社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

中江幸雄「ロシア版SNAと資金循環表」『経済体制論のフロンティア-新制度主義からみたシステム改革とロシア分析-』晃洋書房,2001年

2016-10-17 21:49:51 | 5.ロシアと旧ソ連の統計
中江幸雄「ロシア版SNAと資金循環表」『経済体制論のフロンティア-新制度主義からみたシステム改革とロシア分析-』晃洋書房,2001年

 本稿は旧ソ連解体(筆者は解散と書いている)後,移行期にあったロシアのマクロ的経済統計SNA作成の経緯,この国の当時の経済水準を把握するためのこの統計の概要とその勘定および試験的資金循環表の解説を意図している。
1991年末以降,ロシアではそれまでのソ連国家統計委員会がCIS統計委員会に名称変更され,さらに国家統計員会(ゴスコムスタト)が実質的に統計改善の課題を引き継いだ。ゴスコムスタトは90年代前半に西側の統計基準に準拠するように統計制度・体系を改善するが,なかでも重要だったのは国民経済計算体系のMPSからSNAへの移行であった。

 ロシアが独自のSNAを初めて公表したのは,1995年である。これは93年に国連が各国に新SNA基準による経済計算体系の作成を勧告したのを受けて作成されたもので,その計算結果はIMF,OECD,世界銀行でも認められた。それ以降しばらく,ロシアは毎年,前年の経済循環表を追加発表した。筆者は98年に公にされた『ロシア国民勘定統計集』(RSNA)によって,ロシア国民勘定体系の特徴点を浮き彫りにする。

 RSNAは国連93SNAに準拠したとはいえ,多くの点で異なる部分があった。筆者はそれらを列記している。(1)GDPの生産の範囲では,生産活動には非市場経由(無償または低価格での)の商品・サービスが含まれる。家計の生産活動は,それが販売されたかどうかにかかわらず,全ての生産物の生産を含む。ただし,自家消費のために家計によりなされたサービスは生産の範囲に入らないが,持ち家の居住による帰属家賃は含まれる。家庭菜園などの自家消費部分は生産の範囲に入れられたが,SNAではそれは推計されない。この点が大きく異なる点である。(2)市場経済移行諸国は市場で評価されない生産活動部分の割合が大きい。このインフォーマルな生産は3タイプある。第一は合法的だが課税回避のための隠された,あるいは過小評価された生産活動,第二は非登録のインフォーマルな関係にもとづく個人的生産活動,第三は麻薬や武器の密輸といった非合法活動である。RSNAは第一と第二のインフォーマルな活動をGDPでカウントするが,第三のものは推計から除外している。SNAはこの部分をGDPにカウントする。

 筆者はこのほか。制度部門分類,評価原則でのSNAとの相違を明らかにしている。相違が出てくるのは,ロシアの国民勘定統計における推計上の未熟さ統計情報の不足による。

 ロシア版SNAの特徴を筆者は,3点にまとめている。第一は固定資本減耗が明示されなかったことである。そうなった理由は,固定資本の時価評価が全てにわたり評価されていなかったからなのか,減価償却率の計算値が統一されていなかったからではないか,と推測されている。第二に「雇用労働者の隠された賃金」の推計が部門・活動種類・領土の区分なしに経済全体でなされていることである。第三に,一般政府支出が個人的商品・サービスへの支出(教育・保険・文化などの対個人政府支出とそれらの無償サービスを提供する企業・団体の支出)と集団的サービスへ(防衛支出,非市場的な科学への経費など不特定多数へのサービス支出)とが区分されている。

 筆者は1998年にゴスコムスタト経済分析局のスタッフがRSNA(1998)のデータをもとに試験的に作成した「1995年国民勘定統合表」の簡略表示を利用し,1995年のロシアの経済循環を説明している。内容は,国民セクターによって生産された総付加価値の配分,非居住者への賃金支払いのためのロシアからの資金の純流出,「財産所得」の非金融操作による「非金融法人企業・NKO」セクターからの資金流出,直接税による一般性政府の歳入,社会保険による予算外ファンドの所得,家計の実際的消費,固定資本減耗の考慮のもとでの「非金融法人企業・NKO」の純貯蓄,家計の純貯蓄,「非金融法人企業・NKO」セクターの固定資本減耗などである。

 最後に筆者は,ゴスコムスタト経済分析局作成の1995年ロシア資金循環表(試験的計算)を使って,次の結論をひきだしている。第一に,1995年に現金・当座・計算勘定,預金の増大による「金融機関」セクターへの資金流入は,GDPの7.42%であった。金融機関はこの資金を国債購入や企業への信用供与に利用した。第二に信用により限定された資金流入は,他の経済セクターに対する非金融セクターの延滞債務の増大を刺激した。第三に,資金フロー構造の分析は,セクター間での所得再分配に最も重要な役割を演じたのが一般政府だったことを教えている。第四に,純流出入の概念を活用して資金配分メカニズムを分析すると,1995年に形成された資金配分システムは資金不足の融資源として他の経済セクターに対する非金融セクターの延滞債務の増大を刺激している。「延滞債務」の項目がこの事情を示している。

 なお,この分析に先立ち,筆者はロシア版資金循環表作成の経緯,特徴と問題点,また93SNAにおける資本フロー勘定の2つのタイプに言及している。
ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 中江幸雄「ソ連経済統計をみ... | トップ | 山口秋義「中央統計局の成立... »

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む