社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

宍戸邦彦「インデクセーションと物価指数」『經濟論集』(関西大學經濟學會)第26巻第4・5合併号,1977年1月

2016-10-16 15:38:33 | 9.物価指数論
宍戸邦彦「インデクセーションと物価指数」『經濟論集』(関西大學經濟學會)第26巻第4・5合併号(高木秀玄博士還暦記念特輯),1977年1月

 筆者はインデクセーション(indexation)の意味について,これは指数化と同じであり,物価スライド制,指数リンク制,価値修正,エスカレータ条項と同一概念である,と述べている。過去から物価変動の時期には,貨幣の実質的購買力を維持するために,金条項(gold clause),商品条項(commodity clause),指数条項(index clause)などの導入がはかられた。今日のインデクセーションは,このうちの指数条項(物価が上昇したときに,年金,賃金などの貨幣的支払額の実質価値を安定させるため,将来の支払額を物価指数の変化にリンクさせる方式)の採用である。本稿で筆者は,物価指数の利用過程でどのような論点があったかを整理し,現行のこの指数の限界を明らかにし,賃金インデクセーションの基準指数としてどのような指数が用いられるべきかを検討している。
論述の順序は,客観価値説の観点から一般物価指数が基準指数となるのは不適合であること,インデクセーションの概況,消費者物価指数の賃金に対する基準指数としての限界,基準指数としての生計費指数についての検討,賃金を生産コストとみる観点からの基準指数の選定の問題,となっている。

 物価指数論の課題は,学説史の流れでは,一般物価水準(貨幣の一般的交換価値=貨幣の一般的購買力)の変動の測定から個別物価水準=特定購買力の変動の測定へと移行してきた。筆者の考えでは,貨幣価値をあらゆる諸商品価格の比率の平均で測定する一般的物価指数は一義性をもたず,諸商品の平均化の客観的根拠が与えられないので経済的意味に乏しい。単一の汎用的物価指数は,理論的にも技術的にも不可能である。とはいえ減価する通貨の購買力を測定することは重要である。とすれば,特定の経済活動に必要な貨幣量を測定する特定物価指数にたよらざるをえない。個別的物価指数は,その性質上,定められた目的に応じて特定化された経済活動の範囲ごとに種々の指数がありうる。賃金のインデクセーションの基準指数としては通常,生計費指数や消費者物価指数という指数が採用されるが,そこでは労働力の再生産活動の範囲,あるいは労働者賃金の範囲をいかに限定するかが問題となる。

 賃金インデクセーションの主要な問題は,スライドの基準になる指数の選定である。筆者はここで,各国の例をあげる(以下,本稿執筆時点)。アメリカでは「都市賃金労働者および事務労働者消費者物価指数」である,フランスでの多様な生計費指数,イギリスでの閾値協定による支払とGDPデフレータ,デンマークの「賃金スライド指数」,スウエーデンでの年金生活者用特別生計費指数がそれである。筆者はさらにこの問題の歴史的経緯を掘り起こし,ILOでの議論,日本の統計局の理解を紹介しているが,ポイントは消費者物価指数の対象範囲が当初,労働者階級に限定されていたのが,徐々に消費者一般,全人口と対象範囲を拡大し,それにつれ指数の性格が曖昧になってしまった,と指摘している。「消費者物価指数が一面では生計費指数としての痕跡をのこしながら他方で汎用指数的性格を強めていることは,インデクセーションの基準指数としての利用の限界を与えつつも客観的な適合性をますます乏しいものにしている。賃金インデクセーションの適用範囲は,指数の代表する消費構造とある程度同質性をもった社会階層に限定すべきである。指数化された賃金が過大評価されるか過小評価されるかにかかわらず,基準指数の代表性,すなわち指数世帯とインデクセーション適用世帯との間の生活内容の対応性をたえずチェックしなければならない」(p.230)。階層別指数の必要性の根拠もこの点にある。

 しかし,上記の意味での階層別指数が作成されたとしても,消費者物価指数は賃金インデクセーションの基準指数として限界がある。それは第一に対象品目が消費支出に限定されていること,第二に指数が労働者世帯の生計費の変動そのものを反映しないこと,である。話がこのように進むと,問題なのは生計費スライド指数としての「標準生計費指数」であり,その内容の如何であることがわかる。
 筆者は賃金の調整手段として消費者物価指数を考える場合,賃金を本質的に労働力の価値(再生産費)としてみるか,労働の価格として現象論的にとらえるかが基本的問題であるとする。もちろん筆者が主張するのは,賃金インデクセーションの基準指数としての労働力の再生産費に対応する標準生計費指数である。指数の対象は,労働力の再生産費の費用,すなわち賃金の購買力の範囲として消費支出だけでなく,必要生計費に拡大しなければならない。

 他方,基準指数の選定の問題を,労働力の再生産費の視点からではなく,賃金コストという側面に視点から捉える見方がある。この場合,インデクセーションの基準指数としては,生産性指数が提唱される。企業経営の観点は,これである。この観点からは,賃金を物価指数にリンクする場合にも,消費者物価指数に修正を加えるか,あるいは他の物価指数を選定するか,ということになる。この主張は,賃金は過剰な通貨量の増大によるインフレーションの結果としてもたらされる物価上昇にリンクされるべきで,他の諸要因による相対価格変化(例えば間接税の全般的引き上げ,交易条件の悪化)にリンクされるべきではない,というものである。インデクセーションの目的は物価の相対的変動からの保護ではなく(したがって交易条件の悪化や増税に起因する実質賃金の減少を防ぐことではない),物価の平均的水準の変動から不安定要素を排除し,資源配分の適正化をはかることである。基準指数としては,GDPデフレータが優れている。

 筆者によればこの主張は,インデクセーションの目的との関連で考察すると,消費者物価を国内課税前要素の次元で指数化する方法を支持するものであるから,賃金インデクセーションの基準指数として不適格である(賃金を労務費ないし労働要素費用としてとらえる立場からみれば,賃金は課税前で測定されるべきであるから消費者物価指数から直接税はもちろん間接税も除外するのが望ましいとされる。なお,GDPデフレータの問題は別途論ずるとしている)。
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