社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

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北川豊「民主主義政治と統計制度」『統計情報』第26巻第5号,1977年5月

2016-10-08 21:42:21 | 11.日本の統計・統計学
北川豊「民主主義政治と統計制度」『統計情報』第26巻第5号,1977年5月

戦後の民主主義の確立過程で,統計制度,統計行政の再建は始まった。そのポイントは筆者によれば,①民主主義政治が行われるための社会経済に関する事実認識資料としての統計の整備,②主権者たる国民に対する統計の開放,非民主体制への統計の逆行の防止,③地方自治と国の統計制度との有効な結合の樹立,である。本稿の課題は,これらの諸点が統計制度再建事業のなかでどのように形成され,どのように展開されてきたのかを考察することである。  

 最初に昭和22年(1947年)に施行された「統計法」と統計制度の民主主義的再建との関連が述べられている。①民主主義政治が行われるための社会経済に関する事実認識資料としての統計(統計の質)に関しては,統計法の第一条に「統計の真実性の確保」「統計体系の整備」として書かれている。統計法はこの目的を実現するために多くの条文をもつ。統計体系の整備に関しては,いかなる統計を供給するかが,換言すれば統計の表象事項,表象事項相互の関連性が問題となる。この問題は統計法では統計の重複の排除,指定統計としての人口に関する国勢調査に関する条文があるのみで,結局,体系の整備に関しては法の運用,運用する主体である統計委員会(行政管理庁-当時)の判断にゆだねられた。

②主権者たる国民に対する統計の開放,非民主体制への統計の逆行の防止に関しては,指定統計の速やかな公表,行政機関による恣意的な統計徴収と利用,統計の歪曲の防止が意図されている。言い換えればそれは,統計の中立性の確保という問題である。統計法には,この問題を自明のこととして,真実性の確保,結果の速やかな公表以外の規定がない。

③地方自治と国の統計制度との有効な結合の樹立に関しては,統計法下の態勢は初めから弱点をもっていた。統計の真実性の確保のための一元的集中的地方機構が強調され,都道府県,市町村はセンサス調査の中間実査機関として位置づけられた。

 統計は時代の社会経済体制の制約を受けながら作成される。統計制度は具体的にどのような展開を遂げてきただろうか。筆者はこの問題を,(1)統計の真実性の確保および体系の整備の観点から,(2)国民に対する統計の開放,非民主主義体制逆行の防止の観点から,また,(3)地方自治と国の統計制度の有効な結合という観点から,述べている。前者については,統計委員会のメンバー構成が,当初は社会科学研究者中心だったのが次第に統計主管部局長のウェイトが高められていったことで,各省の利害が前面に出るようになり,それを超越した立場からの判断で整備を行えなくなった。また,重要統計の企画に関しても,統計委員会の権限が弱められた。
(1)統計の真実性の確保および体系の整備の観点から

 筆者は高度成長期の統計事業,統計体系の整備が,国民所得統計(経済理論),サンプリング(統計技法),高性能コンピュータ(データ処理技術)の三位一体を軸として展開された,とみる。これらのうち国民所得統計,より正確には国民経済計算体系の特徴は,次のようである。①基礎データの多様性と集計値の集合性・一様性・単純性,②全体性・包括性,③整合性,④迅速性。

国民経済計算に傾斜した統計の在り方には,いくつかの懸念がある。①に関して,統計の個別性,多様性が軽視されがちになる。②に関して,その追及は全体の合計,総平均をもとめればよいという考え方に通じるが,この措置によって個別の不平等性が隠されてしまう。③に関して,整合性確保のために追加的新規調査が企画され,統計調査が煩瑣になる。④に関して,センサス軽視,サンプル調査重視の傾向が生じる。関連して,統計の真実性確保との関連で,統計調査環境の悪化という問題がクローズアップされているとの指摘がなされている。
(2)国民に対する統計の開放,非民主主義体制逆行の防止の観点から

 ここでは,上述の統計調査環境の悪化を打開するために,国民による統計と調査の重要性,必要性の理解が喫緊の課題であり,そのために統計資料の公開,統計企画過程に国民各層が参加できるシステムづくりが提案されている。
(3)地方自治と国の統計制度の有効な結合という観点から

 この点に関しては,筆者の見通しは悲観的である。そもそも,そこには,戦後の統計制度再建が中央集権的であったこと,地方財政基盤が弱く自治体独自の統計調査を組みにくいこと,などの問題点が介在しているからである。
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