社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

山田喜志夫「物価指数の基礎理論-価値形態論と物価指数-」『国学院経済学』第16巻第4号,1968年

2016-10-16 11:57:24 | 9.物価指数論
山田喜志夫「物価指数の基礎理論-価値形態論と物価指数-」『国学院経済学』第16巻第4号,1968年

 現行物価指数は,そもそも何を測定しているのか。商品価格の変動の平均なのか,貨幣価値なのか,生計費なのか。実は,よくわかっていないという。
物価指数の基礎にある経済学の理論には,原子論的方法にせよ関数論的方法にせよ,どちらも主観価値説に依る。他方,客観価値説に・労働価値説にもとづく物価指数論には蜷川虎三のそれがある。しかし,蜷川以後,その立場からの展開はない。

 本稿は蜷川の業績を継承し,曖昧だった物価,貨幣の価値などの諸概念を明確にし,物価指数の経済学的意味を解明した論稿である。議論の順序はまず蜷川物価指数論の検討が行われ,以下,商品価格の総合概念としての物価を構成する価格の諸類型の範疇規定,物価指数が貨幣価値の変動の表現形態たりうるかの価値形態論検討,生計費指数という意味での物価指数の検討となっている。

 蜷川は客観価値説に立脚して物価指数論を展開することを意図した。蜷川は物価指数の研究では,商品価格の分析がまず必要であると強調する。そのうえで,物価指数の目的は,価格比率の構成内容から貨幣自体の価値の変動率を抽出すること,商品価格の比率の平均方法は各商品の価値の変動率を除去するためのものでなければならない,とする。蜷川物価指数論の意義は,労働価値説にもとづいて(価値論的規定によって)商品価格の分析を行い,物価指数を経済学的に規定したことである。しかし,他面で議論が価値論次元でとどまっていたこと,貨幣における価格の度量標準機能の問題を欠いていた。

 一般に物価は個々の商品の価格ではなく,価格を総合化したもの,平均化したものを意味する。実際の物価指数を構成する価格には,労働生産物である商品の価格,サービスの価格,家賃が含まれる。それぞれは異なる性格をもった価格範疇である。物価とくに消費者物価は,異質な価格の総合概念である。これらのうち,労働生産物である商品の価格には価値があり,交換関係のなかで価格の形態をとる。したがって,その変動は,商品の価値の変動,貨幣商品の価値の変動,価格の度量標準の変動,市場における需給関係(好況・不況の度合,独占価格など)の4つの要因によって規定される。理論的にはこのように説明できるが,商品の価格の変動現象それ自体はこれら諸要因の複合作用によるので,実際にはいずれの規定要因で価格が変動したのかはただちにわからない。

 サービスの価格は,サービス労働そのものの使用価値が取引され,その労働自体に価値があるわけではなく,その対価が価格形態をとって支払われるだけである。サービスの価格には,サービス提供を維持するにたる必要な経費(サービス施設の維持費,賃金,平均利潤)が含まれる。資本主義経済社会では取引の形態に入る一切のものが価格をもつので,サービスも擬制された価格形態をもつ。したがって,サービス価格の変動は労働生産物である商品とは異なった形態をとる。家賃は,建設地代によって決まる。その上昇のメカニズムは,建設地代のそれに帰着する。

 物価指数は貨幣価値の変動を表現するものである。それでは貨幣価値の変動はどのように決まるのであろうか。筆者はそれを価値形態論で説明する。結論的に言えば,貨幣価値は商品全体の使用価値量の無現の系列で表現される(相対的価値表現)。しかし,事柄の性質上,貨幣のこの相対的価値表現は,その表示系列が無限であるが終結することがないので未完成である。したがって,貨幣価値は,統一的現象形態をもたず,その限りでは漠然としたものである。

 貨幣価値の変動は,この性格を受け継いでいる。それは諸商品の価格の変化,すなわち各商品の価格の比率によって逆比例的に表現され,ここでも各商品の価格比の無限の系列として表現されざるをえない。貨幣価値の変動はこのように諸商品の価格の変動によって表現されるが,後者は既述の四要因によって複合的に規定される。これを貨幣側から表現すれば,諸商品価格の変動で表現される貨幣価値の変動は,貨幣の絶対的価値(金の価値の大いさの現実的変動による貨幣価値の変動),実質的価値(金そのものの価値の変動にもとづく貨幣価値の変動),相対的価値の変動(商品の側の原因にもとづく価格の変動の結果としての貨幣価値の受動的変動)の複合ということになる。

 それでは貨幣価値の変動を表現する各商品の価格比の平均とは何を意味するのであろうか。そもそも諸商品価格の比率を平均するという操作は,客観的根拠があるのだろうか。これも筆者の結論を拝借していえば,諸商品の比率の平均は単純平均であれ,加重平均であれ,操作の対象それ自体に平均化運動が存在しないので,承認されえないものである。諸商品の価格の比率の平均としての物価指数形式は,ひとつの虚構であり,経済学的に意味のないものである。

 筆者はこうした結論を得た上で,貨幣の絶対的価値の変動,その実質的価値の変動,その相対的価値の変動について付言している。それによると貨幣の絶対的価値の変動は産金部門の労働生産性に指数で近似的に把握でき,貨幣の実質的価値の変動は価格の度量標準の変動の比率で表示できる,貨幣の相対的価値の変動は限定つきで景気変動による諸商品の価格の騰落を反映する。物価指数は貨幣価値の変動の指標たりえないが,貨幣の相対的価値の変化を表現するかぎりで景気変動の指標として限定的意味をもつ。

 最後に筆者は,物価指数を生計費指数とみなすことはできないと述べている。指数計算のウエイトは家計調査のデータによるのであるが,その支出内訳は家賃地代にせよ,教育費にせよ,耐久消費財にせよ,千差万別の消費者の家計の中身を平均したもので,ほとんど意味のない数字である。ありうるとすれば種々のグループ分けされた生計費指数である。実質的意義をもつ指数は,所得階層別,住居種類別,教育費負担別などの類型別の生計費指数のみである。   
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