社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

横本宏「物価統計」『統計学』第30号,1976年3月

2016-10-16 15:33:56 | 9.物価指数論
横本宏「物価統計」『統計学(社会科学としての統計学-日本における成果と展望-)』(経済統計研究会)第30号,1976年3月

 物価統計論といえるものは,ほとんどが物価指数論である。筆者は経済統計研究会会員の研究成果をこの観点から展望している。内容によって類別すると,成果を3分類できる。第一は主観価値説にもとづく物価指数論批判,第二は客観価値説にもとづく物価指数論の展開,第三は現行物価指数(主として消費者物価指数)批判である。本稿では,このうち第三のものが取り上げられている(1975年頃までの成果から)。筆者はこの第三の区分に関わる論点をメインテーマとし,あわせて現行消費者物価指数の意義の考察,関連して価格調査についての批判的考察を念頭に入れるとしている。

 まず現行消費者物価指数の批判であるが,これらは石田望,高木秀玄,滝好英,玉木義男,松村一隆,山田貢らによって行われた。なかでも石田望が精力的に取り組んだので,筆者はその内容を紹介している。消費者物価指数の作成は①指数品目の作成,②価格調査,③品目別価格指数の作成,④総合指数作成の過程をふんで行われるので,それにそくして問題点が摘出されている。①指数品目の作成では,「平均消費世帯」という用語の曖昧性,消費支出以外の費目(住宅,宅地の購入費,税金,社会保険料,仕送り金など)が算入されないこと,特定の具体的商品の代表性があやしいものがあるとして指摘している。②価格調査では,調査の中身がガラス張りでないので,よくわからないのが実情であるとされる。データが売る側からとられることも再検討されなければならない。③品目別価格指数の作成では,調査店舗の変更,銘柄変更にともなう指数の接続の問題が重要である。これについてもデータの公開は十分でない。④総合指数作成は,店舗別,時期別,地域別などの平均を重ねた価格データの算出になっていて虚構の計算である。一本化された指数では,物価上昇が国民階層にいかに影響を与えるかを知ることはできず,こういうところから階層別物価指数の提案が出てくる。

 それでは消費者物価指数は何を測定しているのだろうか。筆者はこの問題を設定し,それに対して,消費者物価指数はしばしば指摘されるように,「貨幣価値」変動の直接的な指標たりえない,また諸商品価格の平均的総合的運動を一般的に示す指標ともいえない,だとすると現行消費者物価指数の意義は諸商品価格の変動が生活に与える影響を示す指標であることにあると言わざるを得ない,と応えている。一種の生計費指数である。しかし,そうは言っても,消費者物価指数がいかなる意味で生計費指数なのかは,十分明確に位置づけられていない,と指摘する。

 現行消費者物価指数は,固定バスケット指数,換言すれば同一生活水準生計であるともいわれる。この同一生活水準を同一効用とか同一満足に置き換えるところから主観価値説的生計費指数論,物価指数論が生まれてくる。ここで石田望の言うように,同一効用指数と固定バスケット指数を主観価値説内部の対立とみるのは誤りである。2つの指数は生活水準を客観的に規定するか,主観的に規定するかとの対立と考えなければならない。さらに重要なことは,現実には異なった家計支出の組み合わせをもち,しかも同一満足を保障する生活を具体的に規定することはできない。それゆえに,どの国もこの種の指数作成に当たっては,固定バスケット方式を採用せざるをえない。石田によれば,このような指数は欠陥があり,その欠陥の修正が効用主義では不可能なので,生活内容の変化,生活水準の変化を含んだ実態生計費指数を物価指数とすべきとしているが,筆者は石田のいうような指数は,家計調査の結果をそのまま指数化したものになるはずであり,それはどんな意味でも物価指数ではない,固定バスケット方式指数が擁護されなければならない,もしそういう指数を考えるなら併用すべきと,述べている。

 関連して,筆者は価格統計の脆弱性に触れている。現在の価格統計は物価指数作成の方向でのみ体系づけられている。独占価格の例を一つとっても,現在の価格統計はほとんど用をなさない,というのが現状である。唯一問題提起をしているのは,大橋隆憲「商品と商品統計」(『統計学』19号,1968年)である。この論稿は,日本標準商品分類を論じ,わが国で作成されている価格統計(価格表)の検討を行い,そこでの調査品目の決定が形式的であること,数値が幾重にも平均化されていることなどの問題点に触れ,同時に卸売価格表のうち企業規模別集計結果が独占価格分析に手がかりを与えるとして,その積極的利用を示唆している。
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