重心を, 実在しない平均に変質させてしまった。換言すれば, ジェヴォンスにとって, あらゆる事物に偏在する重心に示される平均は, 思考の便宜としての「仮説的」意味でしかなかった。

 これには理由があり, ジェヴォンスにあっては, 外的事物はただ相互に外在的に結び合う存在でしかなかった。事物の内在的な, 本質的連関の認識, 客観的法則の存在は, 経験主義の見地から最初から否定されていたのである。

 ジェヴォンスの統計理論のもう一つの特徴は, 確率論の「方法化」, 「便宜的方法化」である。確率論は, ジェヴォンスの科学方法論の核をなす。事物の運動は偶然にゆだねられているのだから, 人間はそれを蓋然的に知るほかはない。事物はまた相互に外在的におかれているのであって, それを捉えるには, 数学や確率を使う以外に方法はない。ジェヴォンスは, このように自然および社会現象を確率によって一元的に認識しようとしたが, それらは必ずしも確率の条件を満足させないので, ジェヴォンスがとった方法は, 確率論の成立する若干の条件を適用対象が満足するものと「仮定」し, その隘路を切り抜けることだった。確率論の「方法化」「便宜的方法化」がこれである。

 誤差法則の適用についても, 同様である。誤差法則に少なからぬ意義を認めていたジェヴォンスは, ラプラス・ケトレーの誤差法則の証明方法を受け入れ, それを物価指数論などに適用した。しかし, 誤差法則への関心の寄せ方において, ジェヴォンスとケトレーとでは相違がある。ケトレーは誤差法則にみられる分布型(正規分布)に着目した。多数個の対象に適用された誤差法則, すなわち正規分布型に現れる平均は, ケトレーにあっては真値, 実在する平均であり, 典型であり, くわえて正規分布における原因機構として, 「偶然的原因」と「不変的原因」とを峻別し, 前者を除去して後者を析出することに努力した。これに対し, ジェヴォンスは, 平均に真値はなく, ましてや実在する平均もない。原因と結果の関係は, 蓋然的継起関係, すなわち時間の前後関係程度のものとして理解された。事象の「不変的原因」は問題とされようがなかった。ジェヴォンスが物価指数論へ誤差法則を適用したとき, 彼はケトレーの設定した原因機構を, 経験主義の立場から修正して, 援用した。ここには誤差法則を「便宜的方法」ととらえる姿勢が顕著であり, そこでの関心は数理的形式の一点に集中していた。

 筆者は最後に総括している, 「ジェヴォンスの科学方法論では, 方法がすべてであった。すなわち, 「方法主義」である。この「方法主義」は受け入れられない。しかし, 一方で, ジェヴォンスはたえず新しい方法を考えつづけた, 半対数図表を考察し, また物価指数の計算に幾何平均を用いることによって物価指数論に画期的意義をもたらした」と(p.84)。
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