社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

大屋祐雪「わが国の統計事情(1)(2)(3)」『唯物史観』第3号,1966年;第5号,1967年;第6号,1968年

2016-10-08 21:26:13 | 11.日本の統計・統計学
大屋祐雪「わが国の統計事情(1)(2)(3)」『唯物史観』第3号,1966年;第5号,1967年;第6号,1968年

 旧統計法のもとでの日本の統計の実状について整理した論稿。本稿には,二つの特徴がある。第一は統計の実状を,資本主義的階級関係,その社会体制によって規制された統計作成の特殊歴史的技術構造と関連させて論じていることである。第二は叙述の順序を業務統計から始め,以下,調査統計(指定統計),任意統計という順序になっていることである(通常は,調査統計から始めるものが多い)。

 筆者は最初に,若干の予備的考察を行っている。まず統計調査の定義である。統計調査は,すべての労働行程がそうであるように,人的・物的要素を担って進行するが,その特殊性として調査主体が調査客体に働きかける作業形態をとるということがある。同時に統計作成過程は,組織的技術的側面と歴史的社会的側面との統一的作業過程である。調査主体,調査客体,調査運用組織は,この統計作成過程を構成する人的,物的要素の中で,資本主義的社会経済体制からその存在を規定されている。したがって,政府統計の利用にあたっては,その統計がどのような社会的諸関係のなかで,いかなる作成過程を経て生産されたものであるかの吟味が必要である。

 本題に入って,業務統計,調査統計,任意統計(届出統計,承認統計)の検討である。業務統計は,統計作成を目的としない日常業務で確認ないし記録された事象に関する記録や計数から,業務上の下部機構を調査客体として,上意下達の組織系統で作成される統計である。調査主体となりうる分子,調査客体となりうる分子は,「政府機関」「企業」「組合」「その他の団体」の四つである。業務統計はかつて第二義統計の俗称とされたが,前者の名称を使う方が理に適っている。

業務統計のうち調査主体が政府であるものは,「政府業務統計」と呼ばれる。行政は(1)現業または現業的なものに関わる業務,(2)保安事務・公安的機能に関わる業務,(3)行政の監査・監督,(4)審査・決定・交付の事務にまとめることができ,その他,司法事務にかかわる業務がある。これらの業務では業務記録が残されるので,経常的ないし臨時的に業務統計の作成がなされる(税務統計,郵政統計,職業安定統計,司法統計)。他に法令によって定められた届出,申告やその他の処理記録にもとづく業務統計(人口動態統計,外国貿易統計など),公社・公団の業務統計,政府金融機関の勘定統計も「政府業務統計」に含まれる。(第二義統計に関しては上杉正一郎の分類があり,筆者は参考にそれを引用している)

「政府業務統計」に関して,筆者は次の注意点を指摘している。(1)業務統計は記録された事件ないしは事項のみを反映した数字で,それ以外のものはカウントされない。(2)虚偽の届出,不正申告による認証,許可ないし課題申告,過少申告があるところでは,出てきた数字は信頼できない。(3)業務統計に使われる概念,用語は,社会科学のそれらと食い違っていることが少なくない,しかし,それはそれとして利用価値はあるので分析者が工夫するべきである。(4) 「政府業務統計」は発表の義務がないので,どのような関連統計が作成されているかについては調査が必要である。

 業務統計には,「政府業務統計」の他に「民間業務統計」がある。「民間業務統計」は資本主義社会における生産・販売の担い手が経営の内部組織や業務を掌握するために作成するものが主である。これには各種の報告書(=経営業務統計)がある。この変種である商品取引や証券取引所,手形交換所などの業務統計もあり,これらも「民間業務統計」に入れてよい。この他,業界や上部団体が会社の業務統計を集めて作成する統計があり,これらの統計は民間統計の主要部分であるが,統計の作成系列からいえば,調査統計の範疇に属する。

 ところで資本主義社会では,業務統計で把握できる範囲はごく限られた分野でしかない。そこで独自の調査統計が必要になる。資本主義が発展し,内在的矛盾が顕在化すると,それらを調整するための種々の経済政策,社会政策が必要になり,経済分析や経済計画も人々の関心事になる。それらに応える統計は,調査統計として作成される。その作成過程は,調査計画→実査→集計→表示を手続過程とする独自の「統計調査」を必要とする。
調査統計には,「政府調査統計」と「民間調査統計」がある。「政府調査統計」には,指定統計と任意統計があり,後者はさらに政府報告調整法による統計と届出統計調査による統計とに分かれる。調査統計では調査主体と調査客体との関係は一時的関係である。ここでは主体と客体が日常の業務と関わりなく向かい合う。そこで調査客体(被調査者)にとっては,「全く非生産的な申告行為」以外の何物でもなく,とりわけ国家権力を背景にした政府統計に対しては「調査される」という被支配者感情や利害意識がともなう。したがって,政府にとっては,統計調査に関して,どのような機関がどういう統計を作成し,統計の真実性をどのように確保するかが大きな課題となる。以上の点を確認したうえで,筆者は急いで日本の統計制度の特徴として分散的中央集権型であることに,また統計の真実性確保のために施行されている「統計法」(これが定める指定統計制度)があることに言及している。

政府の重要な統計が統計調査にもとづいて作成されるとき,指定統計制度は調査の円滑な実施を約束し,そのことが統計の真実性の保障になる。しかし,指定統計は政府統計のなかでしめる比重は大きくない。非指定統計が大部分である。これは法的側面からみると,「統計報告調整法」にもとづく報告統計と,「届出を要する統計調査の範囲に関する政令」の対象となる届出統計とからなる(両者は「任意統計」である)。指定統計は,統計の真実性確保のために調査主体に調査権限が付与され,被調査者に申告を義務付け,さらに申告内容についての秘密保護,およびその違反に対する罰則規定が設けられている。これに対し,任意統計にはそれらがない。申告内容の真実性は,当該調査にたいする申告者の「自由な協力」に依存する。
 報告統計の特徴は,次のとおりである。(1)調査される部門が,いわゆる経済統計が大部分である。(2)調査単位は,ほとんど事業所ないし企業である。(3)報告をもとめる経路は,各省庁⇔(地方機関)⇔申告者で,ほとんどが郵送法,自計主義である。(4)周期性の観点から言えば,報告統計の7割が定期的実施である。

届出統計の特徴は,次のとおりである。(1)「中央」にくらべ「地方」(地方公共団体の届出統計)の比率が圧倒的に高い。(2)報告統計より調査の定期化の比率が高い。(3)公表率が高い。

 筆者は最後に「民間調査統計」,すなわち企業(市場調査),組合(組合員の意識や生計に関する調査),その他の団体が主体となる統計(研究者個人が行う調査,正確には統計調査ではなく実態調査)に触れている。他に企業の上部団体(日本石炭協会,日本鉄鋼連盟など)⇔単位企業の関係として作成される報告統計が重要である。

付属資料として,筆者作成の「わが国の任意統計(中央の部)」の一覧表がある。
筆者は本稿のなかで次の指摘をしている。「こんにちの社会統計学は事態の進展にいちじるしく立ち遅れている科学の一つである。しかも,多くの人々は半世紀この方その体系と概念を墨守し,統計学と統計事情の歴史的被規定性の側面をみようとしない。いな,みようとしても,みることができないのが,これまでの伝統的な見解,すなわち統計学=社会科学方法論説の立場である。/私は統計学にかんして社会科学方法論説の立場をとっていない。したがって本稿でも全く別の立場(反映=模写論の立場-引用者)から考察をすすめている」([1]のp.227)と。
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